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第19話 朦朧

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 俺は死んだのだろうか? そんなことを思いながら、朦朧とした意識の中でシズクの顔を見つめていた。彼女は目の前にいて俺の手を握りしめていた。
 彼女の存在は俺にとっての光であり灯台だった。愛する人への想いが俺の中で最も強く輝いていた。

 透明な波に包まれた俺は、彼女の柔らかな抱擁を感じながら魔法陣が輝きを放ち、朽ち果てる魔物たちを見送った。
 彼らは秋の葉のように風に運ばれ、遠くへと消えていった・・・
 実際は魔法陣からの光の矢?で魔物が射抜かれたり爆散した時の爆風等だったが、俺にはそれが分からなかったが、この光景は奇跡のようだった。何はともあれ俺の強い決意が全てを浄化したのだ。

 俺はまだ息があった。
 魔物の最後の攻撃で重傷を負ったが、まだ心は折れていなかった。
 俺の胸は静かに鼓動し、遠い昔の風が吹いた。
 それはアーチェリー部の楽しい練習の日々だった。
 弓を引き、矢を射る俺の姿が目に浮かんだ。
 目を閉じればリナの無邪気な笑顔と笑い声が聞こえた。リナにアーチェリーのコツを教えていたり、シズクが窓から手を振って応援してくれていたりしたことを思い出した。

 しかし、目を開ければ残酷な現実が待っていた。ここは草原でも道場でもなく、荒廃としたダンジョンの中で、次々と魔物が爆散していくのが見える。
 やがて最後の一匹が霧散すると静寂が支配していたが、俺の闘志はまだ消えなかった。

「シズク…無事かな…リナ、頑張っているかな?」

 俺は心配しながら空の回復ポーションの小瓶を握った。最後の一本を飲んだ後だったなぁと思い出す。そう、回復ポーションはもうない。このまま死んでしまうのだろうか? その液体は、俺の体に少しずつ力を与えていくはずだったが、もう中身はなかった。俺は深い疲れからゆっくりと回復していくように感じたが、それは錯覚だった。俺は痛みをこらえながらいろいろな光景を見ていた。まるで走馬灯・・・

 身体が不完全でも心は他者を思いやることができた。俺は立ち上がろうとした。弓を取り、矢を放ち、シズクの幸せを祈ろうとした。しかし、片腕と片目を失い俺の旅はこれで終わりだった。これから始まるはずだった恋はもう叶わなそうだ。心にはシズクとの再会を思い描いていた。叶わないとわかっていても諦めないでいた。

 俺は勝利の雄叫びを上げた。

 しかし、魔力が吸われて悲鳴を上げた体はダンジョンの床に崩れ落ちそのまま意識を失った。そして、意識を失う僅かな間にレベルアップのアナウンスが続いていたのを何となく覚えている。

 俺はもう何も聞こえなかった。俺の耳には、無機質な声が冷たく響いた。『レベルアップしました。レベルアップしました。レベルアップしました・・・』

 その音声は止まらなかった。俺のレベルがどんどん上がっていった。ウィッシュで魔物を一掃したのでその功績で経験値が俺に流れ込んでいったのだ。

 しかし、その経験値は確実に俺の体に負担をかけた。魔力が枯渇して生命力が低下し、更に精神が疲弊して肉体も崩壊しようとしていた。そんな中、急激にレベルが上り俺は何も感じずただボンヤリとシズクやリナの顔を思い浮かべ、会いたいなと思うしかなかった。

 やがてその音声も止まった。俺のレベルがあり得ない前人未到の域に達したのだ。それは驚異的なレベル300になっていて、ボス部屋に入った時の実に10倍のレベルになっていたのだ。

 だが、その数字は俺にとって何の意味もなかった。何故なら俺はそれを知らなかったし、今となっては最早意味をなさなかった。ただ、シズクの安全と、彼女たちと再び会いたいなと願った。

 その願いは、果たして叶うのだろうか?

 次に意識が覚醒した時、そのレベルアップした事実さえもレベルアップ酔により覚えていなかった・・・
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