エラーから始まる異世界生活

第１章

居眠りと魔法

　気を取り直して更に進む。
　トマス達から取り残されて出発してから、かれこれ3時間位経過した頃だろうか。強烈な空腹を感じ、一度休憩を取る事にした。

　道の脇に座り干し肉と堅パンをかじったが、はっきり言ってまずい。

「うえー」

　とついつい漏らす。
　日本の食事を当たり前としてると携行食は拷問に近いが、それでも無理やり噛みしめて腹に入れる。
　そういえば、貰った水とは別に、鞄にペットボトルのお茶があった。貰った水は飲む気になれなかったので、お茶で喉を潤した。
　この世界じゃペットボトルの容器は貴重品となるだろう。貴重な水筒として使わなくちゃな、等と、今後の事について少し考えていると、不意に眠気に襲われた。油断したのだ。ウトウトと瞼が落ちる。
　危機管理意識不足と体力の限界…体側が音を上げたのだ。

　周りの気配を感じふと目が覚める。

「やっべー俺は寝てたのか？」

　と呟きつつ、慌てて足元に落ちている剣を掴む。
　『囲まれてる！』
　直感的に10匹の殺気を何故か感じたのだ。
　マズイマズイ逃げ道がない。
　この期に及んで逃げる事をついつい考えるのは平和な日本で育ったからであろうか。
　普通の人は、例えば通り魔が出たからと言って、英雄的行動に出て退治しようとは思わない。隠れたり逃げたりするのが普通である。自分の子供が襲われていれば別だろうが、普通は包丁持った奴が自分に向かってきたら逃げるものだ。

　しかし、囲まれていれば逃げるのは厳しい。何処かを一点突破で突き崩す必要があるが、奴らにナイフや弓が有れば、逃げても背後からぶすりとやられるだろう。

　意を決し、こちらから仕掛けると決めた。
　包囲網がまだ完成していない今なら意表を付けるかもと思い、周囲に注意を払う。ゴブリンが８匹にゴブリンアーチャーが一匹、ゴブリンメイジが一匹だ。距離が有るので、辛うじて武器とどんなゴブリンかが見てとれた。まだアーチャーもメイジも配置に着いていない。

　扇状に広がっている端にメイジがいて、弧を描いた反対側にアーチャーがいる。
　どっちか潰さないとやばいな。
　さてどっちにするか！
　メイジの方が危険と判断して、メイジを狙う事にする。ターゲットを決めたら一気に駆け出すが、メイジの前にゴブリンが居るので、まずそちらを狙う。
　荷物をその場に残して身軽な状態で一気に駆けるが、先の戦闘より体が軽くスピードが思ったより出たので俺も驚いた。寝ていた奴が急に起きて向かってきたものだから、一匹目のゴブリンは間抜けヅラをこちらに向けて固まっていた。
　そのまま首に切りつけた。が、少し浅かった。しかし３／４以上斬っていた為、即死。首の皮一枚で繋がった頭ごと、体が倒れていく。その光景ははっきり言ってグロい。

『棍棒術を強奪しました。スキルストックしました。』

　正直邪魔なアナウンスだ。気が散る。
　メイジの前にもう一匹出てきたので、袈裟懸けに切り捨てる。だがそのせいで、俺の足は一旦止まってしまった。そこにメイジが放った火の玉？ファイアーボール？が飛んでくる。３ｍ位前という近距離からのせいで、避けきれずに左の二の腕に喰らってしまう。服の腕の所が燃える。

「うがっーーーあちぃい」

　しかし俺はそれには構わずメイジに向かって走り寄り、魔法を放った後の硬直だろうか、固まっている所を首ちょんぱした。
　俺はすぐに地面に転がり、燃え上がった左腕の消火をする。
　少し火傷をしたようだ。ひりひりする。
　ＨＰが０に成らなければある程度の魔法は威力を殺してくれるそうだが、火傷は服に燃え広がった影響だろうか。

