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第50話 押し付け

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 Eランクの階層に差し掛かると、俺はさらに魔力を込めた。
 魔物たちも強くなっているが、俺の矢はそれをものともせず、軽々と彼らを倒していく。一心不乱に進み、いつの間にか人気の狩り場である3から6階層へ差し掛かっていた。俺はその階層を素通りし、奥へ奥へと進んだ。俺は押さえられない好奇心と冒険心に駆られて、試したい一心だった。

 このままの勢いで俺はどこまで行けるのか?そんな興奮と期待を胸に、俺はさらにダンジョンの深層へと足を進めていく。
 自分の限界に挑戦するかのように。

 しかし、六階層でスタンピードに遭遇した。

 六階層で起こったスタンピードの発生理由はその時はわからなかったが、後になってから判明することになる。
 俺と歳が近そうな貴族と思われるやつが、初老の男と女二人の四人で魔物の群れから必死に逃げていた。
 大量の魔物を引き連れて逃げる途中で、どういう訳か俺の姿を見つけるとわざわざ俺の傍を通り過ぎ、魔物を俺に押し付けて逃げたんだ。
 まるで俺がその魔物たちを引き受けるべき者であるかのように。
 また、従者と思われる僧侶と俺と同い年位の女騎士に殿を押し付けていた。
 魔物と混戦中で、俺も巻き込まれていった。

 スタンピードの発生に驚いたが、俺を襲った魔物は大量の獣形だった。オオカミやクマ、ライオンやトラなど、様々な種類の獣が牙や爪を剥き出し、俺に襲いかかってきた。俺はその獣たちに対し、生成した矢に炎を纏わせて戦ったが、獣たちに対して自分の力を試した感じだ。 接近してきたら蹴り飛ばしてやる。 
「うひょー」
 叫びなからイメージ通りの回し蹴りに自己陶酔したのはご愛敬。

 俺は【火炎強化】を使った矢を放ち、獣たちを一掃する。俺の矢は、獣たちに向けて炎の軌道を描き、その威力は数匹の獣たちをまとめて粉々にするほどだ。炎は赤く燃え盛り、熱気は空気を揺らす。俺はその光景に満足感を覚えた。

 俺は獣たちを倒した後、貴族たちが去った方向へ目を向けた。彼らは戻ってきたが、横取りをしたと叫び出した。

「き、貴様!人の獲物を横取りしおってからに!けしからん!直ぐにいね!勿論横取りしたのだからドロップは俺のものだ。くくく」 

 なんだこいつ?俺は今のこの高揚した気持ちに水を差すなよと睨み付けた。
 俺が放った怒気を感じ取り、女性二人がその貴族を引きずるようにして急いで立ち去ろうとした。

「こいつやばいって、あんた殺されるよ!」

「よしなよ!私死にたくないよ!手を出したら不味いよ」

 俺は先程魔物を押し付けられて死んだ二人を指さした。

「ちょっと待てよ。この人達は仲間じゃないのか?」

 と言うも、あの貴族は俺に向かってとんでもないことを言ってのけた。

「分家の役立たずなんて知らん。装備をはぎ取りたきゃ剥げば良いだろ!このあさましい貧乏人め。生きていたら仲間にするなり好きにしろ!」

 捨て台詞を吐くも、女二人に腕を掴まれ、引きずられながら去っていった。

 あの貴族は不用意にモンスターハウスとなっている部屋に足を踏み入れ、その結果として大量の魔物を引き連れて逃げ出したらしい。

 俺はその場で何をすべきかと悩んだが結局、ライブラリーカードを手に取ると、死んだ二人の従者を収納バッグに入れてた。
 回収出来る物を回収し終え、ダンジョンを後にすることにした。
 このままでは彼らの死が無駄になってしまう。ダンジョンを出てから【適切】に彼らの処理をすることに決めた。それが、冒険者としての、いや、人としての責任だ。

 そして俺は、自分自身に問いかけた。力があるものがどうあるべきか、仲間とは一体何なのか。そして、俺自身がこれからどう生きるべきか。重い思いを胸に、足を踏み出した。この日の出来事は俺の冒険者としての心に深く刻まれることになった。

 彼らは四人で逃げるのに必死だったが、貴族の冒険者は自分の身を守ることしか考えていなかった。彼は従者の冒険者たちに自分を先に逃がすように命じていて、二人を捨て駒として見捨てたのだ。

 俺はこの貴族の冒険者の行ったことに腹が立つも、今日はやる気が失せ、鉢合わせしたくないからと、ドロップを回収してからダンジョンを後にした。
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