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第26話 ミーニャとラルファ

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 顔を青褪めながらも、その女騎士?はパトリシアに対し、弟の敵と唸りながら斬り掛かった。手を叩かれて咄嗟に後ろに下がった為少し距離が空いていたが、すかさず再度突進したのだ。

 しかし剣の間合いに届く寸前の所で突進を止め、咄嗟に後ろに飛び下った。

 パトリシアの目の前の地面に数本の氷の矢が刺さったからだ。パトリシアは扇子を広げ、それで戦うつもりだ。
 侮るなかれ。ダンジョンのドロップ品で、ライが和服に似合うなと渡しこそしたが、魔力を流すと短剣、刃のついた扇子へと自在に変化するミスリル合金製の一品だ。

 誰の仕業か分かったようで、その女騎士?はちっと舌打ちをした。

「そこまで!双方お止めなさい。特にラルファ!貴女は少し落ち着きなさい。貴女らしく無く冷静ではないようですが、一体どうしたというのですか?それに怪我人や女子供を相手に何をしているのですか!?まったくもう!」

 ライは思わずその女性を見て頭を撫でたが、即時に手を叩かれた。

「何をしているのですか?貴方もです。これは後で謝罪してもらいますが、もう少し場の空気を読んだらどうですか?因みに私は貴方と同じ年ですから子供扱いしないように」

 小学生位にしか見えなかったからライはついつい場を鎮めたこの子にえらいねーと言おうとして頭を撫でていた。
 頭一つ分小さいので誰かの妹かと思ったのだ。

「しかしミーニャ、この者達は私の弟を、」

「お黙りなさい!リーダーである公爵家の私がお止めなさいと言っているのです。それにこの方達は嘘は言っていません。又、善良な方達ですよ。ライ様、ラルファが大変失礼致しました。今貴方が私にした無礼を不問にする事で手打ちとしますが、それで良いですわね?」

 ライは思わずうんと頷いた。
 そう、思い出したのだ。今回ダンジョンに挑む学園生の中で一番の上級貴族が公爵家の令嬢だというのを。

 そしてライは狼狽えた。勘違いからとはいえ上級貴族の子女の頭を撫でたのだ。それにこの小さき女性に気負され、ついうんと頷いていた。パトリシアは再度ライに制止されていたので防御のみにし、反撃を控えようとしていた。

「ご、ごめんなさい。僕はそれで良いので許してください」

「あら?意外と殊勝な方ですのね。うふふ。どうせ貴方も私の事を子供だと思ったのでしょ?いつもの事ですから、今後気を付けてくださればそれで良いですわ。宜しくて?」

 ライは頷くと、背嚢から子供向けの装備品を出した。小さいのでライ達には装備出来ないが、中々のマジックアイテムだ。

「お詫びにこれをどうぞ。4階層でゲットしたアイテムです。僕らにはサイズが合わないですが、ミーニャさんになら合うのではないですか?サイズは小さいですが、デザインは落ち着いた大人の女性向けですし、ミーニャさんに似合うと思います。魔法属性反射40%の中々の一品ですよ」

 そう言いながら一枚のスカーフと腕輪を出し、ミーニャに差し出した。ストールにしては小さいのでスカーフと判断した。この装飾品はセット品なのだ。

 ミーニャは躊躇う事もなく手に取り、確認した後にこやかにライの手に戻し、ライに背中を向け、首を傾げた。

 ライは意味がわからず???だったがミーニャが呟いた。

「何をなさっているのですか?さあ早く私の首に巻いてくださいませ」

 周りの者は驚いていた。気位が高く、人に背中を向けるなど考えられない人物が首を差し出し、スカーフを巻くように言ったのだ。ライは躊躇わずにその小さな首にスカーフを掛け、整える為に前に回った。

 失礼しますとスカーフを胸の前で整え、胸元に少し垂らした。途中少し胸に手が当たったのだが、真剣にしていたのでミーニャは怒らずに黙っていた。

 ライはあら?意外とボリュームがあるなとまたもやしょうもない事を顔色一つ変えずに堪能していた。また、項のそれは年相応に魅惑的で、生唾をごクリトするのを堪えるのがやっとだった。顔はたしかに可愛い感じで童顔なのだが、なかなかの美形で、近くでよくよく見ると、年相応な少女だと、同い年なんだなとわかる。その為、異性として意識し、惹かれつつあった。勿論ダンジョンの影響から、同時に複数の女性を好きになっており、ダンジョンの影響が抜けた後は新たな女性に目移りする事はないのだろうが、この後ダンジョンの影響が大きく出てくるのを今は知らない。

