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第64話 遺髪

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 友理奈が倒れている警官の元に歩み寄り、しゃがみ込んだ。俺たちは少し離れた場所から様子を見守る。友理奈の手が震えながら警官の首筋に触れると、そのままゆっくりと立ち上がり、振り返って小さく首を振った。

 「……死んでる」

 その言葉に浅香と弘美が息を呑み、顔を青ざめさせた。

 「……嘘でしょ」

浅香が弱々しく呟き、弘美も口を開けたまま声を失っている。俺も胸に重いものがのしかかる感覚を覚えたが、それでも動くべきだと自分に言い聞かせた。

 「ごめんなさい」

俺は静かに呟き、警官に手を合わせた後、懐からスマートフォンを取り出し、警官の顔を写した。浅香が驚いて声を上げた。

 「何してるのよ!」

 俺は振り返らずに答えた。

「身元が分かるようにするんだ。死体を置いていくしか無いから、せめて遺族に残せるものだけでも確保したい」

 次に俺は警官の胸元を探り、ポケットから警察手帳を見つけ出す。開いて中を確認すると、身分証明書が挟まっていた。俺はその手帳に警官の髪を少し切り取って挟み込み、慎重に懐にしまい込む。

 「何をしてるの?」

弘美が意を決したように問いかける。俺は溜息をついて、手を止めずに答えた。
 
「さっきも言ったが死体を持ち運ぶのは無理だ。このままだと、数日もしないうちにダンジョンに飲み込まれるか、魔物に荒らされる。それがこの世界の現実だ……だけど、せめて身分証と遺髪だけでも遺族の元に届けたい、体の一部を切り取ってなんて無理だ」

 浅香と弘美は沈黙したまま俯き、友理奈は目を閉じて何かを堪えているようだった。俺は腰に固定されていた警棒を取り外し、弘美に手渡した。

 「これ、使えるかもしれない。持っておいてくれ。武器は必要だろう」

 弘美は困惑したように警棒を受け取ると、何も言わずにただただ頷いた。

 警官の遺体に最後の別れを告げるように、俺たちは4人で手を合わせた。祈るようにして、それぞれの想いを胸に刻む。

 「……行こう」

俺がそう言うと、スルメイラが黙って周囲を警戒しながら先導する。足元にはいくつかの魔物が残したドロップ品が転がっている。俺はそれを拾い集め、バッグに押し込んだ。
 どこで何が必要になるかわからない。もしものときは捨てれば良いからと集めた。

 ここが何階層なのか分からないが、低階層ではないことは明らかだ。これ以上この場所に長居すれば危険だと判断し、俺たちはその場を後にした。
 振り返ると、警官の遺体が規制線越しに小さく見えた。何もできない無力感が胸を締め付けるが、それでも前に進むしかない。

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