異世界はスマッシュと共に

第22話 宿

　町に入ってからメインの通りを歩いていると、エレナが提案と言うか、切実なお願いをした。

「健斗様、あそこに休憩所（宿）が見えます。少し休んでから今後のことを考えましょう。」

　リサリアもうなずく。

「はい、まずは安全な場所で休息を取りましょう。」

　門をくぐり町に入った後、彼らはすぐに自分たちが目立っていることに気づいた。外套を羽織ってはいても、エレナの服装は高貴で目を引くものであり、健斗の異質な姿も注目の的だった。そして血塗られ、ところどころ破れたメイド服を着ているリサリアも異様な存在感を放っていた。因みに３人とも目立っているのは連れであり、己の格好が目立つのだと欠片も思っていなかった。

　ここで、健斗たちは商人たちと一旦別れることにした。商人たちは金目の物をしっかり持って逃げており、それぞれの道を進むことを決意したのだ。エレナは別れ際に商人たちに何かを渡していた。

「これまでのご助力に感謝いたします。どうか、これをお受け取りください。」

　エレナが差し出したのは、家族の紋章が刻まれた小さな袋だった。中には銀貨が入っており、商人たちはそれを受け取り、深く礼をした。

「あなた方のおかげでここまで来ることができました。本当に感謝しています。」

　健斗は微笑む。

「皆で協力した結果だよ。これからもお互いに頑張ろう。」

　商人たちも感謝の気持ちを表し、互いに無事を祈りながら別れた。

　その後、健斗たちは宿にたどり着くと、リサリアが店主に話しかけ、部屋を借りる手続きを進めた。彼らは部屋に入ると、ようやく一息ついた。

「ここで少し休もう」

　健斗はベッドに座り、左腕をかばいながらエレナとリサリアに言った。

　エレナは疲れ切った表情でベッドに横たわる。

「ありがとうございます、健斗様。もう少しで倒れてしまいそうでした。」

　リサリアも座り込み、溜息をつく。

「エレナ様、はしたのうございますよ。ここで安全に休めるのは助かりますが、殿方がいるのですよ。ほら、スカートの中が見えます。」

　健斗の横で寝転がるエレナの無邪気な様子に、健斗は年相応な少女の姿を見て少しホッとした。彼女は体力を消耗していたため、ずっとおとなしくしていたのだ。必要最小限の会話しかしなかったため、彼女の性格についてもまだよく分からなかった。

　健斗は少し考え込んでから話しを始めた。

「この町で何か手がかりを探さないか？次の目的地や、安全なルートを見つけるために情報は必要だろ？」

　リサリアは頷きながら同意した。

「はい、まずは情報収集をしましょう。お嬢様のためにも、早く安全な王都にたどり着きたいですわ。」

　エレナが健斗に感謝の気持ちを伝える。

「健斗、あなたがいてくれて本当に助かりました。」

　健斗は微笑みながらも、少し照れていた。

「大丈夫だよ、これからも俺が守るからさ。それより今は休みなって。今まで出来なかったから沢山話したいこともあるだろうけど、これからは大丈夫だから、ね・・・」

　その後、健斗はエレナとリサリアを残し、町を散策することにした。情報を集め、次の目的地や安全な避難先を見つけるために動き出そうとした。