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第56話 ピコピコ

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 その武器は【ピコピコハンマー1号】と浅香により名付けられた。見た目はまさに子供が遊ぶあの赤い【ピコピコ鳴るハンマー】をそのまま巨大化させたものだ。

 持つとコミカルに見えるが、実際はかなりの威力を秘めている。サイズは2歳児が持つおもちゃのハンマーの比率でスケールアップしたような感じで、全長も大きく、重さは8kgほどだ。

 そして見た目以上の破壊力がある。特に、質量以上の衝撃力を持つため、レアリティとしてはSSR級の性能を誇る。
 恐らく魔力を吸い上げて攻撃力を上乗せするのだろうと思った。
 詳しくは鑑定待ちだが、浅香のツボに嵌ったようだ。

 難点はその『ピコピコ』という音だ。
 攻撃するたびに大きな音が鳴り響くため、隠密行動には不向きだが、浅香はそれさえも楽しんでいる様子だ。

 試しに2階に降り立ち、最初に出現した魔物に浅香がハンマーを振り下ろすと一撃で粉砕した。威力は確かに折り紙つきだが、見た目と音のために人気がないのも納得できる。
 ネットでと言うか、配信サイトでピコピコハンマーゲットしましたと、視聴稼ぎの為にネタ配信をしているハンターがおり、以前クラスの奴のスマホで見た覚えがある。
 驚いたことに浅香はガチで使うつもりのようだ。

「やりました! こんなに強いなんて!」 

 浅香は大喜びで、その様子に友梨奈と弘美も驚きつつ、その異様な見た目の武器に少し笑いをこらえていた。

 ダンジョンを出た俺たちは更衣室で着替え、荷物をまとめてギルドに向かった。道中、浅香がピコピコハンマーを抱えてバスに乗ると、車内の乗客たちから奇異の目で見られる。仕方なく、俺の黒い外套を貸して隠そうとしたが、大事なレアアイテムである外套の使い方が雑すぎて「なんか違う・・・」とぼやくしかなかった。目的外の使い方が多すぎるんだよな・・・

 ギルドに着くと、水木さんがカウンターで迎えてくれた。俺たちが近づくと、例のピコピコハンマーを目にして生暖かい目を向けてきた。

「また可愛い女の子を連れてきたんですね。それにしても・・・その武器、なかなか個性的ですね。名前、考えました?」

「『ピコピコハンマー1号』です」
「いい名前ですね」

 浅香が少し得意げに答えると、水木さんは微笑みを浮かべたが、どこか言葉の端々に皮肉が混じっている気がした。また、顔が少し引きつっていたような気がするが、指摘しないのが皆の幸せのためだろう。

 換金作業が進み、最終的な金額が算出される。1階層の魔物12体、ボス1体、そして2階層の魔物2体の戦果で合計は42,000円ほど。思ったより良い成果だ。俺と友理奈が索敵をし、発見次第2人が対処するのを繰り返していたから、短時間でそこそこ倒せていた。
 まあ、4人でという事を考えたら及第点となる。

「さて、分配だけど・・・2人で分けてよ」

 俺が切り出すと、浅香がすぐに手を振って言った。

「私はいいです!だって、ほとんど先輩と友梨奈さんが頑張ったんですから!それに私にはこのピコピコハンマー1号があるよ!」

 弘美も頷きながら口を開く。

「そうです。私も分配なんていりません。ただ、申し訳ないので4等分にしておけば公平ではないですか?倒したのは私たちですが、指導してもらっていましたから」

 だが、俺は首を振った。

「いや、それはダメだ。今日の稼ぎは全員での成果だ。経費を引いて、残りを均等に分けるのがパーティーのルールだよ」

「でも・・・」

 浅香が納得いかない様子で言葉を濁す。

 友理奈が追い打ちをかけた。「それなら私の分も浅香さんと弘美さんの分に回してください」

 などと言い張り、収拾がつかない。仕方なく俺は少し強引に分配を決めた。

「じゃあ、こうしよう。弘美、君は装備を買わないといけないから多めに持っていけ。そうだな、浅香が、1で、弘美が2だな。それでもだめだと言うなら全員で均等に分けるぞ」

 そう言って俺は強引に浅香と弘美のカードに、それぞれ適切な金額を振り込んだ。

「ありがとうございます・・・でも、なんだか申し訳ないです」
「次はもっと頑張ります!ありがピコピコなの!」
 弘美が小声で礼を言うと、浅香もと拳を握りしめてお礼を言ったが、言質がピコピコになっていて皆の笑いを誘った。

 そのやりとりを見ていた水木さんが、生暖かい目を俺に向けながら言った。

「市河様、いいリーダー振りをしてますねぇ。でも、あまり無理しないでくださいね。特に他の方のお財布事情とか考えてくださいね」

「・・・わかってますよ」

 俺は水木さんの指摘に肩をすくめるしかなかった。

 外に出るとすでに日が暮れていた。明日はもっとスムーズに動けるように準備しないとな、と心に決めながら4人とも帰路についた。
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