上 下
16 / 84

第16話 スタンピード

しおりを挟む
 大広間を覆う闇は、まるで夜が突然侵入してきたかのように深く重い。それは異界からの召喚のしるしなどではなかった。シズクが転移してきた際、彼女の後を追うようにして何体もの魔物が城内へ紛れ込んだのだ。

 町中にも魔物が出現し、その原因は勇者召喚の禁忌を破ったことにあった。
 召喚の術式が記された古の書物には、短期間での再召喚は厳に慎むべしと記されていた。それを無視した結果、タケルがいるダンジョン内の魔物が町中にまで転移してしまったのだ。
 丁度タケルがウィッシュを発動してシズクが城に転移したのと、新たな召喚者を転移させる魔法陣が干渉し、ダンジョン内の魔物を大量に城の内外に招き入れたのだ。
 また、死地のダンジョンから湧き出た魔物がナルクの森に雪崩込み、時を同じくして森の出口、つまり人のいる町の近くに出てきてスタンピードが起こり始めていた。

 ナルクの森は隣国との国境代わりとなっているが、隣国でもスタンピードが発生しているが、シズクたちは知る由もない。

 魔物たちは次々と現れて人々を襲い始める。オークやゴブリンは人を見ると蹂躙し、意味もなく命を奪い去っていった。

 本来町の外に現れた魔物は防壁により町に進入出来ないが、内側に転移したため、内側から門が破られたのだ。

 恐怖と混乱が支配する中、シズクだけが冷静さを失っていない。彼女は倒された兵士から拾った剣を魔物に投げつけると、当たった魔物は倒れて霧散していく。魔法の剣と進化したそれを再び手にし、魔物たちに立ち向かう。
 その姿は戦闘の女神のようだ。
 他の者はシズクに付き従い、城から脱出しようとしていた。

【リナ視点】

 新たに召喚されたばかりの一年生女子たちが、天川先輩の活躍に目を見張る中、私は彼女たちから頼りにされていた。私はインターハイを制したことのある弓の名手として、今その腕前を魔物たちに向けているの。

「リナ先輩、どうすればいいんですか?」

 涙ぐむ狗飼 沙代里と不知火 桃香、2人の1年生が叫んだわ。私は彼女たちの瞳を見つめ、言葉を選ぶ。

「落ち着いて。私か天川先輩の言うことを聞いて。人間以外は矢で撃ちまくりなさい!これは現実なの」

 そして再び弓を引き絞り、矢を放つ。
 不思議なことに魔物は死ぬと霧散して小さな宝石?に化けたわ。
 確か魔石というのらしいけど、血肉を撒き散らす死体が散乱しない分マシかな。

「みんな、逃げるわよ!」

 天川先輩の声が召喚の間に響く。
 先輩は魔物の隙を突き、私たちを城から脱出させようと道を切り開いているの。彼女の声には不安の色がなく、決意と勇気が感じられたわ。
 私も負けていられないわ。

 脱出の混乱の中、私は王女に向かってナイフを投じてやったの。王女は肩に刺さったナイフにもだえ、悲鳴を上げる。
 私の心には王女への憎悪が満ち溢れていた。彼女は私たちをこの世界に呼び寄せ、タケル先輩を死地に送った張本人だから生かしておけないと思ったの。
 残念ながら弓聖の必中補正はナイフには働かないようね。
 頭を狙ったんだけど、肩に刺さったわ。
 あっ!矢を放てば良かったんだ!私ってバカね。

 先輩に続き私たちは窓や扉を破り何とか城から脱出したわ。皆のギフトやスキルから隠された通路を発見して先を進み、敵(城からの追っ手)の目をかいくぐりそれぞれの能力を発揮して協力したの。なし崩し的に実質的なリーダーとなった天川先輩は私たちを指揮し、私たちは一体となって動いたの。

「死んだ魔物が落とす魔石を拾いなさい。これが新しい世界での財産よ!」

 天川先輩の命令に従い、私たちは魔石を集めたの。私たちアーチェリー部は攻撃の中心だった。他の人が魔石を拾う間、私たちは矢を回収したの。二人は二足歩行する魔物を殺すのに躊躇していたけど、天川先輩に死にたいの?と言われてからは苦しませないように眉間を撃ち抜くようにしていたの。
 時間がもったいないけど、魔石を拾う時間は足が止まり少し休めたわ。私を始め体育会系の部活をしている人はそうでもないけど、明らかに文化系の先輩立ちは肩で息をしていて、それを見た天川先輩が決断したわ。

