エラーから始まる異世界生活

第1章

報告

　俺の息子である現在の皇帝に、空から落ちて来た者、つまりアトランジェについて報告する為に城に来ている。

　皇帝に報告と言っても、今の俺の立場は皇帝を退いた上皇である。つまり皇帝の後見人だ。

　俺は元々国政に興味がなかったので、皇帝を引き受けてくれる者がいて安堵した位だ。

　と言えば格好がよいが、帝王学に疎く、ルシテル達王族出身者に聞かないと何もできなかった。俺は政治家向けではない。

　国政に興味がないとはいえ、この国の平和に興味がないかと言えばそうではない。

　国難や魔族絡みなど異変があれば俺はこの国を守る為、この国の民を守る為、全力で剣を振ると言ってある。

　ただ俺の今の扱いは軍神や守護神の扱いである。

　今回は事件が有ってからある程度日が経ってから報告に来た。
　大雑把ではあるが、事前に伝えていた。但し、アトランジェ本人を連れて報告に行くのは初めてだ。

　アトランジェが片言ではあるが何とか会話ができるようになってきたので、今このタイミングで連れて行く事にした。書簡である程度の内容の報告は送ってあるのだが、例え書簡の内容と同じ事を話すにしても、当人がいるのといないのでは大いに違うであろうと判断し、アトランジェを連れて訪問する事にした。彼女は俺の立場をよく分かっていなかった。

　アトランジェは流石に今の段階では、俺の立場を気に出来る程の余裕がなかったのだ。
　また、皇帝という概念がない国や世界で育ったようで、上皇や皇帝と言ってもよく分からなかった。だが、この国の現在の支配者が俺の息子であり、息子は俺よりも位が低いと言ってある。俺は支配者としては引退しているようなものではあるし、政に口出しはしない。アドバイスを求められたり助力を請われれば助けもするが、余程の国難でなければ基本的にこちらからは動かない。

　俺の位置付けとしては目上に当たると説明し、理解されるまでかなり苦労した。

　息子に彼女がどういう国からどういう経緯で来たのかを話していった。また彼女がなぜこの世界に転移してきたのかの話については、おそらく転生前の彼女の魂に俺が触れているからだと、その為転送する先が本来転送される筈の世界から外れ、縁のある俺のいるこの世界に転移してきたのであろうと推測を述べておいた。

　今の所、他に異変がないとの事だ。また、あの店は先日漸く営業を再開したのだという。諸々の話が終わり、孫達に稽古を付け今日のところは引き上げる事になったのであった。