異世界でハズレスキル【安全地帯】を得た俺が最強になるまで〜俺だけにしか出来ない体重操作でモテ期が来た件〜

第36話 加減って難しいな

　俺は剣を軽く握りしめながら森の中を歩いていた。今日はオーク狩りだ。ゴブリンを倒したばかりだから少しは余裕があると思ったけど、正直不安がある。昨日の夜、宿でミカとカナエに言われたことが頭をよぎる。

「やまっち、剣は軽く振るのが基本なんだからね。力任せに振るのは良くないわよ」

「そうね、無駄に力を使っても疲れるだけだし、逆に相手に隙を見せることになるわ」

　ミカが真剣な顔でそう言うとカナエも頷いた。

　二人の言うことはもっともだ。でも、俺にとってはそれが難しい。今まで力任せでしか戦ってこなかったから、急に軽く振れって言われても感覚が掴めない。それに、昨日誰かに見られているような気がして気味が悪かった。でも、今日はそんな気配は感じない。少し安心しつつも、気を引き締めて歩いていた。

　森の中は静かで、風が木々の間を抜ける音だけが聞こえる。時折、鳥のさえずりが耳に入ってくるが、それ以外は自分の足音しか聞こえない。この静寂の中で、俺の心臓の鼓動だけがやけに大きく感じる。

「今日はオークの常時討伐依頼をこなすぞ。オークを見つけ次第、討伐する。」俺は二人に向かって言った。

「了解。無理はしないでね、やまっち」とカナエが心配そうに言う。

「大丈夫だ。俺はもう昔の俺とは違う。ちゃんと二人のアドバイスを活かして戦うよ。」俺は自分に言い聞かせるように言った。

　しばらく歩くと、遠くから低い唸り声が聞こえてきた。オークだ。俺は音のする方向に注意を向けながら、慎重に歩みを進めた。

「聞こえるな…オークの声だ。あそこにいるみたいだ。」俺は小声で二人に伝えた。茂みの向こうには小さな開けた場所があり、そこにオークの姿が見えた。大きくて筋肉質の体、まるで岩のような体躯だ。

「よし、俺が先に行く。二人は援護してくれ。」俺は剣を抜き、静かに近づいていった。

　オークに気づかれないように足音を消しながら距離を詰める。剣を軽く構え、一瞬の隙を突こうとした。しかし、その瞬間、俺の心に迷いが生じた。

「軽く振るって言ってたけど…どれくらいの力で振ればいいんだ…？」俺は心の中でつぶやきながら、剣を振り下ろした。だが、力を加減しすぎてしまい、剣はオークの皮膚をかすめるだけだった。

「しまった…！」オークが怒りの声を上げ、振り返ってくる。俺はすぐさま後退し、距離を取った。

「やまっち、大丈夫！？私たちが援護するわ！」カナエの声が響く。すぐにミカが矢を放ち、オークの肩に命中させた。

「ナイスショット！」俺はミカを称賛しながら、再び剣を構え直した。

　オークは苦痛の声を上げ、俺たちに向かって突進してくる。俺はその勢いに押されそうになりながらも、冷静に次の攻撃のタイミングを図った。

「風よ、刃となりて敵を討て！」カナエの声が響き渡り、風が鋭い刃となってオークに向かって飛んでいく。オークの体を切り裂き、オークは苦痛の叫びを上げて倒れ込んだ。

「ふぅ・・・なんとかやったみたいだな」

　俺は剣を下ろし、倒れたオークを見つめた。加減しながら戦うのってある意味強いのと戦うのより難しいな。

「次はもっと上手くやれるようにしないとね」

　ミカが微笑んで言う。

「そうだな。加減は難しいけど、今日の経験を活かして次も頑張るよ。」

　俺は新たな決意を胸に、再び歩き出した。