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第30話 イレギュラー再び

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 袋小路を見つけると森雪さんとスルメイラが話を始めた。
 袋小路は背後を気にしないで済むから、森雪さんはそこで話をしようとした様だ。

 俺はスルメイラと森雪さんが袋小路で話している間、いや、スルメイラが説教され始めたので少し奥へと歩を進めることにした。

 二人が話しているのを見てどこか安心してしまったのかもしれない。

 ふと、遠くから「大変!」という森雪さんの声が聞こえてきた。

 数秒後「銀治君!」名前を呼ばれ、驚きと焦りが胸を駆け巡った。

 気づけば俺は1階層の階段が見えるところまで来ていたが、森雪さんの声がした瞬間、階段の向こうから不穏な気配が漂ってきた。

 胸の奥で何かが警鐘を鳴らし、思わず剣を構えて立ち止まる。その瞬間、そこから出てきた何かは俺を無視して森雪さんの方に向かって行ったので、俺は慌てて駆け出した。

 そこに現れたのは、巨大なミノタウロス――このダンジョンで出るのは一箇所のみのはず・・・7階層のフロアボスだ。スルメイラを召喚しようと思ったが、そういえば森雪さんと一緒にいるんだった。ミノタウロスが見えると、その先に森雪さんとスルメイラが見えた。スルメイラは森雪さんをかばおうとして突き飛ばす。その隙にこん棒がスルメイラを吹き飛ばすも、壁に激突する寸前に回転し、壁を蹴って格好良く着地する。言質は残念だが、体さばきは華麗で嫌味なくらいカッコ良い。ふわっと舞ったがスカートが捲れる、下着が見えないギリギリで、慌てて整えていた。
 そこに隙が生まれ、ミノタウロスが斬馬刀?を振りスルメイラの背後を襲う。

 まずいと思いカードに戻すことにした。

「戻れするメイラ!」

 ぽすんと音がしてスルメイラがカードに戻り、斬馬刀が空を斬る。

「森雪さんに何をするんだ!許さんぞ!」

 はっとなり叫んだ。スルメイラのことは置いといて、俺はサブウェポンのコンバットナイフを握ると、躊躇うことなく投げた。するとミノタウロスの分厚く筋肉ムキムキな背中に刺さる。
 しかし、筋肉に阻まれて大したダメージは入らないが、目的はヘイトを稼ぐこと。
 黒いビキニアーマーを着るなどある意味不気味で恐ろしい姿をしており、ものすごい形相になり俺を睨む。
 よしっ!ヘイトが俺に向いたぞ。そして鼻息を荒くしたミノタウロスが俺に向かって突進してくる。巨体が地響きを立て、迫りくる。俺は一瞬も目を離せない。けれど――その突進は、思っていたよりも遅い。確かに力強いが、意外と避けられる。

「・・・あれ、これ…いけるか?」徐々に自信が戻ってきた。俺は恐怖を振り払って、剣を構え直す。

 徐々に自信が戻ってきた。俺は恐怖を振り払って、剣を構え直す。最初の一撃を避けると反撃に転じた。ミノタウロスの振り下ろした斧をかわし、隙を見つけて切り込む。思ったよりも戦えていることに気づいた。

「いける、これなら!」

 俺は流れるように攻撃を繰り出し、ミノタウロスの動きを見切りながら、的確に斬り込んでいった。10度目の交戦の後、剣がミノタウロスの胸に深く食い込み、ついにその巨体が崩れ落ちた。

「ぐああああ…!」

 ミノタウロスの断末魔が響き、俺は立ち尽くした。手元を見つめると、震えていた手がもう安定している。まさか――7階層のフロアボスを、こんなにもあっさり倒せるとは。

「俺・・・本当にこんなに強くなってたのか・・・?」

 驚きとともに、自分の成長を実感する。戦いは俺を確かに強くしていたのだ。森雪さんやスルメイラに見守られながら、この感覚がじわりと広がっていった。


 俺は肩で息をしながら、ミノタウロスの体が霧のように消えていく様子を見つめていた。その瞬間、わずかにダンジョンが揺れた気がした。地面に転がるのは、テニスボールほどの大きさの魔石。これがこの戦いの報酬だということを示していた。

「これを売れば…50万か…」

 俺は思わずごくりと唾を飲み込む。有名なミノタウロスの角も残されていて、それがフロアボスだったことを確信させた。休み時間に森雪さんがこのダンジョンのボスについて教えてくれたことを思い出す。

 だが、ふと足元を見ると、何故かビキニアーマーがドロップしていた。…まさかこれは、あのミノタウロスが落としたものなのか?鑑定してみないとわからないが、7階層のボスのドロップがただのレア(R)なわけがない。SSR級のレアリティがあってもおかしくないはずだ。もしや、あのミノタウロス…メスだったのか?

 不意に森雪さんのことを思い出し、急いで彼女の元へ戻ると、なんと彼女は一人だった。スルメイラの姿がない。森雪さんが慌てた様子で駆け寄ってくるが、俺が手にしているビキニアーマーを見た途端、その目がじっと俺を見据えた。

「なにそれ?・・・」

「いや、これ、ボスが・・・」

 俺が弁解しようとするも、彼女の目はジト目になっていた。まるで、「本当にそれがドロップしたの?」とでも言いたげな表情だ。
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