異世界の約束：追放者の再興〜外れギフト【光】を授り侯爵家を追い出されたけど本当はチート持ちなので幸せに生きて見返してやります！〜

第168話 激おこ！

　王妃はダイランド侯爵に抱きつき、彼の胸を涙で濡らしていたが、少し落ちつくと何とか言葉を呟いた。

「ダイランド侯爵。なぜ抱きしめてくださらないのですか？私は貴方の事を１日たりとも忘れたた事はありません。ま、まさか私のことを覚えておりませんの？」

　ダイランド侯爵は王妃の言葉に動揺した。
　過去にこの美しき王妃と自分との間に、何か関係があったのか思い出そうとしたが、心当たりがなく王妃に確かめる事にした。

「王妃様、過去に私はあなたとの間に何か関係があったのですか？それよりも何故王妃様がここにいらっしゃるのかについて理解に苦しむところでございます」

　王妃は、ダイランド侯爵の問いに悲しみと怒りを感じた。視野が狭くなっていたのだ。彼女は、ダイランド侯爵が自分の事を忘れてしまったと感じ、愛してくれていなかったと悟り、ダイランド侯爵に詰め寄った。

「わ、忘れたのですか！？私は恋に落ちたのです！あの日あなたは私と結婚する約束をしてくれたではないですか！私はあなたの妻になるものと信じていたのに私を裏切り・・・捨てたのですよ！」

　ダイランド侯爵は王妃の叫びに困惑した。
　王妃が自分と恋に落ちたり、結婚する約束をしたことを覚えていなかった。
　この怒りようや、これまでの態度から嘘を言っているようには見えなかった。これまで強引な手を使い妻にした者もいたが、それでも女性を裏切ったことはない。
　しかし、王妃との接点はセルカッツとの婚約する時位しかなかったはずだ。
　そもそも何故アイリーン王女がダイランド家と婚約したのか理解できていなかった。
　突然婚約の話が舞い込み登城したのだ。
　ダイランド侯爵は王妃を裏切ったり捨てたりしたことを否定したかった。

「王妃様、私はあなたと恋に落ちたことも、結婚する約束をしたこともありません。そもそも初めてお会いしたのは愚息とアイリーン様が婚約した時です。それに私はあなたを始め、女性を裏切ったことも、捨てたこともありません。どうか冷静になってください」

　王妃はダイランド侯爵の言葉に激怒した。この美しく淑やかな女性のどこにこれだけの感情を秘めているのか？と思うほど激昂していた。
　彼女はダイランド侯爵が自分を否定し、馬鹿にしていると感じた。
　ダイランド侯爵が自分を愛してくれているという希望を失い、失意の中にあった。

「平静を保って？あなたは私の心を傷つけ、私の夢を壊し人生を狂わせたのです！私を愛していて、いずれ救ってくださると信じてきたのに！」
　
　平手打ちの次は胸をぽかぽかと叩くが、肉体的には痛くはないが、心が抉られていた。

　ダイランド侯爵は王妃の言葉や態度2戸惑った。王妃が自分に対して暴力を振るうとは思わなかったし、自分に対して何を望むのか分からなかった。

「王妃様、本当にわからないのです」

　セルカッツ達はダイランド侯爵と王妃のやりとりに驚いた。彼らはダイランド侯爵と王妃との間に何かが有るはずだと思うも、先ずはダイランド侯爵と王妃の言い争いを止める事にし、セルカッツが２人に言った。

「父上、王妃様、どうか落ち着いてください。何か誤解があるのではないでしょうか？王妃様が何故ここまで強く言われるのか理解できません」

　ウルナやアイリーンはセルカッツの言葉に同意し、第三者であるウルナがダイランド侯爵と王妃に言った。

「ダイランド侯爵様、王妃様、どうかお互いに話し合ってください。あなたたちには何か秘密があるのではないでしょうか。王妃様はどうしてこんなに感情的になっているのですか？」

　王妃様が俯きわなわなと震えており、アイリーンがそっと手を握る。

「王妃様、誤解があるかもですので、過去に何があったのかを私達に教えて頂けませんでしょうか？解決の糸口を見つけようと思います」

　セルカッツ達はダイランド侯爵と王妃に仲裁をしようとし、２人に真実を話すように促した。
　それは和解する事を願ったからだ。

　しかし、王妃は、セルカッツとウルナの言葉に耳を貸さなかった。罵り、責めて泣き叫び続け、憎しみと愛情をぶつけた。

　セルカッツとウルナは、ダイランド侯爵に対する王妃のやりとりに呆れた。しかし、ダイランド侯爵と王妃が過去に恋愛関係があったこと、少なくとも王妃が今でも惹かれていることを理解した。
　ただ、ダイランド侯爵が目の前にいると感情的になるようなので、一旦ダイランド侯爵には襲撃の事後処理に行ってもらい、その間にダイランド侯爵との接点を話してもらうことにしたのであった。