上 下
48 / 97
第2章

見張り

しおりを挟む
 太一は人生初になるのだが、妙齢の女性と同じ布団に入るイベントを敢行中だ。流石に向き合うとわざとではなく、間違って体に触れてしまい嫌な思いをさせ兼ねないので背中を向けていた。ただシャロンは

「太一様の背中って大きいですね。男の人なんだなって思います。その、寒いので失礼して背中にくっつかせて頂きますね」

 太一はシャロンの温もりと、わざとなのか違うのか、背中に当たる胸の感触に悶々としていて、心臓がバクバクしていた。いかんいかんと、別のことを考え、シャロンの事を気にしないように努めていた。

 さてどうやって起きるかなと寝る前に思っていたのだ。そういえば頭の中にあるディスプレイの方に時計があったなと。そう今までギルドに行くにしろ時間にほぼ正確だったのだが、それは時計が有ったからだ。この後でシャロンに聞いたが、そういうような物は無いと言っていた。屋敷には各フロアと食堂に時計が有ったが、携帯できる時計はないのだという。ディスプレイや時計は勇者の特典だろうという話になった。

 時計の方が気になってきた。今まで特に気にしていなかったが、これを期にと色々調べていたが、何とアラームセットが出来る事が判り、交代時間の10分前にセットした。お陰で交代をする前にきちんと起きてシャロンの所に赴く。シャロンは退屈そうに辺りを眺めていた。

 シャロンの所に行き、

「シャロン、そろそろ交代しようか」

「太一様凄いですわ。ほぼ時間ぴったりだと思います」

「時計があるからね。それよりも何か有ったかい?」

「いえ何も無かったです。時々流れ星が流れた位ですわ」

 太一は夜空を見上げた。満天の星空だった。子供の頃母方の実家のある田舎に行った時に見上げた夜空は天の川がはっきり見え、星ってこんなに見えるんだと感動した事が有ったが、そんな比ではない。ただし星は多いのだが、天の川が無いし、見た事の無い星の見え方だ。北半球、南半球の違い、そういうレベルでもない。ある程度の南半球と北半球の星座も頭に入っているが、そのようなものは全く見えない。それどころか肉眼で見える銀河の大きさが尋常ではなかった。肉眼で見る事の出来るアンドロメダ銀河の倍の大きさのバジルが目に取れた。

 子供の頃おじいちゃんに教えられて、一緒に天の川を見ていて、オリオン座の星雲の位置や肉眼で見えるアンドロメダ銀河の見付け方のコツ、六連星のうんちく等を教えられ、夢中で見たものである。肉眼で星団らしきものも見えるが、プレアデスのような見覚えのある星団等は見えなかった。

 ここが地球から見える景色とかけ離れた場所だというのがよく分かった。よくよく見ると銀河自体がアンドロメダ銀河とは違う事が分かった。形が違って、この星はそもそもどこなのだろう?そう思うがそういった事を抜きにすると満天の夜空は、星々が煌めき、あり得ない数の星に圧倒される程に夜空は綺麗であった。焚き火の前に座って、シャロンと少し話をしていたのだが、シャロンがもたれ掛って来た。

