上 下
436 / 566
第1章

第436話 日記

しおりを挟む
 俺は自転車の部品が出来上がって来るまでの数日間、時間を持て余していた。
 その間に先の日記の全てに目を通し、日記の持ち主の人生に触れてみようと決心した。

 日付がおかしかった。
 今は199X年のはずなのだが、この人は201X年からあの世界に異世界転移させられたと書いていた。
 彼の年齢は40代中盤だそうだ。
 しかし転移後の体が18歳になっており、記憶の一部がなくなっていた。
 しかも転移時にあった18歳以降の記憶が段々と思い出せなくなりつつある為、この日記を記す旨が書いてあった。
 
 ぱらぱらと捲って見たが、家族の名前や住んでいた住所が書いてあり、なんと俺の家の近所らしい。
 だが、肝心のこの日記の持ち主の名前がどこにもなかったのだ。
 まあ日記に自分の名は書かないよな。
 それと同郷の者として親近感を覚えた。この人の家は隣の小学校の校区だ。

 この人は結婚しており、高校生と中学生と子供が2人いる。
 一度書いた年齢が訂正されていた。その理由は横に書いてあったが、長男と長女の関係の記憶がいりくっていたと。
 上の子を下の子と上下を間違えていたのだ。
 そのレベルで記憶が混乱していたと。
 上の子が男の子だったのだが、上の子が女の子だと思い込んでいる時期があったというのだ。
 これは写真や手持ちの何かに書いてあるから分かったらしい。

 俺はこの人があまりにも可哀想で涙を流していた。
 妻達は俺が日記に没頭しているのをそっと見守り、時折泣いている姿を見て心を痛めながらも、ただそっと涙を拭いてくれていた。
 妻達もこの手帳は日本語で書かれていたので、地球から来た者だという事だけは分かっている。

 日記は手帳を使っており、どこかの会社支給の手帳らしく、日本語でXXX株式会社と書いてあった。
 どうやらこの手帳の持ち主はこの会社の人で、異世界召喚された時には仕事をしていたっぽい。
 そして記憶にある自転車の図面を記憶が残っている間に残したようだ。

 エンジニアだったのだろうか?今も生きているのか?そしてこの手帳を日記代わりにして、自分の身に起きている事や起こった事を書いていた。
 また、一度記憶をなくしているようだ。

 何やら召喚直後に追放されたと俺と同じ目に遭っているようだ。
 そろそろ食事をしなければならないので一旦読み終わり、手帳を机に置こうとしたところ、背表紙を何気なく開いて見た。
 するとそこには名刺を挟むところがあり、1枚の名刺がはさまれていた。
 おや?これはこの持ち主の名刺かな?と思い、その名刺を見ると俺は愕然とした。
 この手帳に書いてある会社の名前の名刺だったのだが、そこに書かれている名前が己の名前だったからだ。

 俺は衝撃に打ちひしがれた。
 まさかこの日記は俺が書いた物なのか?というような感じにだ。
 そう、俺自身の事なのだ。
 己の事だと考えると辻褄が合う事が多かった。
 恐る恐る召喚された直後の事を見てみると、シェリー の事が書いてあった。
 はっきりとシェリーと書いてあるのだ。
 書いた記憶はなかったが、ただなんとなく日記にシェリーと出会った頃の事を書いたような気がしなくはなかった。
 一度記憶をなくしたと有った事から、召喚後の記憶の一部が戻っていないようだった。いや、またもや記憶をなくしたのか?

 それと自転車の図面などを書いた記憶とか、向こうに家族がいた事、俺がおっさんだったという事の記憶がなかった。
 俺は食事に行くのを忘れ、必死に見ていた。
 紙が貴重だというのが当時から分かっていたようで、小さな字で必死に細かく書いてあった。

 ショックな事と書いていたのは、上の子と下の子が逆転していたり、妻の顔が思い浮かばない事と書いてあった。スマホやタブレットにある写真を見てもふーん位にしか思わなかったと。

 スマホ?タブレット?何だそれ?

 そしてシェリーに頼んだ事が書いてある。
 時折日記の存在を言ってもらい、己がおっさんであった事、召喚時に18歳になっていた事。
 それにより様々な不具合が起こっている事。
 それらを指摘してもらうのがシェリーの役目だった。
 しかし今はシェリーはいない。
 この世界に来てから早2年以上過ぎている。
 もうじき3年になるだろうか。
 その間シェリーがいない為、己がどういう者だったのかというのを思い出す術を今の今まで持っていなかったのだ。

 いつまでたっても俺が食堂に食事をしに来ないので、トリシアが様子を見に来た。
 俺は机にしがみつきながら、そんなバカなそんなバカなと震えながら見ていた。

「ランス?大丈夫?」

 異変に気が付いたトリシアが声を掛けてきてくれた。
 俺は彼女のお腹に顔をうずめ、情けなく泣いてしまった。
 訳が分からないだろうに、それでもトリシアはそっと俺の頭を撫でてくれたり、背中をポンポンと叩いて落ち着かせようとしてくれていた。
 俺はブツブツと言っていたのだ。 
 
「あの日記、あの日記を書いた持ち主は俺だった、俺だったんだ」

 予め妻達には日記の内容をかいつまんで伝えてはあった。
 トリシアも衝撃を受けたようで、一瞬体がビクンとなっていたが、すぐさま胸をはだけ、おいでと言った。
 そうして俺に胸を吸わせていたのだ。
 そう、俺は何かあるとこうやって胸をチューチュー吸うバブリーモードに入ると落ち着くのだ。
 いまだに以前の呪いの副作用に苦しみ続けていた。トリシアにバブっていると他の妻達も来て、俺がトリシアを相手にバブっている様子に気が付いた。
 トリシアが日記の持ち主が自分だったと判ったようで、それで衝撃を受けていたのを今落ち着かせていると説明をしてくれていた。

 暫くバブった後、俺は冷静さを取り戻した。
 今手元にあるこの日記が、自分自身で己の事を書き記した日記だという事を認識をした。
 ただし思い出す事はなかった。
 以前はシェリーに言われて理解したのではなく、思い出していたそうだ。

 だが、今は思い出せる事は召喚後に経験した事のみで、召喚前の記憶は思い出せなかった。
 しかし、そういう過去があり、記憶から欠落しているという認識は持てるようになった。
 その、俺の事ではあるのだが、誰か他人の人生や事実の書かれた日記だという認識のレベルの話ではある。

 一度、用意している食事を食べようよと誰かに言われ、皆と一緒に黙々と食事をし、その後、妻達の前で日記を読み始めるのであった。
しおりを挟む
感想 64

あなたにおすすめの小説

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

処理中です...