　そしてアナウンスが。

『ナイフ術を強奪しました。スキルストックしました。』
『火魔法を強奪しました。
　ファイアーアローを取得しました。
　ファイヤーボールを取得しました。』

　キター魔法！　異世界に来たからにはやっぱり使いたいよね。ビバ異世界！
　誰だ！適正無しって言ってたの！と思う暇はない。
　なぜならば、残り６匹居るのだから。

　残り5匹が一気にこっちに駆け込んでくるので、慌てて迎え討とうとう構えると、二匹同時に来た。左のナイフを持った奴に剣を突き出したが、勢いよく突っ込んできたので体を貫いてしまった。剣が抜けない。
　悪手だった。もう一匹の棍棒が、剣を引き抜いた直後の右手の甲を掠った。

「うっ」

　と呻いて剣を落としてしまい、剣を抜いた勢いで尻餅をついてしまっていた所へ、棍棒を俺の頭に向けて振りかぶってきた。

『まずい詰んだなこれまでか』
　と思うと同時。右手がゴブリンに向いていたので、ダメ元でファイアーボールと叫んだ。
　手から火の玉が出てゴブリンの頭を吹き飛ばした。
　あれ？さっきのゴブリンと同じ魔法だと思うが、何だこの威力！違いすぎるだろう！

『棍棒術を強奪しました。スキルストックしました。』

　初めて魔法を使った感動をしてる最中に不粋なアナウンスめ、と思いつつ、斜め上へ目掛けて放たれた為に木に当たらず空に向かっていったファイアーボールを、つい見ていた。幸いゴブリンも同じくファイアーボールを見ていたので隙にはならなかった。

「グギイギ」

　とつぶやいているゴブリンに手を向け

「ファイアーアロー」

　と唱えると顔の真ん中を貫いた。

『体力強化を強奪しました。スキルストックしました。』

　ああうっさい。
　ファイアーアローは顔を貫いて、木に当たる前に消えた。

「よしこれなら火事にならないな！」

　と思い、連続で

「ファイアーアロー」

　と叫んだ。
　今は手が痺れて剣が握れない。
　二匹の体の中央に焦げた穴が開いたが、肉が焼けた臭いがしてとても臭い。下水の臭いと良い勝負だ。
　倒れているのはぴくぴくとしていてまだ死んでいない。
　最後の一匹がゴブリンアーチャーだ。
　弓を放ってきたが余裕で避けると手をかざし

『ファイアーアロー』

　と心の中で唱えると出た。さっきは夢中で気がつかなかったが、無詠唱で行けるんだな。俺って意外とチートなのか？と思いつつ、頭を穿った。

『弓術を強奪しました。』


　あれ？まだあの二匹のアナウンスないな。
　二匹を見たが、一匹はもう息をしていない。
　もう一方はまだゼイゼイと苦しんでいる。苦しんでいる姿を見て喜ぶ性癖はないので、トドメを刺す事にする。

「トドメが欲しいか?」

　返答があるわけではないが、左手に剣を握り、首を落とした。

「ラベルアップしました」

　と聞こえてきたが、こいつもスキルのアナウンスが無かった。
　魔物は皆スキルを持っている訳じゃ無いのかな？

　眠りに落ちる前に考察したのだが、自分のスキルは殺した魔物のスキルを奪って得ている。
　切りつけて即死しなかった相手のスキルを得られたのは死亡後だったからだ。
　落ち着いたらしっかり考えよう。

　取り急ぎナイフを回収して、魔石と討伐証明を集めて、一応弓も確保する。質の悪そうな矢が矢筒に7本入っていた。
　ふと気付くと左の肩に鋭い痛みがあった。矢は刺さっていないが、掠ったらしい。幸い血は止まっているものの、左腕は動かすのが厳しく、下手に動かすと血が出そうだ。
　右手も今は痺れている。満身創痍で、我ながら『まあよく生き残ったものだ』とつくづく思った。

　そろそろ夜が明けようとしていた。転移3日目の始まりだ。
　急ぎ森を出て街を目指し、治療を行い安全な所で休みたい。

　スキル等、どうなったかステータスを見ようと思ったが、見ている間は注意散漫で無防備になってしまう為、奇襲が怖くて見れなかった。