 私は弓と矢を手放さずに持ち、私もそうだけど他の先輩たちはスマートフォンや貴重品を携えていたわ。
 教育実習生のみっちゃんも天川先輩と共に皆をまとめていたわ。一部の男子と担任の先生は逃げ出さずに城に残ったようだけど・・・

「リナ先輩すごいですね。普段と違う顔をしていますよ!」

 新しく召喚された狗飼 沙代里が言う。

「ひょっとしてタケル先輩もいたりするんですか?」

 不知火 桃香の一言に胸が締め付けられる。

 私は彼女に微笑んで答えた。

「ありがとう。でも、これは本当の私じゃないの。タケル先輩も召喚されたんだけど、天川先輩と共に殺すことを目的としたところに送られて、先輩は天川先輩だけを城に送ったの。自分より他人の命を優先するなんて先輩らしいよね」

「でもそれじゃあ先輩は・・・」

「あとで天川先輩からちゃんと聞くね。大丈夫。私の先輩が簡単に死ぬものですか!」

「リナ先輩、タケル先輩のことを・・・」

「疲れているところ悪いけどソロソロ出発よ」

 天川先輩に導かれ、私たちは炎に包まれた城を後にして町の外へと向かったわ。未知の世界が広がっているけど私たちは恐れなかった。
 短い時間だけど共に戦い、絆を深めてきたからだ。私たちは逃避行を続け、仮初めの安息の場を求めて先へ、先へと進む。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~

WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
 1~8巻好評発売中です!  ※2022年7月12日に本編は完結しました。  ◇ ◇ ◇  ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。  ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。  晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。  しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。  胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。  そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──  ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?  前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

モブ高校生と愉快なカード達〜主人公は無自覚脱モブ&チート持ちだった!カードから美少女を召喚します!強いカード程1癖2癖もあり一筋縄ではない〜

KeyBow
ファンタジー
 1999年世界各地に隕石が落ち、その数年後に隕石が落ちた場所がラビリンス(迷宮)となり魔物が町に湧き出した。  各国の軍隊、日本も自衛隊によりラビリンスより外に出た魔物を駆逐した。  ラビリンスの中で魔物を倒すと稀にその個体の姿が写ったカードが落ちた。  その後、そのカードに血を掛けるとその魔物が召喚され使役できる事が判明した。  彼らは通称カーヴァント。  カーヴァントを使役する者は探索者と呼ばれた。  カーヴァントには1から10までのランクがあり、1は最弱、6で強者、7や8は最大戦力で鬼神とも呼ばれる強さだ。  しかし9と10は報告された事がない伝説級だ。  また、カードのランクはそのカードにいるカーヴァントを召喚するのに必要なコストに比例する。  探索者は各自そのラビリンスが持っているカーヴァントの召喚コスト内分しか召喚出来ない。  つまり沢山のカーヴァントを召喚したくてもコスト制限があり、強力なカーヴァントはコストが高い為に少数精鋭となる。  数を選ぶか質を選ぶかになるのだ。  月日が流れ、最初にラビリンスに入った者達の子供達が高校生〜大学生に。  彼らは二世と呼ばれ、例外なく特別な力を持っていた。  そんな中、ラビリンスに入った自衛隊員の息子である斗枡も高校生になり探索者となる。  勿論二世だ。  斗枡が持っている最大の能力はカード合成。  それは例えばゴブリンを10体合成すると10体分の力になるもカードのランクとコストは共に変わらない。  彼はその程度の認識だった。  実際は合成結果は最大でランク10の強さになるのだ。  単純な話ではないが、経験を積むとそのカーヴァントはより強力になるが、特筆すべきは合成元の生き残るカーヴァントのコストがそのままになる事だ。  つまりランク1(コスト1)の最弱扱いにも関わらず、実は伝説級であるランク10の強力な実力を持つカーヴァントを作れるチートだった。  また、探索者ギルドよりアドバイザーとして姉のような女性があてがわれる。  斗枡は平凡な容姿の為に己をモブだと思うも、周りはそうは見ず、クラスの底辺だと思っていたらトップとして周りを巻き込む事になる?  女子が自然と彼の取り巻きに!  彼はモブとしてモブではない高校生として生活を始める所から物語はスタートする。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

処理中です...