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第164話 魔人化

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 キルカッツは話しながらセルカッツに対し剣を振り下ろした。 
 セルカッツは振られた剣を安々と受け流すと、首を振りつつキルカッツに言った。

「キルカッツ、お前は俺の弟だ。それに俺の数少ない血の繋がった家族だ。ここで魔王と決別して引き下がるなら見逃してやる!」

 キルカッツはつばを吐きながら後ろに飛び、火傷でひどい顔を更に歪めながら何かをしようとしていた。

 キルカッツは自分の胸に刻まれた魔王の紋章を掌で押さえ、魔王の名を呼んだ。
 正確に世間一般的に名前と言われるような名前は魔王にはなく、魔王というのが名前なのだ。

「魔王様、僕に力をください!僕に兄さんを倒す力をください!僕に兄さんの妻たちを奪う力をください!僕に兄さんを滅ぼす力をください!代償に魔王様の真の配下になります!」

 キルカッツの紋章が赤く光り始めた。
 するとキルカッツの体が変化し始め、その髪が白くなり、目が赤くなる。
 それだけに収まらなかった。
 顔の傷がなくなると牙が口から伸びて鋭くなり、更に爪が伸びた。
 キルカッツの体は徐々に筋肉質になり、背中に黒い翼が生え、魔物としか思えない姿へと成り果てたのだ。 

 キルカッツの体には人のそれとは違う量の魔力が満ち溢れた!つまり魔人と化したのだ。

 キルカッツは魔人化すると、理性を半ば失った。

「がっ!がっ!がでべぶ!だへ!がへ!がああああ!」

 キルカッツはひとっ飛びでセルカッツの目の前に飛びかかると、力任せにセルカッツに向かって剣を振り回した。  
 更にキルカッツはセルカッツに魔法を放ちつつ叫んだ。
 対した魔法ではないが、数が多かった。

「兄さん!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!くけけけけけ!」

 しかし、セルカッツは最少の動きだけでキルカッツの攻撃をかわした。  キルカッツの動きを読んだのだ。 
 更にセルカッツはキルカッツの隙を突いて反撃に転じつつキルカッツに言った。

「キルカッツ、お前は俺の大切な家族だ。お前は俺にとって何でもないなんてことはない。俺にとってお前は弟だ。だから・・・殺さない。お前を救う」

 セルカッツはキルカッツの紋章を狙って剣を振り下ろした。
  セルカッツはキルカッツの紋章を切り裂こうとしたのはキルカッツを殺す為ではなく、魔人化を解こうとしたのだ。
 まだ強大な力に振り回されており、キルカッツの攻撃は速くパワーがあるものの、理性が働かず単調で大振りだった。

 それでも紋章が弱点だと分っているようで、紋章を庇うのに手傷を負う。
 キルカッツも必死にガードするが、セルカッツは攻撃目標を手足の腱を切ることに変え、両手の動きを封じ、紋章を狙った時に逸れてその横などを切り裂いていた。

 やがてフラフラになり、トドメをと駆け出した。

  しかし、そのときキルカッツの仲間が現れた。 
 黒尽くめでフードを被っており顔もわからないが、どうやら現れた仲間は魔王の尖兵だ。
 そいつは煙幕を張ると瀕死のキルカッツを抱き上げてなりふり構わずに逃げた。  
 メイヤの槍とアイリーンの矢が刺さるも速度は落ちなかった。
 キルカッツはセルカッツに言った。

「今日の所は兄さんの勝ちだ!また会おうね!次こそは殺すからぁぁ!全てを奪いぃぃ滅ぼすうぅ。また会うまでそこのあばずれ共としっぽりやってなよおぉぉ!あでぃおうすう!めいやぁ!次は僕の色に染めたげるからねえぇ!くけけけけけ!キュヒヒイィィィン」

 キルカッツは何故か高笑いをしていた。 

 キルカッツに逃げられたが、セルカッツは追いかけられなかった。  
 あまりの事に掛ける言葉が思いつかず、変わり果てた姿のキルカッツが逃げるのをただただ眺めるしかなかった。
  
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