「太一様、少しご一緒にいさせて頂いても宜しいでしょうか?」

 頷き、そっと肩を抱き寄せてマントの中にシャロンをくるむ。嫌がらなかったので太一は嬉しかった。

「ああ、太一様、暖かいです」

 シャロンの頭が太一の肩にもたれ掛って来る。シャロンの温もりと匂いを太一は感じていた。しばらく肩を寄せ合い休んでいたが、シャロンが

「そろそろ私も寝ますね」

 そう言い立ち上がる。太一は立ち上がったシャロンを見上げる形になり、シャロンを見ると満天の星空をバックにシャロンが神々しく見えた。

 太一は立ち上がり、去ろうとしていたシャロンを後ろから抱きしめる。

「太一様、嬉しいです」

 悲鳴をあげず、うっとりとした声をあげる。

「その、その、俺はじゃなくて、僕はその、シャロン、君が好きだ。僕の彼女になって欲しい」

 シャロンがきょとんとする

「彼女ってどういう事ですか?私は太一様のものですよ!」

 翻訳がそうさせているのか、彼女という言葉がうまく伝わらなかったようだ。ただ「彼女」が何かについて話をしても、話の内容が通じなかった。

 そうここは男尊女卑の世界であったのだ。

 男女が付き合って、付き合っている女性が彼女だと話してようやく通じた。田舎の農村や身分が低い者の間では単純に好き合った相手と交際すると言う事も有るが、中流階層以上では殆ど無いという。勿論付き合い、恋人になるのは嬉しいと言ってくれた。今までは太一が自分の所有物としてシャロンを欲し、単にハーレムの一員として囲むものと思っていたというのだ。だから付き合い恋人になるのが信じられなかったのだと言っていた。

 中流階層以上では交際を経験する事も無く、いきなり若いうちから結婚するような風習があったのだ。世界観があまりにも違い過ぎて、恋人同士というような男女が対等に過ごす様な世界ではなかったのだ。時折シャロンの言動がおかしいなと思ってはいたのだが、おかしかったのは実は太一の方だったのだ。また、処女で無い場合はハーレムの一員にすら加えられず、身分の低い者等の後妻になるのが精一杯だそうだ。

 そうあくまでもこの世界での話だ。
 また、結婚についても誤解があった。同じ単語であったのだが、中流階層以上では結婚というのはハーレムの主の女になる。それが結婚だと言う。ハーレムの主に尽くし、ハーレムの主を引き立てる。そしてコーム心を込めて愛してもらえれば御の字だと言う。親同士で決めた相手のハーレムに入るのか一般的で、そういう半ば主従関係を築くのが結婚だと言っていた。太一にはイマイチ理解はできなかった。

「私と付き合い、いずれは娶って貰えるんですよね?それと勿論ノエルも娶るんですよね?」

 というような事も言われた。太一はよく分からなかったが、そういうものなのかと確認すると、そうですよと言う。そして既にカエデも太一に嫁ぐ予定になっていると言う。

 よく分からなかった。ただ、シャロンは自分は幸せだと。好きな相手に娶ってもらえそうだからと。何よりも恋人にさえして貰えると。

 それはさておき今のシャロンは女神そのものだった。太一はシャロンを見つめる。シャロンも太一を見つめる。そしてどちらからだろうか、気が付けば2人の唇が合わさっていた。澄んだ空気の凛とした厳かな満点の星空の下で。シャロンのファーストキスであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

家族全員異世界へ転移したが、その世界で父(魔王)母(勇者)だった…らしい~妹は聖女クラスの魔力持ち!?俺はどうなんですかね?遠い目~

厘/りん
ファンタジー
ある休日、家族でお昼ご飯を食べていたらいきなり異世界へ転移した。俺(長男)カケルは日本と全く違う異世界に動揺していたが、父と母の様子がおかしかった。なぜか、やけに落ち着いている。問い詰めると、もともと父は異世界人だった(らしい)。信じられない! ☆第4回次世代ファンタジーカップ  142位でした。ありがとう御座いました。 ★Nolaノベルさん•なろうさんに編集して掲載中。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

