異世界の約束:追放者の再興〜外れギフト【光】を授り侯爵家を追い出されたけど本当はチート持ちなので幸せに生きて見返してやります!〜

KeyBow

文字の大きさ
上 下
137 / 173

第137話 1本の矢

しおりを挟む
 国王は満足そうに頷いた。

「それならば、問題ない。今からあなたたちには婚姻の契りを交わしてもらう。それはこの場でキスをすることだ」

 国王は微笑んで言った。

「略式ではあるが、この大陸では国を問わず国王夫妻の前でキスをすることで、その2人の魂は絆で結ばれる。私も契約魔法を持っているが、国王のそれは普通のとは違う。この場で契りを結ぶと宣言すればあなたたちは正式に夫婦となり、侯爵家に嫁ぐことからアイリーン君の王位継承権は放棄される。暗殺者も意味がなくなるからもう手出しをしないだろう。その宣言はキスをする事だ。」

 セルカッツとヤーマは互いの目を見つめた。彼らは恥ずかしさや不安や期待、決意や愛情が入り混じった感情で満ちていた。

 しかし、ヤーマは躊躇していた。彼女はセルカッツのことをまだよく知らなかった。アイリーンがセルカッツを絶賛し、愛していると言っていたから良い人だとは思っていたが、それだけではなかった。彼女は人前でファーストキスをするのが恥ずかしかった。
 彼女は自分の気持ちに素直になれなかった。

 (どうしよう・・・私は本当にセルカッツ様とキスをしていいのだろうか?・・・私はアイリーン様の代わりになれるのだろうか・・・私はセルカッツ様を愛せるのだろうか?・・・)

 ヤーマは心の中で叫んだ。

「では、始めましょう」

 国王が開始を宣言した。

 セルカッツはヤーマの手を握って励ました。

「大丈夫だよ、アイリーン。私も緊張しているよ。でも、これが私達の幸せのためだと思っている。私達は愛し合っているんだから」

 セルカッツは優しく微笑んだ。

「アイリーン、君は貞淑で清らかで美しい乙女だよ。君にキスをすることができて、私は本当に幸せだよ」

 セルカッツの言葉に、ヤーマは心が揺れた。彼女はセルカッツの瞳に真実を見た。
 彼女は目のきれいなセルカッツに惹かれていた。

【この場合、心が目に現れている意味で、吸い込まれそうになった】

 (セルカッツ様・・・あなたは優しくて強くて素敵な人です・・・あなたにキスをすることができて、私も幸せです・・・でもアイリーン様に申し訳ない・・・アイリーン様の夫の妾に収まれば、ずっとアイリーン様に仕える事ができる!迷う必要はないわ!)

 ヤーマは心の中で答えた。

 そして、彼女は勇気を出してセルカッツへ顔を向け目を瞑った。
 セルカッツはヤーマの肩に手を添えて顔を近づけた。
 そして2人の唇が触れ合った瞬間、魔法による光が彼らを包んだが、それは美しい虹色の光だった。
 2人の気持ちが1つになる感覚に、彼らは心から幸せを感じた。

 しかし、その幸せな瞬間は長く続かなかった。

 突然、セルカッツの側面から矢が飛んできた。それは暗殺者の仕業だった。
 矢とセルカッツ、国王とは一直線になる位置だった。
 国王は気づいて身をかわそうとしたが、間に合わなかった。
 先程までセルカッツの頭のあった所を矢が空を切る。
 セルカッツが口付けをする為、ヤーマの方へ少し動いたまさにその時の事だった。

 矢は国王の胸に突き刺さったかに見えたが、実際にはセルカッツが国王を庇って咄嗟に出した手に刺さったのだ。

 「陛下!」

 王妃は悲鳴を上げるもどうする事も出来ず、矢の行方を見ているしかできなかった。
 その矢をセルカッツが国王に当たる直前に手で受け止めたのだ。
 その矢はセルカッツを狙ったものなのか、国王を狙ったのか分からなかった。

 セルカッツは驚いて目を見開いたが、何とかその矢を掴むことができた。彼は咄嗟に自らの手で矢を受け止めたのだ。その勢いで矢は手のひらを貫き、国王の額にコツンと当たった。
 セルカッツの血が掛かり国王はパニックに陥ってひぃ~と腰を抜かす。

 「セルカッツ様!」

 ヤーマはセルカッツを抱きしめて心配した。彼女はセルカッツの手から血が流れているのを見て恐怖した。

 「大丈夫ですか?」

 セルカッツは苦しそうに答えた。

「ヤーマ・・・ありがとう・・・でも・・・この矢・・・毒が・・・」

 セルカッツは言葉を失って倒れ込んだ。倒れ込むと同時にセルカッツは意識を失ってしまった。
 その矢には強力な毒が塗られており、セルカッツは瀕死の状態に陥ってしまったのだ。

 「セルカッツ様!セルカッツ様!」

 ヤーマは泣き叫んでセルカッツの名前を呼んだ。彼女は彼を失うことに恐怖した。何故なら彼女はセルカッツの事を愛してしまったからだ。
 キスをした瞬間、強烈な運命を感じる何かが入り込み、キュンとなったのだ。

 そして、彼女は再びキスをした。それは彼に力を与えるためのキスだったが、しかし、それは何も変えられないように見えた。

 彼女のキスに呼応するように、魔法の光が再び輝いた。それは今度は金色の光だった。それは神々の加護を示す光だった。

 その光に包まれて、彼女は奇跡を願った。

 セルカッツが死なぬようにと。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~

WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
 1~8巻好評発売中です!  ※2022年7月12日に本編は完結しました。  ◇ ◇ ◇  ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。  ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。  晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。  しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。  胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。  そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──  ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?  前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜

KeyBow
ファンタジー
 この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。  人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。  運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。  ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...