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第3章

第342話 日常

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 記憶の混濁があった。
 俺は高校生の息子から進路相談を受けていた。行きたい大学が2つあり、1つは1人暮らしをしなければならないような所にあり、もう1つは俺の単身赴任先から通える所にある大学だと言う。

 どちらにするか絞れ切れずに悩んでいるというのだ。
 各々違う学科ではあるが、自分のやりたい事に向いている大学だと話していた。息子は各々の学校について説明していた。しかし息子の名前が出てこない。なので、「お前」という風に言ってアドバイスをした。

 頭が割れるように痛み出したが、その途端にふっと場面が変わり、家のリビングから妻と娘が会話している声が聞こえてきた。

 娘の話は今日学校の帰り道に久し振りに出会った先輩に告白され、どうしようか悩んでいるというような恋の悩みだった。

 また頭が痛み出し、更に場面が変わる。今度は俺が何者かと戦っていた。かなり苦戦しており、時間停止や転移をしても倒す事ができない。
 むしろ俺の方がダメージを負っていて、目の前で妻達が次々と殺され、俺は叫んでいた。

「やめろー!」

 絶望に打ちひしがれていると、リリィに起こされた。そう10日程前に天界に巣食うデーモの駆逐を終え、完全に天界を平定した。その事後処理に駆られてはいたが、俺の仕事はワーグナーからゲートを出す事で、天界には直接行かないようにしていた。
 そしてようやくリリィと向き合う事が出来た。リリィを娶る事になり、昨夜刻印の儀を行った。開始から4時間経過した所で、リリィが俺の刻印者となった事を確認出来た辺りで、眠気に襲われたのが、記憶の混濁の始まりだ。

 記憶が混濁しており、リリィへ刻印の儀を行い、妻とする事になった経緯がよく思い出せない。ただひとつ言えるのは、リリィの事が愛おしく、他の妻達同様に愛している事だけは間違いないと、認識できている事だった。この時は天界にいた為に赤ちゃん返りをしている、その影響だとばかり思っていた。

 最近記憶の混濁が増えてきたのだ。なぜか日本にいた時の記憶が一部蘇っているようで、夢を見ているのか、現実の話なのか分からないが、生々しくリアルな夢を見る。
 その度に夢の内容を覚えている限りノートに記録していった。

 その中には、日本にいる妻と結婚した時の事や、長男が生まれた時の事などもあったが、1つ言えるのは、日本にいた時の家族の名前が出てこない事であった。妻だとは分かるのだが。

 ただ、手帳等への記録も目覚めてから30分以内に行わないと、不思議な夢を見たな位で、それ以上経過すると、内容を覚えていないか、まるで他人の記憶である。手帳の記載内容、またはセレナ、シェリーから言われ、自分が46歳で、こちらの世界に転移した時には18才になっていたと言われる。セレナ曰く、召喚時は同い年だと思うのに妙におっさん臭いと思ったと言う。俺は以前、記憶がなくなっていく怖さをシェリーに伝えていたと言うが、確かにそういう事を言った記憶はある。しかし、失われつつある記憶そのものについての記憶がない。

 致命的なのは、己の年齢が18歳で、間もなく19歳になる筈だと思っている事だった。裕美も似たような事を言っていた。彼女の場合、元の年齢が20か21歳だったと思うというような曖昧な言い方しか出来なかった。

 やはり日が経ってくると、裕美も己の年齢が18歳だと言っていて、彼女が元々21歳ぐらいだった筈だという事を俺に対して言っていたのを俺ははっきり覚えているが、彼女は覚えていない。

 また、彼女も俺がかつて46歳であった筈だと言った事を覚えていた。基本的に、この世界に来てからの事自体は覚えており、俺も周りから聞いた話として、己が46歳であったという事を理解できている。だが、あくまで言われての話で、ふーん?と言う感じだ。

 但し記憶との乖離が激しく、時々周りから騙されているのか?と一瞬思わなくもないが、妻達がそういう事をする訳がないと思い至り、ノートや手帳に書いてある通りで、俺の記憶がおかしくなっているというような事を、改めて理解するしかない。

 そして夢が終わった後、だんだんとだが、ここ10日程の記憶が甦ってくる。リリィとの思い出がなくなっていたのは一時的な事であった。

 そしてこの一連の異常は、これから起こる事の予兆のでしかないのであった。そう、新たな苦難の始まりでもある。はあ。
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