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第1話 プロローグ:【恋】旋律の予感

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 吾郎は第一志望の大学に合格し、これから始まる新しい出会いと生活に胸を躍らせていた。
 高校で3年間着ていた学生服をクローゼットにしまい、少し背伸びしてチノパンにシャツ、その上にジャケットというスタイルで新たなスタートを切ろうとしていた。
  自分の夢や理想を追い求めるために、建築デザイン学科へと進学する道を選んだ。その第1歩として一級建築士の資格を取り、いずれ父親のような素晴らしい建築士になるのが目標だ。
 いや、父を越える存在になりたいのだ!

 吾郎はオープンキャンパス以来大学に足を踏み入れておらず、まだ見ぬ異性や友、尊敬する講師達との出会い、自分の夢を叶える場所に心を踊らせ、いよいよ明日に迫った入学式を楽しみにしていた。

 子供の頃から建築物に興味を持っていたが、それは父が建築家だったからだ。 
 父は吾郎に色々な建築物の写真や図面を見せてくれた。
  吾郎はそれらに魅了され、建築物は人の暮らしや思いや歴史を表現するものだと父が言っていた事が心に刻まれていた。
 吾郎はそんな建築物を自分で作りたいと思った。

 しかし、吾郎の夢は父親の死によって一度閉ざされようとした。

 母親は吾郎が幼い頃に男を作って家族を捨てて出て行ってしまい、父親と2人で暮らしていた。
 父親は吾郎が高校2年生の時に事故で亡くなり、吾郎は父親の死後、祖母の家に身を寄せた。家事やアルバイトに追われ、勉強や趣味に時間を割くことはできなかった。父親の死によるショックから建築物に対する情熱も1度失われ掛けた。

 祖母が父親の残していた施主からの感謝の手紙を見せられ、吾郎ははっとなり父親の遺志を継ぐ道を選ぶ。その第一歩として建築デザイン学科に入学することを決めた。
 父親の残した建築物の写真や図面を見て、吾郎は父親のような建築家になりたいと再び強く願った。
 オープンキャンパスで見た大学の建物は、吾郎の心に深く刻まれていた。
 ここでなら自分の才能を開花させることができると信じていた。

 幸い友達や恩師、祖母の助けがあり、自分も部活を辞めてアルバイトで学費を貯めたのもあり、何とか大学に行く目処だけは立っていた。

 吾郎は引っ越し先のアパートに荷物を運んだ。
 部屋は築40年の単身者向けの安アパートだったが、 間取りは1Kで部屋は8畳と広さは十分だった。父親の死後にアルバイトで貯めたお金と、奨学金だけで大学に行かねばならず、お金に余裕がなかったからだ。 それに父親の事務所を維持するため、安アパートを選んだのだ。
 吾郎は部屋の状態には目をつぶった。 自分の夢を実現するために、ここで頑張ると決めたのだ。 部屋に入ると荷物をほどこうとしたが、その前に窓を開けた。
そこには、美しい青い空と白い雲、緑の木々と赤い屋根、そして、遠くに大学の建物が見えた。
 ここから新しい人生が始まるのだ!と感慨深いものを感じた。

 吾郎はまだ知らなかった。 
 このアパートで、自分の運命を変えることになる2人の女性と出会うことになるとは。
 彼女たちとの関係が、自分の夢や理想を良い意味で揺るがすことを。
 2人の女性との三角関係?
 これは3人の希望、愛と夢の歪な関係の物語。

 そして吾郎、瞳、楓の3人は大学生活をスタートするために新天地の扉を開く。

 吾郎は身長175cmで細身だが筋肉質。父が亡くなる前まではボクシング部に所属しており、辞めてからも体は鍛えていたのもあり、見た目からは想像がつかない力持ちだ。
 顔はややもっさりしているが、人の良さそうな印象を受ける。
 おせっかいを焼くタイプで、父親が亡くなってからは何でもしなければならなかった。それもあり歳不相応に老成していた。

 達観した感じからクラスメイトからは若年寄と呼ばれてはいたが、一目置かれる頼れる存在だった。 落ち着いた優しい性格は、やもすると頼りないと思われるが、1度火が付くと誰にも止められず、更に負けん気が強い。


後書き失礼します。
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