兎人ちゃんと異世界スローライフを送りたいだけなんだが

アイリスラーメン
ファンタジー
黒髪黒瞳の青年は人間不信が原因で仕事を退職。ヒキニート生活が半年以上続いたある日のこと、自宅で寝ていたはずの青年が目を覚ますと、異世界の森に転移していた。 右も左もわからない青年を助けたのは、垂れたウサ耳が愛くるしい白銀色の髪をした兎人族の美少女。 青年と兎人族の美少女は、すぐに意気投合し共同生活を始めることとなる。その後、青年の突飛な発想から無人販売所を経営することに。 そんな二人に夢ができる。それは『三食昼寝付きのスローライフ』を送ることだ。 青年と兎人ちゃんたちは苦難を乗り越えて、夢の『三食昼寝付きのスローライフ』を実現するために日々奮闘するのである。 三百六十五日目に大戦争が待ち受けていることも知らずに。 【登場人物紹介】 マサキ:本作の主人公。人間不信な性格。 ネージュ:白銀の髪と垂れたウサ耳が特徴的な兎人族の美少女。恥ずかしがり屋。 クレール:薄桃色の髪と左右非対称なウサ耳が特徴的な兎人族の美少女。人見知り。 ダール:オレンジ色の髪と短いウサ耳が特徴的な兎人族の美少女。お腹が空くと動けない。 デール:双子の兎人族の幼女。ダールの妹。しっかり者。 ドール:双子の兎人族の幼女。ダールの妹。しっかり者。 ルナ:イングリッシュロップイヤー。大きなウサ耳で空を飛ぶ。実は幻獣と呼ばれる存在。 ビエルネス:子ウサギサイズの妖精族の美少女。マサキのことが大好きな変態妖精。 ブランシュ:外伝主人公。白髪が特徴的な兎人族の女性。世界を守るために戦う。 【お知らせ】 ◆2021/12/09:第10回ネット小説大賞の読者ピックアップに掲載。 ◆2022/05/12:第10回ネット小説大賞の一次選考通過。 ◆2022/08/02:ガトラジで作品が紹介されました。 ◆2022/08/10:第2回一二三書房WEB小説大賞の一次選考通過。 ◆2023/04/15:ノベルアッププラス総合ランキング年間1位獲得。 ◆2023/11/23:アルファポリスHOTランキング5位獲得。 ◆自費出版しました。メルカリとヤフオクで販売してます。 ※アイリスラーメンの作品です。小説の内容、テキスト、画像等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

酔っぱらった神のせいで美醜が逆転している異世界へ転生させられた!

よっしぃ
ファンタジー
僕は平高 章介(ひらたか しょうすけ)20歳。 山奥にある工場に勤めています。 仕事が終わって車で帰宅途中、突然地震が起こって、気が付けば見知らぬ場所、目の前に何やら机を囲んでいる4人の人・・・・? 僕を見つけて手招きしてきます。 う、酒臭い。 「おうおうあんちゃんすまんな!一寸床に酒こぼしちまってよ!取ろうとしたらよ、一寸こけちまってさ。」 「こけた?!父上は豪快にすっころんでおった!うはははは!」 何でしょう?酒盛りしながらマージャンを? 「ちょっとその男の子面くらってるでしょ?第一その子あんたのミスでここにいるの!何とかしなさいね!」 髪の毛短いし男の姿だけど、この人女性ですね。 「そういう訳であんちゃん、さっき揺れただろ?」 「え?地震かと。」 「あれな、そっちに酒瓶落としてよ、その時にあんちゃん死んだんだよ。」 え?何それ?え?思い出すと確かに道に何か岩みたいのがどかどか落ちてきてたけれど・・・・ 「ごめんなさい。私も見たけど、もうぐちゃぐちゃで生き返れないの。」 「あの言ってる意味が分かりません。」 「なあ、こいつ俺の世界に貰っていい?」 「ちょっと待て、こいつはワシの管轄じゃ!勝手は駄目じゃ!」 「おまえ負け越してるだろ?こいつ連れてくから少し負け減らしてやるよ。」 「まじか!いやでもなあ。」 「ねえ、じゃあさ、もうこの子死んでるんだしあっちの世界でさ、体再構築してどれだけ生きるか賭けしない?」 え?死んでる?僕が? 「何!賭けじゃと!よっしゃ乗った!こいつは譲ろう。」 「じゃあさレートは?賭けって年単位でいい?最初の1年持たないか、5年、10年?それとも3日持たない?」 「あの、僕に色々な選択肢はないのでしょうか?」 「あ、そうね、あいつのミスだからねえ。何か希望ある?」 「希望も何も僕は何処へ行くのですか?」 「そうねえ、所謂異世界よ?一寸あいつの管理してる世界の魔素が不安定でね。魔法の元と言ったら分かる?」 「色々突っ込みどころはありますが、僕はこの姿ですか?」 「一応はね。それとね、向こうで生まれ育ったのと同じように、あっちの常識や言葉は分かるから。」 「その僕、その人のミスでこうなったんですよね?なら何か物とか・・・・異世界ならスキル?能力ですか?何か貰えませんか?」 「あんた生き返るのに何贅沢をってそうねえ・・・・あれのミスだからね・・・・いいわ、何とかしてあげるわ!」 「一寸待て!良い考えがある!ダイスで向こうへ転生する時の年齢や渡すアイテムの数を決めようではないか!」 何ですかそれ?どうやら僕は異世界で生まれ変わるようです。しかもダイス?意味不明です。

