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第4章

第89話 ダンジョン6日目

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 day22

 朝起きると両手に花だった。左にフレデリカ、右にシェリーが寝ていたのだ。
 俺はそっと起きると、見張りの様子を見に行った。魔石を10個程持っていたので、それらを受け取ると収納に入れた。

 テントに戻り早朝稽古を行い、その後に朝食を皆と食べた。そしてセリカの様子を見る。
 どうやら薬の影響から抜けきったようで、ニーベリングからももう大丈夫だろうと言われた。
 念の為精神回復を施すが、特に変化は無い。

 セリカに声を掛ける

「おはようセリカ。今朝の気分は?」

 颯爽と答えた。

「あっ、その、あの、志郎さんおはようございます。勿論セリカは元気ですよ!」

 何か変な事を聞いたかのような返答だった。

「うん、元気が一番だよね。ダンジョンは進めそうかな?」

 俺は言葉を慎重に選んだ。彼女が恥ずかしそうにしており、中々喋らないからだ。ひょっとすると禁断症状の時に言った事や、やった事を覚えているのかな?

 念話でニーベリングに聞くと、憶えている筈だという。殆どの人が憶えていたと言う。

「うん、大丈夫です。行けますよ」

 その場で一回転し、屈伸したりして体の状態を確かめている。
 どうやら体は大丈夫そうだ。しかし、昨日の事を黙っている訳にはいかない。黙って心に秘めるよりも、衆目に晒してあっさり終わる方が精神的ダメージが少ない。それは今までの人生の中で経験や失敗から学習してきた経験値だ。

「なあセリカ、昨日は縛ってしまい悪かったな。隠していても仕方がないが、何があったのかを包み隠さずに正直に話すよ。君は城で麻薬を盛られていて、禁断症状が出ていたんだ。かなり暴れたりして自他共に危険だったのと、薬を抜く治療方法が暴れないように縛り、舌を噛まないように猿ぐつわをするしかなかったんだ。だからやむを得ずやったんだが、もしかしたら別のやり方が有ったのかもだが、残念ながら俺を含め、ここにいる者はそれしか知らなかったんだ。辛かったろう。よく頑張ったね」

 セリカを抱きしめて頭を撫でた。

「あっ!そにょ、あにょ、志郎さん、は、恥ずかしいんですけれども」

 顔を真っ赤にしており、呂律が回っていなかった。うん、可愛い。

「あっ、ごめん、ごめん。無事に治ったようでついつい嬉しくて可愛いセリカを抱きしめちゃった」

 そう言うと更に耳まで赤くなってしまい、俯いてクネクネしていた。

「うん、ちょっとびっくりしただけですから。その、ご迷惑をお掛けしました。また救ってくれて有難うございます。後ねそのね、私にエッチな事を出来たのに、しないでおいてくれてありがとう」

 俺の頬にキスをしてきた。本来純情で素直な娘なんだろうな。王城の初日の彼女はもう少しきりっとしていたかと思うが、異常事態で気が張っていて、今の彼女が本来の姿なのだろうな。

「うん、君が正常な状態ではなかったのは重々理解していたからね。お互いに心の通っていない状態で女性を抱くなんて、そんな失礼な事はしたくないし、セリカは絶世のと言っても良い位の美女だけれども、俺はそこまで女性に飢えてはいないからね。もし縁があって君とそういう関係になるとしたら、お互い愛し合っていてちゃんと将来の事を見据える事ができて、そして心が一つになった時かな。勿論結婚する初夜の話しだ。俺はセリカの心が欲しい。欲望の捌け口として体が欲しいんじゃないんだよ」

