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第29話 商隊襲撃さる

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 ブラッドは槍を出すと、おもむろに敵に向かって投げた。

 馬車の扉を無理矢理開けようとしていた奴に投げると、100mはあった筈だが見事な放物線を描き、頭を貫通して扉に刺さった。

 馬車の中に槍の穂先が少し飛び出し、中にいた3人の少女がひぃと短く悲鳴を上げた。いきなり槍の穂先が飛び出し、血が滲んできたからだ。

「こんな芸当が出来るのはブラッド位ね!もう少しでこっちに来るよ!これで助かるね!」

「貴女ねぇ、散々文句を言っておいて、信頼しているのじゃないのよ」

 ブラッドは魔法攻撃を受けた。正確には見えない?刃で斬りつけられ、空気の玉?を顔の周りに纏わせようとしていたようだ。

 しかし魔法反射で放った奴に返っていく。そいつの首が半ば切れ、纏わりついた空気の玉で息ができなくなったようで、やがて死んだ。死ぬ所は見ていなかったが、ブラッドは次のターゲットに向かっていったのだ。

 何故死んだのかが分かるのかというと、6つ目のスキルが入ってきたのが分かった。先程見たウインドカッターとエアーボールが使えると何故か理解できたからだ。一瞬頭がくらっとなり、訳の分からぬ文字か何かが頭の中を駆け巡るのだ。
 実際は瞬きする位の時間だから隙にはならない。

 商隊の方は一進一退だった。

 驚いた事にグレイズもモーニングスターをぶん回して戦っており、中々強かった。

 だが、背後から斬り掛かられそうになり、あわやと言うところでブラッドがウインドカッターを放ち、そいつの手首を斬り落とした。

 距離が有ったが、近付きつつウインドカッターやエアーボールを投げて転倒させていった。

 均衡はそうやって崩れていき、賊は残り10人までに減っていた。

 そして隊長がブラッドに一騎打ちを申し込んできた。

「くう、貴様ぁ!許さんぞ!騎士イングヴェイの名のもとに貴様に一騎打ちを申し込む!」

「ったく面倒だな。犠牲者を出したくはないからな。まあ受けてやるよ!聖騎士殺しブラッド参る!」

 ブラッドはレイガルトと共に駆け、相対する位置で降り立ち、ブロードソードを出した。

 戦闘は続いているが、この2人には誰も近付かない。

「貴様を倒し、姫様を助け出す!」

「やれるもんならやってみろ!ところでお前はスキル持ちか?俺は持っているぞ!」

「聞いて驚け!スティールだ!」

「しょうもないのだな。貰ってやるよ!」

「意味が分からんな!お前もスティールの餌食になれや!」

 イングヴェイが斬り掛かってきた。ブラッドはスキルの中身が分からないので取り敢えず様子見で受けていた。

 しかしお世辞にも剣筋にキレがあるとは言えない。

 わざとか?と思いつつこちらから斬り掛かった。

 イングヴェイは防戦一方だ。
 ハッタリだなと思い、これで終わりだ!という胴を薙ぐ一撃を放ち、受け止めようとした剣を叩き折り、剣もろとも真っ2つにするつもりだったが、その一撃は空を斬り、バランスを崩した。そしてぞくっとしたので咄嗟に右に飛んだが、左の脇腹に剣の一撃をくらった。

 左の脇腹には己の剣が刺さっていた。

 グハっ!と唸り、片膝をつく。

 己の手には握られている筈の剣がなかった。

「トドメだ!」

 ブラッドの首を狙ってきた。

 ブラッドは痛みに苦悶の声を上げつつ、収納から槍を出して目の前の敵に向けた。

 するとぐさりと肉を突き刺す感覚があり、槍を押し返した。

 イングヴェイは信じられないと唸った。己の腹に槍が刺さっていたからだ。

 ブラッドは剣が刺さったままひとっ飛びし、イングヴェイの首をバスタードソードの一閃で刎ねて決着した。
  
 すると何かが入ってくるのと、又もや頭の中に不思議な文字が駆け巡った。そしてスキル"スティール"を奪った。

 残りはイングヴェイが打討たれたのを見て散り散りに逃げ始めたが、アイスアローを投げて逃げる奴をブラッドは見逃さなかった。剣が刺さったままレイガルトに跨るとそいつのみを追い始めた。

 痛みで意識が飛びそうだったが、魔法使いのスキル持ちは自分には驚異にはならないが、仲間にとっては大いなる驚異だ。なのでそいつだけは倒す事にした。

 軍馬に跨り、全力で駆けて来る鬼の形相のブラッドが追ってくるのでちらちらと後ろを見ている。

「く、くるなぁ!」

 ありったけの魔力を込めてアイスアローを大量に放つも、そのアイスアローにて命を落とした。すると何かが入って来て、やはり不思議な文字が頭の中を駆け巡った。そして水魔法のスキルをゲットした。

 そして、一番近い奴に槍を投げて、何とか逃げる奴をもう一人倒した。

 他はもう追い付けそうにないので追跡を諦め、商隊に戻り始めた。

 先ずは己の馬車の中を見て、3人の無事を確認した。

「3人共無事だな?」

「見ての通りよ」

「分かった。無事なら良いんだ。商隊の奴らを見てくる。助けられるのなら助けたい」  

 背中を向けてレイガルトに乗ろうとしたが、ニスティーが慌てて止めた。

「ちょっと待ちなさい!あんた怪我をしているじゃないの。今抜いてあげるから待ちなさい」

 ブラッドは屈んでニスティーに触りやすくした。

 いきなり背中に鋭い痛みが走った。

 声を掛けずに矢を掴み、間髪入れずに引き抜いたからだ。

 ぐうぅ!と少し唸ったが、2本目は中々抜けなかった。

「ぐはっ!」

 ニスティーは焦った。矢が抜けないからだ。

「お嬢様、私がやります。これは引いても抜けませんよ」  

 マリーナはブラッドの肩当てを外し、我慢しなさいと言ってから矢を押し出した。

 肩から突き出し、鏃を切断してから引き抜いた。
 ブラッドはやはりぐうぅと唸るも、叫ばなかった。

「もう抜いたから、治療しなさい」

「すまない。助かったよ」

「なんで言わないのさ!痛いでしょ?」

 タミアは狼狽えていた。

「ああ、痛みには慣れている。多少の呻き位は勘弁して欲しいが、まあ、叫ぶ程ではないさ。さて、救える命を助けるぞ。お前達も手伝ってくれ」

 そうして治療や事後処理に奔走するのであった。
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