勇者はいいですって言ったよね！〜死地のダンジョンから幼馴染を救え！勇者？いらないです！僕は好きな女性を守りたいだけだから！〜

第21話 ドラゴンの首輪

　ドラゴンの首輪を切ると剣が光った。

　するとドラゴンの首に先程切断したのとは色が少し違う首輪が現れた。赤黒い感じだ。

「これでこの者は主様に取って無害な存在となったのじゃ。生かしておくのならば治療する事をお勧めるのじゃ」

　ライは確かに無害になったと認識した。なぜと言われると説明が難しいが、メアリーの姿を見てメアリーと認識するのと同じレベルで何となくだが理解していた。

　それもあり死にかけているドラゴンを治療する事にした。小型とはいえ立派な姿のドラゴンだったのだが、今では哀れとしか思えない状態になっていた。ため息を付きつつ、虫の息で瀕死の状態のドラゴンにヒールを掛けた。

　するとドラゴンはみるみる治り、息を吹き返していた。傷が癒えると起き上がり、ライを両手で掴んだ。

「ほえっ？」

　ライは情けない声を上げていたが、ドラゴンの顔が急激に迫ってきた。

「大丈夫じゃ。敵対行為はできぬのじゃ」

　魔剣の声が頭の中に聞こえてきた。
　う、うんと引きつっだ返事をしていたが、目の前にドラゴンの顔があった。

　2人は決着が着いたのが分かると防壁を解いたが、その時に見えたのはドラゴンの口に運ばれているライだった。それを見て悲鳴を上げた。

　ライはドラゴンの口に運ばれたが、口は閉ざされていた。運ばれている時は、くぐくもったガォーと言う唸り声がしたが、魔剣は大丈夫としか言ってこなかった。

　そしてドラゴンはくねくねしながらライの顔を口に当てた。

　するとドラゴンとライは光りに包まれた。

　ライは時折夢に見るが、実際には見た事の無い光景が頭に思い浮かんだ。
　それは何故か己の姿だと分かるが、今と見た目がかなり違う。黒目黑髪、30歳少し前の青年だった。

　母親の手から離れてしまったベビーカーが坂を爆進し、その赤ん坊の母親が叫んでいた。

　交差点をベビーカーが侵入したが、咄嗟なxxも交差点に駆け寄りそのベビーカーを掴むと歩道に蹴り出した。

　しかしxxの目の前には鉄の塊、鋼鉄の荷車が目の前におり、けたたましい警笛とキキーと何かが擦れる音がした。車輪からは煙が出ており、xxは咄嗟に顔を腕で覆った。

　しかし、無情にもその鋼鉄の荷車はxxを跳ね飛ばし、xxは反対車線から来ている鋼鉄の乗用車に当たりボロボロになり、更に飛ばされ、鋼鉄の線路を走る車に跳ねられ死んだ。かなりグロい。その子はかすり傷のみで無事だった。今までの夢はここまでで、大抵の場合叫びながら目覚めた。しかし今回は違う。

　次の瞬間、真っ白い空間に一人の中性的な長髪の者がいた。

「貴殿は残念ながら死んでしまった。しかし、貴殿の立派な行いに我は感動した。それにより異世界で転生して新たなる人生を歩む温情を与える。その前に聞きたかろう事を伝えておく。あの赤子は本来死ぬ定めであったが、貴殿の勇気ある行動によりかすり傷のみで助かった。転生した時の望みがあれば我の力が及ぶ限り叶えるぞよ？」

　xxの人生は苦労の連続だった。高校に入る直前に親が事故で他界し、近くに親戚もおらず、親の残した保険金で一人暮らしをし、高校を出た後進学し大学をなんとか出た。そこから就職をしたが、そこが倒産し、その後は職を転々としていた。何故か就職後1～２年以内に経営者が違法な取引をしていた事が発覚し、倒産していた。兄弟もおらず、ずっと寂しい思いをしてきた。

　恋人がいた時期もある。同棲をしていたが、本人が悪い訳ではないが、職が続かず、中々安定した給料を得られなかった。恋人とも深い関係になり、結婚を意識するような頃には他の男に鞍替えされていた。

　当たり障りもなく、優しい温厚な性格だ。ネットゲームを少々する位で、他の趣味はスキー位だった。

　人生に疲れていた。

「じゃあ、勇者になれますか？剣と魔法のファンタジー世界がいいな。贅沢は言いません。兄妹なんかのいる暖かな家庭で、かわいい幼馴染なんかがいれば最高かな。やっぱり勇者はいいです。平穏に暮らしたいだけです。記憶も無くて良いです。今までの人生碌でもなかったですから。新たな人生を得られるのならごく普通の家庭がいいな」

　自分が死ぬ様を見せられ、死んだのだと理解していた。

「相分かりました。それでは勇者として所謂ファンタジー世界に貴殿を転生させます。大した力は上げられませんが、僅かながらギフトを授けましょう。貴殿が勇者として立つ時に、記憶は戻りましょう！そうそう、貴方の運の悪さを反転させておくのはサービスです！さあ時間です！行ってらっしゃい」

　すると光りに包まれ、いや、違うって！勇者はやっぱいらないって言ったでしょ！と言っている合間に転生が終わってしまった。勇者はいいですは、人によって受け取り方が違う。良いですや、いらないですとも聞こえるのだ。この転生をさせた神は良いと受け止め、勇者を必要としている世界に勇者の一人としてxx，転生後の通称ライを送り出したのだった。

　急激に前世の記憶が蘇った。しかし、名前が思い出せない。送り出した神がミスをし、一部の記憶が抜け落ちていたのであった。