「志郎さんずるいよ。そんな事言われると私、私、志郎さんの事を好きになっちゃうじゃないですか。何でそんなに紳士なんですか?」

 涙を流しながら胸に飛び込んできて、そして泣きじゃくった。

「君の事は俺が命に替えてでも守る。可能なら君を元の世界に返してあげたい。それが敵わないならずっと俺が守ってやる。だから俺に付いてこい。愛している」

 あっ!これはいかん、いかんぞ!殆どプロポーズやん。つい勢い余って口走ってしまったが、俺のそんなセリフにセリカは嬉しそうにしていた。

「志郎さん有難うございます。是非是非守って下さい。私の白馬に乗った王子様」

 目を閉じ、上目遣いで俺の方を向いている。背丈の違いからだが、これはやっぱりキスだよね。彼女の顎を軽く摘まんでそっとキスをする。彼女はとろけるような表情をしてから答えた。

「あの、セリカのねファーストキスなんだからね!」

 そう言ってからテントから慌てて出ていった。
 俺はあれっ?と思い、ニーベリングに聞いた。

「記憶が混乱しているんです。たまにいます。キスをしていたと言うのが夢だと思っているのだと思います。実際問題として薬で正気ではなかったので、キスをした記憶そのものがないのか、心が記憶に蓋をしたのかも分かりませんね。どちらにしろ今のが彼女とのファーストキスにしてあげて下さい。辛い記憶を嬉しい事で上書きする方が幸せだと思います」

 そうなのだろうな。後は彼女が今までの事と向かい合い、消化する時間が必要なんだよな。
 だが、何時までもグズグズしていても仕方が無いので、食事をして冒険に出よう。

 病み上がりのセリカに無理はさせられない。なので隊列の中央で俺とクレアの間に挟んでガードする事にした。
 腕を組んでくるでも無く、普通に歩いている。

 出てくる魔物はオーク系とオオカミ系が中心で、時々鳥型も出てくる。

 元々このフロアの魔物はテントに引き寄せられていて、殆ど駆除しているのでさくさく進み、フロアボスも難なく退治した。
 ボスはミノタウロスだった。
 俺は手出しをせずに皆にやらせたが、倒れて虫の息になった所をスキルの関係で俺がトドメを刺した。

 その後23階まで順調に進み、昼休憩を行った。
 23階から勝手が変わり、今までは石のダンジョンだったのだが、ここからは草原や所々木が見えた。中途半端な階層で変わったので意表を突かれる形だ。

 出る魔物は代わり映えせず、25階のボス部屋までさくっと辿り着いた。

 ボスはひときわ大きなミノタウロスだ。体が赤い。
 奴は強かった。前衛衆4人が同時に攻めたが、あっさり蹴散らされ、文字通りに吹き飛んでいく。

 俺はアイスアローを大量に飛ばした瞬間に後ろに飛んで、首を刎ねに行くも半分も斬れずにカウンターとなる感じで反撃され、もろに腹を殴られて吹き飛んだ。

 後衛が魔法とナンシーが弓で応戦し、ミノタウロスがナンシー目掛けて駆けるので目の前に強めのアイスウォールを出すと面白いようにぶつかり、頭をしこたまぶつけ尻餅を着いた。

 すかさずアイスアローを40発程放ち、ずたずたにして今度こそ首を跳ねて勝利した。

 ドロップは大剣だ。それとかなり軽量なチェーンメイル。これはフレデリカに装着させる。

 26階には降りず、ボス部屋にて本日の野営をスタートする。

 セリカは皆と楽しそうに話をしていて、笑顔が戻ったのが分かる。
 就寝時間になったがセリカが横に来た。

「いいのかい?襲っちゃうかもしれないよ」

「大丈夫だもん。志郎さんってそんな事をしないでしょ?。それに志郎さんにだったら良いの」

 最後の方が小さくて聞き間違いかな?と思うが、セリカが元気になって嬉しかった。

 セリカが俺の頭を抱き寄せた。

「ありがとう志郎さん。私の王子様。好きです」

 どうやら俺がもう寝ていると思ったようで呟いていた。どうやら彼女の心も既にゲットしちゃったっぽい。聞かなかった事にして暫くの間彼女の鼓動の音に癒やされようとしていたが、不覚にもあっという間に眠りに落ちていったのであった。
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