職業・遊び人となったら追放されたけれど、追放先で覚醒し無双しちゃいました!

よっしぃ
ファンタジー
この物語は、通常1つの職業を選定する所を、一つ目で遊び人を選定してしまい何とか別の職業を、と思い3つとも遊び人を選定してしまったデルクが、成長して無双する話。 10歳を過ぎると皆教会へ赴き、自身の職業を選定してもらうが、デルク・コーネインはここでまさかの遊び人になってしまう。最高3つの職業を選べるが、その分成長速度が遅くなるも、2つ目を選定。 ここでも前代未聞の遊び人。止められるも3度目の正直で挑むも結果は遊び人。 同年代の連中は皆良い職業を選定してもらい、どんどん成長していく。 皆に馬鹿にされ、蔑まれ、馬鹿にされ、それでも何とかレベル上げを行うデルク。 こんな中2年ほど経って、12歳になった頃、1歳年下の11歳の1人の少女セシル・ヴァウテルスと出会う。凄い職業を得たが、成長が遅すぎると見捨てられた彼女。そんな2人がダンジョンで出会い、脱出不可能といわれているダンジョン下層からの脱出を、2人で成長していく事で不可能を可能にしていく。 そんな中2人を馬鹿にし、死地に追い込んだ同年代の連中や年上の冒険者は、中層への攻略を急ぐあまり、成長速度の遅い上位職を得たデルクの幼馴染の2人をダンジョンの大穴に突き落とし排除してしまう。 しかし奇跡的にもデルクはこの2人の命を救う事ができ、セシルを含めた4人で辛うじてダンジョンを脱出。 その後自分達をこんな所に追い込んだ連中と対峙する事になるが、ダンジョン下層で成長した4人にかなう冒険者はおらず、自らの愚かな行為に自滅してしまう。 そして、成長した遊び人の職業、実は成長すればどんな職業へもジョブチェンジできる最高の職業でした! 更に未だかつて同じ職業を3つ引いた人物がいなかったために、その結果がどうなるかわかっていなかった事もあり、その結果がとんでもない事になる。 これはのちに伝説となる4人を中心とする成長物語。 ダンジョン脱出までは辛抱の連続ですが、その後はざまぁな展開が待っています。

俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜

平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。 『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。 この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。 その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。 一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。

「自重知らずの異世界転生者-膨大な魔力を引っさげて異世界デビューしたら、規格外過ぎて自重を求められています-」

mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
 ネットでみつけた『異世界に行ったかもしれないスレ』に書いてあった『異世界に転生する方法』をやってみたら本当に異世界に転生された。  チート能力で豊富な魔力を持っていた俺だったが、目立つのが嫌だったので周囲となんら変わらないよう生活していたが「目立ち過ぎだ!」とか「加減という言葉の意味をもっと勉強して!」と周囲からはなぜか自重を求められた。  なんだよ? それじゃあまるで、俺が自重をどっかに捨ててきたみたいじゃないか!  こうして俺の理不尽で前途多難?な異世界生活が始まりました。  ※注:すべてわかった上で自重してません。

処理中です...