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第10話 悪意

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 ボス部屋の扉は何故か中々開かなかったが、俺たちがボス部屋を去る準備が整うのを待っていたかのように重々しい音を立てて一気に開いた。

 扉が開ききると共に真っ先に入ってきたのは、レイド戦の総隊長である四十歳ほどのおっさ・・・じゃなくて壮年の男・田村だった。彼の険しい表情が、異様な雰囲気をさらに強調している。
 続いて第二パーティーのリーダーである鷹村や、俺の同級生で第四隊のリーダーである春森新司、他のメンバーたちも次々と部屋に入ってきた。

 森雪さんの姿はないな・・・ある意味安堵した。
 入って来たのはレイド戦に参加した者のみで、各パーティーのリーダーと第一と第二パーティーの全員だけだ。

「おかしい・・・ボスがいないだと?洋梨は死んだんじゃなかったのか…?」

 田村は疑念を口にしながら部屋の中を見渡した。春森も同じように目の前の光景に困惑している。部屋にはボスの姿も、俺の姿も見当たらない。代わりに、そこにあったのは・・・

「こ、これは・・・!」

 春森が立ち止まり、床に転がっているものに目を留めた。それは切断された俺の腕だった。そこにあったのか。まあ、生えてきてるから要らないや。

 彼はその光景を見て顔をしかめ、やっとの思いで口を開いた。

「洋梨・・・銀治の・・・腕だ・・・やっぱり死んだのか・・・」

 その言葉に周りにいたレイド戦参加者たちも驚愕し、静まり返る。 田村総隊長は腕を組んで考え込むように眉間にシワを寄せた。

「ふむ・・・どうやら奴はここでやられたらしいな。だが、ボスがいないというのはどういうことだ?」

 彼の言葉に、部屋の空気がさらに重くなる。まさか捨て駒にした銀治、つまり俺がボスを倒せたとは誰も思っていないが、状況があまりにも不自然なので困惑しているようだ。

 その時、第二隊のリーダーである鷹村が、総隊長・田村のもとに歩み寄り、手に持っているものを差し出した。それは奴のカードホルダーだった。しかし、その中には肝心な未使用のカードが入っていない。 入っていたのは奴のゴブリンとリトルボアのカードだけだ。

「おやっさん、これっすよ・・・カードホルダー・・・でも、肝心のカードがねえっすよ・・・オレのしか入ってねえっすわ。」

 チンピラのような口調で鷹村が困惑した様子を見せながら、カードホルダーを田村に見せた。いや、見た目もそっち系だ。田村はそれを受け取り、しばらく黙ったまま見つめた。

「カードが無いだと・・・?確か9階層を抜ける時に10階層に出るはずのボスが現れ、そいつを倒した時にカードが出たよな?その人形をしたカードはそこに入れたはずだったよな?」

「そっす。パーティー員も見てましたぜ。おやっさんも見てなかったから分かんねぇかもっすが、何故か10階層のボスがあそこにいたんっすよ。でもよぉ、ボスのやつ、何かと戦った後なのか弱ってたんでよ、倒すのは楽だったんすよ!」

 田村は険しい顔のまま、少し考えた。

「・・・多分10階層にイレギュラーが出て、10階層のボスが追い出されたんだろう・・・そのカードを拾ったのが洋梨で、そのファミリアが何とかボスを倒したんだろうな。だが、奴は死んだ。だからカードも一緒に消えた・・・そんなところか?」

 鷹村がさらに口を挟んだ。

「でもよぉ、おやっさん、それだとカードは残るんじゃないっすか?召喚した奴がやられたからって、カードが無くなるって話、聞いたことねえっすよ。」

 田村は腕を組み、さらに渋い顔で答えた。

「サモナーが死んでも、ファミリアは数分間は戦闘を続けられるはずだ・・・しかし、その後はどうなる?ファミリアはカードに戻るが、そのカードが何らかの理由でダンジョンに吸収されたんだろう。通常はサモナーが持っていた場所に戻るが、今回は違う。おそらくダンジョンそのものに吸収されてしまったんだ。ここはボス部屋だ」

「そ、そんなのありかよ・・・。くっそ、じゃああの人形カード、どっかに行っちまったってことかよ・・・。ふざけんなって話だぜ・・・余計なことをせず、黙って死んどけよ!」

 鷹村は苛立ちながら、田村に質問をぶつけていた。田村もまた、一見すると冷静さを保ちながらも、イライラを隠せない様子で部屋全体に目を向けた。

「・・・誰かがここでカードを取ったんだ。それが洋梨だった可能性が高い。だが、奴の死後カードは消えたということだろう。どちらにせよ、カードはもう手に入らない・・・残っていても手垢がついたカートは価値がない・・・」

 田村の言葉に部屋全体がさらに重苦しい雰囲気に包まれる。鷹村は何度も口を開きかけたが、答えが見つからずにその場でうろたえていた。

 そんな中、春森が俺の切断された腕を見て呆然としていたが、うわ言のように唸りだした。

「どうして・・・ボスもいないし、洋梨もいない・・・。奴は死んだはずなのに・・・腕以外の死体すらないなんて・・・それに、カードを持ち去ったのは誰なんだ?あいつ以外全員脱出したんじゃなかったのかよ・・・」

 9階層でのドロップ品、スキルオーブとカードを探せという指示を受けたにもかかわらず、状況があまりに混乱しているため、春森も混乱を隠しきれなかった。

 部屋の中は再びざわつき始めた。総隊長も隊員たちも、次々と荷物を探し始め、俺がいた証拠や他の手がかりを見つけ出そうと必死だった。

「くそ・・・」

 春森は俺の持っていたバットのグリップを握りしめ、悔しそうに呟いた。
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