イレギュラーから始まるポンコツハンター 〜Fランクハンターが英雄を目指したら〜

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第16話 お世話される

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 天藤ギルド長の話が終わろうとした時、森雪さんが少し躊躇いながらも口を開いた。

「私も・・・レイドに参加していた者として、責任を感じています。私は怪我をして早々に外に運ばれたけど…参加していたことに変わりはないし、償いをしたいです。」

 その言葉に、俺は一瞬驚いた。森雪さんがそんな風に感じているなんて思ってもみなかった。

 天藤ギルド長は静かに首を振り、俺は冷静な口調で答えた。

「森雪さん、君に罪はない。今回の件で罰を受けるべきなのは、俺を生贄にしようとした者たちだ。森雪さんをはじめ、参加しただけの者に責任を追及するつもりはないし、森雪さんが罪を感じる必要もないよ。」

 森雪さんはそれでも顔を伏せ、目に涙を浮かべながら言葉を続けた。

「でも・・・私は市河君の腕がこんなことになったのに、何もできなかった。だから、せめて・・・市河君の腕の代わりに、私に身の回りの世話をさせてほしいんです。少しでも償いたい気持ちがあるんです。」

 その言葉を聞いて、俺は困惑した。森雪さんは何も悪くないのに、自分のためにそんなことを申し出るなんて思ってもみなかった。後で知ったが、肉体再生について聞き漏らしたようで、手が生えると思わなかったからの話なんだ。俺は口を開こうとしたが、言葉がうまく出てこなかった。

 天藤ギルド長は少し考え込み、穏やかな声で言った。

「市河君、どうするかは君の判断だ。森雪さんの申し出をどう受け取るか、君が決めることだ。もちろん、彼女の気持ちは尊重すべきだが、強制はしない。」

 俺は深呼吸して、森雪さんに向かって言葉を絞り出した。

「森雪さんに責任はないよ。森雪さんがそんな風に考える必要はないよ。俺のことを気遣ってくれるのはありがたいけど、無理はしないでほしいんだ。」

 森雪さんは涙を拭いながら、少し微笑んだ。

「無理なんかじゃないよ!むしろ、何もできなかった自分を許せないから・・・少しでも力になりたいの。」

 森雪さんは強い意志を持って静かに答えた。

 天藤ギルド長はそのやり取りを見つめ、再び話を切り出した。

「さっきも言ったが、保障や賠償に関しても、君の意向を尊重する。高額の賠償請求もできるし、問題を起こした者たちに対してはハンター資格の停止や封じ込めの処置も可能だ。だが、すぐに決めなくていい。今は時間が必要だろうからしっかり考えてくれ。ただ、なし崩し的にとは言え、君を見殺しにしたと思っている者に対しお咎めなしだと、森雪さんのように罪の意識に苛まれる者も出るだろう。これは身勝手なお願いだが、出来ればペナルティーをゼロではなく、軽いペナルティーを与えるだけにして欲しい。」

 俺はゆっくりと頷いた。今すぐに答えを出すのは無理だが、少しずつ自分の中で整理をつけなければならない。

「今後も君を守り、今回の事件について徹底的に調査を進めていく。だから、市河君、焦らずに自分のペースで進めばいい。」

 天藤ギルド長はそう言って、俺に温かい視線を送った。

 その後、俺は森雪さんと共に校長室を後にした。まだ何も決まっていないし、何も解決していない。それでも、俺の周りには支えてくれる人たちがいることが、少しだけ救いだった。

 その後校長とギルドマスターが話をすることになり、水木さんと俺、森雪さんは校長室を後にした。

 水木さんは森雪さんにメモを渡し、俺と森雪さんは水木さんを玄関で見送った後、教室に戻った。
 授業中の為、そのまま机に座ると授業を受けることになった。

 隣の席の森雪さんは、授業の間ずっと俺のそばを離れなかった。元々隣なのもあるが机をくっつけて授業中も休み時間も、何かにつけて俺の世話を焼く。

 教科書を取り出してくれたり、ペンを貸してくれたりと至れり尽くせりで、本当に助かった。俺の左腕がまだ包帯で巻かれていることを気にして、何度も様子をうかがってくれる。

 周りの連中は、俺たちの様子を見て、ニヤニヤとした笑みを浮かべながら

「あっついねぇ」と冷やかしてくる。特に放課後のいつものメンバーは、まるで俺たちが付き合ってるみたいに噂し始めた。

「銀治!ついに彼女ができたのか?しかも森雪さんか!」

 からかい半分で聞いてくる奴もいた。

 正直、そんなことは一度も考えたことがなかったし、俺にとって森雪さんは特別な存在でもなんでもない。もちろん彼女には感謝してるけど、あくまでそれだけだ。俺の彼女なんかと間違われたら、森雪さんに迷惑をかけるだけだと思う。彼女が笑顔で世話を焼いてくれるたびに、申し訳ない気持ちが胸に湧き上がった。
 それと俺が密かに彼女に好意を持っているのは別の話だが、今回のことをちらつかせデートに誘えば間違いなくデートできるだろうけど、それは違う。
 立場を利用したのはデートと呼べないし、腕の再生が終わったら・・・

 授業が進む中、ふと新司の姿がないことに気づいた。この日、新司は学校に戻ってくることはなかった。朝の集会で彼が逃げ出した姿がまだ頭に残っている。あの時の表情・・・狼狽し、焦りまくっていた顔が忘れられない。
 ギルドマスターの言っていた通りだ。
 聞いただけなのに、見てもいない者のことを的確に指摘していたから、ハンターギルドのマスターというのは凄いんだなと感心した。

 レイド戦に参加していた他のメンバーも、教室ではどこかバツが悪そうにしている。普段は堂々としている連中が、今日はどこか俯いていて、俺と目を合わせようともしない。

 特に俺と同じ四番隊だったメンバーは、何もなかったかのように振る舞おうとしつつも、時折こちらを気にしているのが分かる。きっと昨日の出来事が彼らの頭の中を駆け巡っているのだろう。

 森雪さんはその様子を見ても、あえて何も言わず、俺にそっと寄り添ってくれる。

「銀治君、大丈夫?」

 考え事をしていた俺を小声で気遣ってくれる彼女に、俺は静かに頷いた。

 彼女がこうしてそばにいてくれることが、今の俺には心強かった。
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