イレギュラーから始まるポンコツハンター 〜Fランクハンターが英雄を目指したら〜

第63話 ゾンビ

　警官を倒したオーガと思われる魔物の棍棒が唸りを上げる。俺は特製の分厚いアクリル製の盾を掲げ、その一撃を真正面から受け止めた。衝撃で足元の土が揺れるが、踏みとどまって槍を振り上げ、オーガの胸元を貫く。盾には小さい傷がつく程度で期待通りの仕事をしてくれた。

　「これで終わりだ！」

　槍の一撃が決まるとオーガの巨体を霧散した。しかし安堵する間もなく、倒れている警官の方に目をやると、別のオーガが迫り棍棒を振り上げていた。

　「くそっ！」

　俺は盾を構えたまま警官の元へ走り込む。棍棒が振り下ろされる瞬間、間に割って入り、盾でその一撃を弾き返すべく体重を乗せた。盾に逸らされた巨大な棍棒は地面にめり込み、隙を晒したオーガに俺は槍を突き立てる。

　「これ以上させてなるものか！」

　一撃で仕留めたようでオーガが霧散し、ようやく警官をかばう形で立ち止まる。

　そのとき、不意に周囲がざわついた。気配を感じて振り返ると、倒れている警官に向かって数体の人影が歩いてきていた。いや、違う。そいつらの肌は青黒く、目は濁り、明らかに生者ではない。

　「・・・ゾンビかよ」

　俺が息を呑む中、浅香と弘美が口をそろえて叫んだ。

　「き、気持ち悪いわ！」
「何よこれ・・・臭いじゃい・・・」

　浅香が顔をしかめ、弘美も眉をひそめてナイフを握り直す。



　「まさかこんなところで・・・」

　俺が呟く間もなく、スルメイラが三人をかばうべく一歩前に出た。

　「ぼさっとしてたら死にますわよ！」

　冷たい声でそう告げると、目の前に迫ったゾンビを躊躇なく蹴り飛ばした。ぐしゃり、と嫌な音を立ててゾンビが吹き飛び霧散する。

　「な、何の躊躇もないな・・・」　

　俺が思わず言うと、スルメイラは振り返りながら涼しい顔で言い放つ。　

　「これがダンジョンよ。呑気にしている暇なんてないわ！」

　俺はゾンビたちの数をざっと数え、状況を整理する。逃げ場を作る必要があるかもしれないが、ここで奴らを片付けなければならない。

　「全員、俺の後ろに下がれ！こっちのは俺がやる」

　俺が叫ぶと、友理奈が驚いて硬直する浅香と弘美の肩に手を置き、必死に声をかける。

　「大丈夫、銀治がいるから。落ち着いて！」

　友理奈の言葉で、2人の震えがわずかに収まるのを確認してから、俺は再び盾を構え直した。

　「スルメイラ、ゾンビの弱点を頼む！」

　スルメイラが冷静な声で応じる。

「頭部を狙うのです。それ以外では止められません」

　ゾンビたちがゆっくりとこちらに向かってくる。俺は盾を前に突き出し、槍を構えながら次の一手を考える。戦うか？逃げるか？どちらにしろ一瞬の油断が命取りになるだろう。

　振り向く余裕がないが、友理奈たちの方にも魔物が向かってきているのがわかった・・・