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第1章

スタンピード

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 朝は少し早かったが当夜達は普通に起きて、宿の食堂で朝食を摂り、装備を整えて村長の所に向かった。

 早速村長達を連れてオークの集落跡を確認して、オークの死体の数を数えたり上位個体を探したりした。

 全部で60体以上いた事に驚き、当夜達に感謝をしていた。

 村に引き上げている最中に異変があったのだ。
 村の方向から煙が不自然に上がっているのが見える。

 村が見えると、あちこちで戦いが繰り広げられていた。
 20匹位のオークの群が複数襲ってきていたのだ。

 門番と数少ない冒険者がなんとか食い止めていて、当夜達は慌てて参戦する羽目になったのだ。

当夜「村がやばい。村人を助けるんだ。ルナは一人で良いな。殲滅を頼む。シャクラとレグナスは二人で村長達を守ってくれ、アモネスは俺と来い。終わったら宿で集合だ」

 当夜が指示をするとそれぞれの役割を果たすべく動き出した。

当夜「悪いがアモネスには俺の背中を頼みたい。門を見に行こう」

 門に向かうと悪夢だった。オークの増援が門に着く所だったのだ。

 50匹はいそうだ。
 どうみてもおかしい。
『潰したオークの集落は先駆けで、今来ているのは本拠地作りの為の尖兵か?』
 そう当夜は感じ、本体が来るのか?しかも上位個体がいないっぽいから第一陣のようだと判断した。
 先ずは今来た奴等をアイスアローで潰していった。

 一旦引いて三人と合流し、当夜の所感を皆に伝えた。

当夜「昨日のも今のも本体が来る前の尖兵にしかならないはずだ。現在数百、いや千を越える所謂スタンピードが進行していると思う。しかも逃げるには既に遅いようだ。生き残るのには戦うしかないようだ。まずは門から一番近い家を本拠地にして俺がそこにいるようにするから、何かあったり俺に用があれば来るんだ!次が来るぞ!」

 街道を埋め尽くす数のオークの集団が向かってきた。
 当夜は市街地や木が多い所では避けていた大量の魔力を込めたファイヤーボールを放った!

 一団に穴が開いたが、数十匹を葬っても大して変わらなかった。
 しかも上位種が村に入って来ており、既にルナと戦っていたが奴は強かった。ルナが傷だらけになり辛うじて勝てたのだ。

 ルナにヒールを掛けてオークを見ると次の一団が居て、先の上位種が10匹以上とそれに命令する上位種までいる。今のままだと確実にルナがやられると当夜は理解した。

 一時的にでも先頭を止めるべく、大魔力をつぎ込んだファイヤーボールにて一旦後退させる事に成功し、シャクラとレグナスには村に入り込んだ奴の殲滅を、ルナとアモネスに建物に入るよう指示をした。

 当夜は最終手段に出る事にした。
 ルナに人形使いの力を全て渡す事により、ルナの力を100%にする。それにより状況の改善を図る。当夜が動けなくなるからアモネスに体を預けると。

当夜「アモネス、今からルナに俺の持っている本来の力の全てを預けて100%の力にする。そうすると俺は腕すら動かす事が出来なくなるんだ。椅子に体を縛り、腕を入り口に向けて固定してくれ。魔法は使えるから。そして俺の体を頼む。尿意すら制御できないから、長引けば失禁してしまう筈だから匂うと思う。すまないが俺の命を預ける。今は黙って指示に従って欲しいんだ。訳は生き残ったら必ず話す」

 ルナを呼び口付けをして力を渡すと、当夜は崩れ落ちて動けなくなりった。ルナにお姫様抱っこされ、入り口に置いた椅子に座らせて貰い紐で縛って貰った。そしてルナがアモネスに

ルナ「我が主の命を任せました。主が死ねば私も死んでしまいます。そうすると貴女達もいずれオークに殺されるでしょう。命がけで守ってください。では行って参ります」

 ルナが出て行くと、アモネスは向かってくる奴らの数の多さに震えていた。

当夜「矢とか来たら対処を頼むよ。視界に入る奴は俺が魔法で倒すから大丈夫だよ!」

 ルナが向かった先では討ち漏らした奴は殆どいないが、別の方角からも村に侵入しており、当夜のアイスアローで次々に倒す。しかし多勢に無勢だ。必死に魔法で打ち倒すにも限界があり、ついに魔物が家に侵入してきた。当夜の首に刃が届く間際になり、アモネスが何とか倒してくれた。

 今のルナはSS級の強さが有るはずなのだが、中々終わらない。数が多くても頭を潰せば統率がなくなり撤収する筈と思うのだが、向かってくる奴らの数が一向に減らないので当夜も焦ってきた。

 そして遂に建物が囲まれて大量のオークが一気に入って来た。当夜とアモネスが必死に戦うも、アモネスは何度も切られて、鎧が壊わされ、鎧は既に役に立たなくなっており邪魔なので外していた。そしてアモネスが腹を刺され床に崩れ落ちた。そして当夜も殴られて床に転げたのだ。

 当夜は部屋の角に投げ出された為、部屋全体が見えるので魔法で攻撃を行った。
 アイスアローではなくアイスボールのような氷の塊が一番早く生成できたので、数個出現させては投射するのを続けて行き、入ってきた奴らを全て倒していった。

 アモネスが死にかけている。当夜の状態も酷かったが何とかヒールで自らを回復したが、今はアモネスには使えないのだ。
 何故ならば当夜のヒールは強力だが大きな制約があったのだ。それは、治療をする対象に触れていないと発動しない事だった。

 アモネスまでの距離は50cmもない。手を伸ばせば届く距離だ。
 しかし人形使いの力の全てを、ルナに渡している今は腕一本でさえ動かす事もできないのだ。

当夜「動け動け動け!頼むから!少しでいいんだ!動いてくれえええ。ううう」

 当夜は叫び、泣いたが動かないものは動かない。医学知識で神経損傷の治癒について絶望的な事を知っているだけに、無駄だと分かっている。それ故に悔しさと情けなさに涙していた。
 大量の魔力でヒールを試みた事もあるが、神経損傷は直らなかったのだ。

 段々アモネスの呼吸が遅くなってきて、長くは持たないのが分かる。治す手立てがあるのに見殺しになってしまうのだ!無念である。

 そんな中、又もやオークの一団が入ってきて当夜は蹴られた。奇跡的にアモネスの方に転がって行き、顔がその柔らかな双丘にうずくまる形になっており、当然視界が遮られている。

 根棒や斧を持った奴が、とどめを刺しに当夜の所に来たのが音で分かるが、見えないので、アイスボールをそこら中に撃ちまくり何とか撃退した。
 しかし、いつの間にか頭に根棒の一撃を喰らったっぽい。血が出てきて割れるように痛み出したのだ。
 幸い意識がまだあるのでヒールを掛け、まだ痛むが血が止まったので自分に対する治療を止めて、アモネスに大きく魔力を込めモゴモゴしながらヒールを唱えた。発動している手応えを感じ、意識が無くなるまで使い続けたのだ。体を動かす事ができず胸に圧迫されて息が苦しかった。そしてこのままだと窒息死するのかなと感じつつ、意識を失ってしまった。
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