異世界召喚された俺は余分な子でした

第１章

第500話 落ち着きなさい

「落ち着きなさい」

　俺はクロエにピシャリと言われ、ー怒られていた
　そう、俺に黙って１０人以上の妻がダンジョンに行ってしまったのだ。
　これが落ち着いていられるか！という事だ。
　俺は子供のような反応をしてしまった。

「だってセレナ達がいないんだよ！もしも、もしもの事があったらどうするんだよ！？俺は今からあいつらの所に行く！」

「ランス！何バカな事を言っているの？少しは落ち着きなさいよ。今から行ってもどうしようもないでしょ？今２つのダンジョンのどちらかに急遽助けに行く事になった場合、それができるのはあなたしかいないのよ？一体何の為にセレナも入っていると思うの？いつもセレナは待たされてばかりで、ランスは1度も許可していないでしょ。彼女もダンジョンで役に立ちたいのよ。だから怒らないであげて」

　俺は項垂れ、分かったとしか言えなかった。

　ただ、もしもに備えたいと。
　ダンジョンには入らないからと、念話が来たら直ぐに動けるように入り口を見たいと言った。
　俺が約束したので流石に反対はできなかったようで、渋々了承してくれた。
　正確な場所を知っている中で夜目の効くトリシアが案内をしてくれる事になった。

　アトランジェを手招きし、２人を伴ってダンジョン近くの転移ポイントにゲートを出した。

　セレナが俺に渡していた転移ポイントの地図にある場所からのスタートだ。
　セレナが留守を統括するクロエに俺がこうするだろうからと、最寄りの転移ポイントを伝えてからダンジョンに入ったのだ。

　流石はセレナといった所だ。
　なんだかんだと言って彼女が俺の事を１番知っている。
　ひょっとしたらこの世界に来た時に最初に触れたのが彼女だからなのかもだ。
　トリシアにダンジョンの場所を案内されたが、やはりセレナがこうなる事を予見しており、予めトリシアが案内出来るようにと道案内をお願いしていた。
　かつて一緒にダンジョンに入っていたから俺の事をよく知っていた。

　やはりなのだが、ダンジョンに入っている者とは連絡が出来なかった。
　ただ、俺のステータスの刻印者一覧には今の所誰１人欠けてはいない。
　それはつまり全員生きていると言う事だ。

　１つ目の入り口を確認し、中を覗いたがシーンと静まっていた。
　トリシアに促され２つ目に向かった。
　こちらも軽く中を覗いたが、やはりどうにもならなかった。

「大丈夫だから、ね、帰ろう？ランスがドンと構えてくれていると皆安心するんだぜ！な！帰ろうぜ！」

　俺はうんと頷き、屋敷に帰った。

　トリシアに俺はああ言われたが、やはり心配だ。

　アヤメとリリアは、落ち着きのない俺を半ば引きずるように寝室へと連れて行った。

　「歯を食いしばって！」

　そうと言うと２人から平手打ちが飛んできたが、呆気に取られていたのもあり見事にパチーンと音がした。

　非戦闘系の２人にしっかりしてと言われたのだ。

「ダンジョン組が帰ってきたらお帰りとお疲れ様と言ってあげて」

　そう泣いて頼まれた。
　この２人は言わば影だ。
　皆の為に裏方に撤している有り難い存在だ。
　しかし珍しく行動に出ていた。

　そのお陰で漸く俺のすべき事を思い出した。

　その後食事をしたり風呂に入った。
　皆が入った後でそっと風呂場に行った。
　この屋敷で俺がやらせてもらえるのは修繕は除くのだが、日常の事として風呂掃除だ。

　皆を迎えるのにいつにも増して掃除に勤しんだ。
　勿論普段から掃除は行き届いている。俺のポリシーで、半年に１度クリーンで屋敷全体の汚れを取る以外ではクリーンを使わない。
　ブラシで床を擦るのだが、すると僅かに、ほんの僅かに削れていく。
　年月と共に味と言うか風格が出てくる。
　クリーンではそうは行かない。
　俺はそうやって真心を込めて掃除をした。
　セレナ達に俺が綺麗にしたお風呂で気持ち良く疲れを癒やして貰う為に。