異世界はスマッシュと共に

第6話 テニスバカ人と遭う

　森を抜けると、そこには立派な甲冑を着込んだ１人の騎士と、その配下と思われる兵士たちがいた。
　騎士に比べると明らかにグレードの落ちる甲冑を着ていることから、兵士、または下級の騎士と思われる者たちが数十名待ち構えていた。健斗は期待と不安を抱えながら声をかけようとしたが、いきなり敵意を向けられた。

「止まれ！怪しい格好をしおって、貴様何者だ！？」

　兵士の１人が叫んだ。

　健斗は戸惑いながらも状況を説明しようとした。

「気が付いたら草原にいて、道を頼りに森の中を歩いてきました・・・」

　その瞬間、兵士の中から金髪の若い騎士が現れた。彼は20歳くらいで、兜は従者が持っていた。

「悪魔の草原から１人で歩いてきただと？そんな馬鹿なことができるわけなかろう！怪しい奴め！貴様、魔族ではなかろうな？」

　騎士は疑わしげに健斗を睨みつけ、剣を抜きながら「抜剣」と命じた。兵士たちは即座に剣や槍を構え、健斗に向けた。

「逃がすな！」

　騎士が叫ぶと、槍の先が健斗の足を払った。

　空腹でフラフラだった健斗は、あっさり足を払われて後ろに倒れ、後頭部を岩に打ち付け意識が遠のいた。

「痛っ・・・何なんだよ…」

　という声も虚しく、健斗はそのまま気絶してしまった。

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　どれくらい時間が経過しただろうか？健斗が次に目を覚ましたとき、暗い部屋の中にいた。石造りの壁と鉄格子の扉が目に入り、どうやら牢屋に閉じ込められていることに気づいた。頭がズキズキと痛み、手で触れると腫れているのがわかった。ジャラジャラと鎖の音がし、自分が鎖に繋がれているのだと分かり、鎖の長さの関係で鉄格子を掴むのが精一杯だった。

「ここは・・・どこだ？」

　健斗は周囲を見回しながら、状況を把握しようとした。牢屋の外には松明の明かりが揺れており、かすかに人の話し声が聞こえる。健斗は立ち上がり、可能な限り鉄格子に近づいて声張り上げた。

「誰かいないか！ここから出してくれ！」

　しかし、返事はなかった。健斗は再び鉄格子に手をかけ、力を込めて揺さぶったが、びくともしなかった。いや、空腹で力が出なかったのだ。

「くそ・・・どうすればいいんだ？」

　その時、足音が聞こえ、誰かが近づいてくるのが分かった。健斗は息を潜め、様子を伺った。やがて、鉄格子の向こうに先ほどの金髪の騎士が現れた。彼は冷たい目で健斗を見つめ、口を開いた。

「目が覚めたか。貴様、一体何者だ？なぜ悪魔の草原から無事に１人でここまで来られた？」

　健斗は必死に説明しようとした。

「本当にわからないんです。気が付いたら草原にいて、そこから歩いてきただけなんです！」

　騎士は眉をひそめ、しばらく考え込んだ後、再び口を開いた。

「我々を侮辱しているのか？貴様の言葉を信じろと？Sランクの者ならいざ知らず、あのようなS級やA級の魔物が蠢くところを貴様のような年端もいかぬ子供が１人で生きて抜けられる訳が無い。魔族ならば可能だろうが、貴様が魔族でないことを証明できるのか？」

　健斗は困惑しながらも、何とか自分の無実を証明しようと考えた。

「どうすれば証明できるんですか？そもそも魔族って何ですか？」

「シラを切るのだな。まあ良い。それは貴様自身で考えることだ。時間はたっぷりあるから、精々私が満足する答えを思い出すことだな」

　騎士はニタニタとしながら冷たい口調で言い放ち、身を翻すと立ち去った。

「おい！待てよ！何なんだよ。そもそもここはどこであんたらは何者なんだよ！」

　健斗は牢屋の中で途方に暮れた。

　騎士が去っていったのち、叫ぼうが喚こうが、何の反応もなく、己の声が牢獄に空しくこだましただけだ。喉の渇きと、渇きから声が枯れて押し黙るしかなかった。

　どうすれば自分の無実を証明できるのか、何も思いつかなかった。そもそも【満足する答え】とは何なんだよ？時間が経つにつれ、健斗の心には不安と焦りが募っていった。

　その夜、健斗は牢屋の中で眠れずにいた。頭の中で様々な考えが巡り、どうすればこの状況を打開できるのかについて必死に考えていたが、やがて頭の痛みから気絶という形で意識を手放した。

　どれくらい気絶していただろうか、牢屋の外からかすかな足音が突然聞こえ、その音により目を覚ました。健斗は耳を澄ませ、誰かが近づいてくるのを感じた。

「誰だ？」

　健斗が声をかけると、鉄格子の向こうに小柄な影が現れた。影は慎重に周囲を見回し、健斗に囁いた。

「静かに。私は助けに来た。」

　健斗は驚きながらも、その声に希望を見いだした。

「誰なんだ？どうして助けてくれるんだ？」

　影は鍵を取り出し、鉄格子の錠を開けながら答えた。

「今は説明している時間がない。とにかくここから出るんだ。」

　健斗は急いで牢屋から出ると、影に従って暗い廊下を進んだ。影は手際よく道を案内し、やがて外の空気が感じられる場所にたどり着いた。

「ここからは自分で逃げるんだ。幸運を祈る。」

　女と思われるその影はそう言い残し、健斗に背を向けて去っていった。健斗は一瞬立ち止まり、影の正体を知りたかったが、今は逃げることが最優先だと判断した。

「ありがとう・・・」

　健斗は心の中で感謝しながら、外の世界へと飛び出した。夜の冷たい風が彼の頬を撫で、自由の感覚が蘇ってきた。

「ここからどうするか・・・」

　健斗は深呼吸をし、再び歩き始めた。彼の冒険はまだ始まったばかりだ。次に待ち受ける試練に向けて、健斗は心を奮い立たせた。