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第59話 タケル死にかける

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 魔物を駆逐し綺麗になった部屋の中央には、大きな金色の宝箱が置かれていた。俺はその宝箱を見て興奮を抑えきれず、サキ、リアン、エリスのことを忘れて、宝箱に飛びついた。
 レオン?気にしない。

 俺はすぐに蓋を開けた。中には、金貨や宝石、オーブや剣などがぎっしりと詰まっていた。俺は目を輝かせて、手に取った金貨を数え始めた。「これはすんごい財産だぜ!」と叫んだ。

 ところが、その時だ。宝箱から突然鋭い音が鳴り響いた。俺は驚いて宝箱から離れようとしたが間に合わなかった。宝箱の蓋部分から、黒い触手が伸びてきて、俺の上半身を捕まえた。宝箱に吸い込まれるのを感じ、必死に抵抗しようとしたが、力が加えられずあっという間に宝箱の中に上半身が入ってしまった。

 俺は宝箱の中で暗闇と恐怖に包まれた。俺は腕が出せないので、なんともならなず死を覚悟した。
 辛うじて足を広げ、足が当たった宝箱の蓋の縁に足を踏ん張り、何とか完全に中に引きずり込まれるのを防いだ。

 箱がガチャガチャとし、俺を噛み砕こうとするも、下手な金属鎧より防御力があるドラゴンの革で出来た戦闘服によりダメージは入らない。
 だが、いずれ中に引きずり込まれてしまうだろう。

 その時、俺はリアンの声を聞いた。リアンの指示でエリスが宝箱に向かって魔法を放った。
 宝箱は爆発して、俺は吹き飛ばされた。
 俺は吐き出される形で床に倒れるも、まだ蓋部分に張り付いていたギミックは健在だった。サキがすかさずギミックを斬りつけて霧散し、おびただしい数のお宝が吹き出した。

 俺はリアン、エリス、サキに助けられたことに感謝した。リアンは俺に笑顔を見せながら解説をしてくれた。
 宝箱の中にはギミックという魔物が時折潜んでいる。ギミックは宝箱の中に擬態して潜み、お宝で冒険者をおびき寄せ、異空間に引き込んで消化する形で捕食するという恐ろしい魔物だった。
 ミミックとは違い、ギミックは本物の宝箱の蓋の内側に異空間を作って、そこに冒険者を引き込むという能力を持っていた。外観は本物なのだ。
 ギミックに吸い込まれたならば、例えSランクの冒険者でもどうにもならない。
 ギミックは慎重に宝箱を見れば分かるのだとか。
 本物の宝箱の中に潜むので判別は難しいが、少なくとも開ける時に違和感を感じたら、開き切る前に閉じる。距離をおいて攻撃準備をし、一人が開けると同時に攻撃して開けた者は一目散に宝箱から遠ざかるのがセオリーだと。

 その時、俺はサキの怒鳴り声を聞いた。サキは俺に怒っており、叱られた・・・ぐうの字も出ません。もちろん正座です。

「宝箱に飛びつくなんて、危ないと思わなかったの?馬鹿じゃないの!毎年高ランクの冒険者が死んでいるのよ!数年前はこの国最強と言われた冒険者があっさり殺られたのよ!」  

 サキはポツリとなんでこんな人好きになったかなと呟いたのが聞こえたが、好きだから本気で怒ってくれたようだ。
 でもね、俺にも言い訳があるんだよ!だってこの前の宝箱にはそんな仕掛けはないし、聞いたことないやん!
 魔力も開けるまで感じなかったし・・・
 無知により死ぬんだろうね・・・

 でもちゃんと俺は皆に謝ったよ!  

「ごめん。俺が無知なばかりに。皆に助けられたよ」

 そして俺はサキに言った。

「でもさ、見てよ、これだけのお宝があるんだぜ」

 俺はじゃじゃーんという感じでサキに宝箱の中身を見せた。箱は壊れたから中身が散乱している。

「お宝なんてどうでもいいのよ!タケルの命の方が大事なのよ!本当に反省しているの?」  

「そうだねサキ。俺が浅はかだった。これからは慎重に行くよ」

 俺が縮こまって言うと、サキは満足したのか散乱した魔石やお宝を集める作業をし始めた。

 その時、俺はエリスの声を聞いた。   

「タケル様、宝箱の中には何が入っているのですか?」 

 彼女は俺がサキに怒られ始めると部屋の外を警戒しに行っていた。

「ああ、これだよ」

 俺はサキにしたように宝箱の中身を見せたが、エリスはかなり驚いていた。

 そうして、俺たちは宝箱の中身を後に分けることにし、今日は引き上げることにした。 
 今日の冒険は心が踊った!

 死にかけたのに魔物や罠に怯えながらも、お宝を求めて冒険するスリルは、今の俺には楽しく刺激的に感じた。

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