イレギュラーから始まるポンコツハンター 〜Fランクハンターが英雄を目指したら〜

KeyBow

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第19話 生え終わり

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 俺は9階層の入口付近から5分ほど歩いたとこらで壁に背をつけ、スルメイラの手を握りながら息を潜めていた。
 彼女が言うには、下の階に進むほど空気中に漂う魔力が濃くなるから、腕の再生も早くなるはずだという。また、俺の魔力の回復も1階層より遥かに早い。
 言われてみればボス部屋を出てからは手の再生が遅くなった気がしてきた。それもあり、彼女の助言に従いここに来ている。

 1階層では、魔力の回復速度より、スルメイラに与える魔力の方が倍近く多いと感じたが、今はほぼ同量に思える。
 つまり、ここだと与えた魔力が即時に回復される。

 それと、同じ階層でも奥に行けば行くほど手の再生速度が上がっているのを感じた。それでも完全に治るまでには2時間ほどかかった。
 また、スルメイラの魔力は1時間ほどで全快になったようだ。
 これだと、ぽちぽち回復させないと大変だな。

 俺が得たスキル【ハーミット】のおかげで、俺たちは気配を消して周囲に気づかれることなく移動できていたのが幸いだ。

 しかもこのスキルは、俺と触れている相手にも効果がある。とはいえ、こちらから攻撃したり、たまたま誰かにぶつかったりすると効果が解除されてしまうので注意が必要だ。
 だが、目の前、つまり手を伸ばせば届く距離をリザードマンが通り過ぎるのを見た時は、正直チビリそうになったけど、こちらに気がつく気配は微塵も感じなかった。

 手の再生がほぼ完了し、9階層から1階層へと戻ることにした。スルメイラが片手だった俺をしっかり護衛してくれていたおかげで問題なく回復できた。

「手の感触を確かめたいんだ」

 俺がスルメイラに言うと、彼女はちょっと不思議そうな顔をした。

「え、どういうことですか?」

 彼女が警戒するように聞いてきたので、真面目に答える。

「ちゃんと再生してるか確かめたいだけだよ。手の感触を確かめたいんだ。だからさ、ほら、手を出して」

 そう言いながら、自分の?というか再生した左手で彼女の手に触れた。

「ああ、そういうことね」 

 スルメイラは少し照れたようにしながらも笑みを浮かべながら素直に手を差し出してくれた。
 そういうことねって、なんだと思ったんだよ!と突っ込んだら負けな気がした。
 でもさ、さっき迄魔力補充のために手を握っていたんだがとつぶやきそうになった。

 俺は自分の手がちゃんと元通りになっていることを確認し、これで準備が整ったと安心した。

 握手するとちゃんと感覚があるも、スルメイラに言われ右手でも握手し、両手とも力一杯握ったが、再生した左手は右手の半分ほどの握力だと伝えられた。
 恐らくかなり握力は低くなっているが、よほどの強敵とやり合わない限り大丈夫そうだ。

 それと、スルメイラの方が肉体的に強く俺より握力があるのだと、やはり人間ではないんだなあと実感した瞬間だ。

 手が完全に再生したので、俺たちは9階層の入口に向かい、そこから1階層へと戻った。
 1階層に出ると、少し奥に進んでからスルメイラをカードに戻すことにした。人目のないところで戻すのは、不測の事態が起きた時にカードを回収できなくなるのを防ぐためだ。

 ふと思い、スルメイラにカードへ戻る瞬間のことを聞いてみることにした。

「カードに戻っているときはどんな感じなんだ?」

 彼女は少し首をかしげてから答えた。

「うーん、記憶がないというか、ぼーっとしてて、ふわふわしてる感じ?次に召喚されたら寝起きな感じかな?」

 何とも言えない答えを返してきた。どうやら彼女自身も、カードに戻っている間のことはよく分かっていないらしい。
 詳しく聞くときのうのことも途中から記憶が曖昧で、ダンジョンの入口辺りにいたような気がする程度で、先ほど俺が召喚した時もそれが当たり前としか思わなかったそうだ。

 付き合ってくれたお礼を言うと、俺はアパートに戻るからとスルメイラをカードに戻すことにしたが、困ったことにダンジョンを出る以外戻すやり方が分からなかった。

 後で調べることにし、手を繋いでダンジョンを出た。
 すると俺の手にはスルメイラのカードが握られており、無事スルメイラのカードを回収できた。

 ダンジョンを出た俺は、帰りにケーキを買ってからアパートへ戻ることにした。
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