異世界召喚された俺は余分な子でした

第１章

第419話 ティエラの死

　俺は目覚めと同時に激しい頭痛と吐き気に襲われた。
　また現状がよく分からない。そういつもの症状だ。ただ、いつもよりも数段きついような感じではある。

　何がと言うと、死者蘇生を行った後の症状だ。毎度ながら前後の記憶が無くなっている為、誰を蘇生したのかが分からなかった。
　周りを確認すると俺の傍にはリギアとトリシアがいた。そっとトリシアが水の入ったグラスを差し出し、俺はそれを掴むと一気に飲み干した。

　どうやら今回は吐かなかったようだ。リギアが声を掛けてきた。

「ねえ、大丈夫なの？」

「一言でいうと、頭が猛烈に痛いが意識ははっきりしている」

　そう言うとリギアが俯きながら続けた。

「そう。大した事は無いようね。魔力切れを起こしたから頭が痛いのだと思います｡今はまだ魔力が回復してる最中だと思うのでゆっくり休んでくださいね」

「一体何が有った？」

「今は休んでって言ったでしょ？頭痛が治ってから話をする方が良いわ。今はまだ頭が働いていないから」

「そうか。だけれども俺は誰かを生き返らせたのではないのか？」

　トリシアが暗い表情をした。

「あなたは今回は誰も生き返らせていないのよ。ただ無理をし過ぎて魔力切れが起こったの。だから今はお願いだから休んで」

　半ば強引にトリシアに肩を掴まれ、ベッドに寝かされた。そして布団を掛け俺のおでこにキスをしていった。
　俺はトリシアが発したこの言葉の意味するところを、まだきちんと考えられる程頭が働いておらず、今回は死者蘇生を行わなかった、誰も死ななかったんだな！と勝手に自己完結した。

「じゃあお言葉に甘えて休ませてもらうよ」

　そうしてそのまま眠りに落ちた。
　次に目覚めた時は記憶の混乱はまだあったが、頭痛などはほぼ治っていた。俺の側にはレオナとナタリーがいた。

「ランスロット様、おはようございます。気分はどうですか？」

「うん頭痛も治ったよ。休ませてもらったお陰かな。ありがとうね。ところで俺はどれ位臥せっていたんだい？」

「はい。丸２日になります」


「そうか２日も寝込んでいたんだね。とりあえずお腹が空いたから食事を持ってきてもらうか食堂に連れて行ってくれるかな？」

　そういうと食事を持ってくる為に部屋を出て行き、5分もたたないうちに食事を運んできてくれた。俺はあまりにもお腹が減りすぎていたので夢中で食べた。

　そうこうしていると妻達全員とブラックスワンの４人が集まっていた。

　よく見るも妻達が全員いた訳ではなかった。ティエラがいない。

「あれ？ティエラはどうした？」

　そう言うと皆俯いて涙を流す者もいたが、訳が分からなかったが、ヒナタが話してくれた。

「あの子は逝ってしまったの」

「いってしまったってどういう事だい？他の町にでもでかけたのか？」

「あの子が死んでしまったの」

　俺はヒナタの言葉の意味する事が分からなかった。しかし死んだという言葉を聞いた瞬間にだんだん記憶が蘇ってきた。そう彼女が苦しみ出してやがて心臓の鼓動がゆっくりになり、ついに死んでしまったのだと。

　死者蘇生を使ったがどうやら失敗したようだ。俺はガバッと起きた。

「ティアラの所に連れて行け！」

　ヒナタに引っ張られ、ティエラが安置されているところに行ったのだが、ティエラはまるで寝ているだけのようだった。

　彼女はベッドの上に寝かされていた。ただそこで寝ているようだったが、胸が上下していない。息をしていないのが見て取れた俺は取り乱した。

「ありえない。ありえない。彼女が死ぬなんてありえない。嘘だと言ってくれ！誰か嘘だと言ってくれ！」

　俺は彼女の亡骸に抱きつき、手を当てて何度も何度も死者蘇生と唱えていた。しかし彼女が蘇生の対象に現れる事はなかった。そう、２日も経っているからだ。死者蘇生ができるのは死んでから１日以内だ。だが俺は彼女の死を受け入れられなかった。

　俺は彼女をお姫様抱っこで抱き上げた。不思議と体が冷たくない。また死後硬直もしていなく、ただ寝ているとしか思えない。

　彼女は絶対に死んでなんかいない！と俺は取り乱したまま彼女を自室に連れて行き、布団に寝かせた後、彼女を愛おしく抱きしめていた。
　そして部屋に鍵を掛け、誰にも入るなと引き籠もり、ひたすら生き返れ生き返れと祈るのであった。