 ミーニャはライバルと認識しているライを間近で見たかったのだ。その為、現段階ではそれを悟られないようにしている感じの慎重派だ。部下に調査させていたのだが、報告されたライの人となりと今見たライがあまりにも掛け離れており、反応を見ていたのだ。ただ、誠実な態度にちょっと素敵かもと、たしかに強い人なんだなとライバル心は薄れていた。

 更にクリエイティブで作った手鏡を出し、ミーニャの手を取り握らせた。自分が転生者だと言う事を思い出す前に、何故か鏡の構造を知っており作っていたのだ。ミーニャは勝手に手を握られた事に対して抗議を仕かけたが、己の手に有る物を見て驚き、言葉を失ったのだ。なんとかなりの大きさの手鏡だからだ。丁度CDの大きさだった。

 この世界では鏡はかなりの貴重品で、ミーニャの家にもあるが、公爵家のミーニャの所でさえこの鏡の半分位の大きさの鏡しか所有していない。姿見になると一般人の家がダースで買える値段になるのだ。この大きさの鏡でさえ年収が飛ぶのだ。しかもお金を出せば買えると言う代物でもなく、価格も大変な事になっている。

 ミーニャの胸は決して大きくはないが、小さくもなかった。身長は低いし、幼い顔立ちだが、よく見ると目が鋭く、どきりとるすような目だ。それに体つきは大人と遜色ないのが分かった。

「これが私?ライ様、ありがとうございます。先の貴方の無礼を赦しますわ。それに貴方は紳士なのですね。彼女達が貴方に惹かれたのも無理ありませんわね。うふふ。今後共宜しくお願いしますね。あら、もう時間ですわね。さあ私達もダンジョンに参りますわ」

「あっ!ちょっと待ってください。今インターバル時間を1時間まで伸ばしました。これが最大ですが、ミーニャさん達が挑む前に可能な限りダンジョンについて説明と、設定を少しいじってみます」

「驚きました。そのような事が出来るのですね?」

「ははは。あのう、厚かましいようですが、この3人を暫く僕以外の男のいない所に隔離してくれませんか?」

「どうかなさったのですか?確かに辛そうですわね。」

「その、耳を拝借してもよいですか?」

 ミーニャが頷いたのでライはミーニャの耳に手を当て、ボソボソと伝えた。

「オリオン!彼女達をライ様が良いと言うまで隔離なさってください。ライ様を除き、男性を近づけてはなりません。私達がダンジョンから出た時も同じようにライ様以外の男性から私達を隔離して下さい。これはライ様の指示に従い、私が何を言っても無視して下さい。ダンジョンに入るとダンジョンに精神を汚染され、しばらくの間支離滅裂になる恐れがあります。確かに過去に何度かダンジョン生還者による醜聞が有りましたが、そう言う事だったのですね」

 ライはダンジョンの内部で発生している媚薬効果について話し、ミーニャが頷いていた。勿論メアリー達に手を出していないと言ったがヘタレと言われた。えっ?と唸ると冗談だと言われた。

「ふふふ。私からのちょっとした意地悪ですわ。ライ様の困った顔が見たかっただけですわ。私と違い彼女達は大事にされているのですね。こほん。所でこの女性は何者なのですか?今回のダンジョン探索メンバーでは有りませんよね?確かライ様のパーティーは男4名、女2名でしたわね?」

「ええ、話せば長くなりますが、勇者キョウコの相棒のドラゴンで、名前はパトリシアです。魔王によりこのダンジョンのコアにされていましたが、僕が5階層を攻略した事により彼女はコアから開放されたんです。そして開放してくれた僕に仕える!と言って、人化したのが今の姿です。気がついたら契約が完了していたので、そのまま連れてきたけどまずかったのかな?えっと、少し残念さんな所があるけど、決して悪い奴じゃないんだよね」

 ライの話に皆固まったのであった。
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