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第25話 作戦

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 マリーナの意図に気が付いたニスティーは、ブラッドに対して懐柔策に出た。

 万が一手籠めにされた場合、自分達の虜にして保護対象にさせる。また、見た目に反しうぶだと理解した。こちらからは好きになるつもりはない。だが、肌を重ねる男は生涯一人にしたい。そうすると、この男に縋って生きるしかなくなる。そうなると不本意ではあるが、この男のハートを掴んでおく必要がある。

 本来だとあり得ない話なのだが、どうやら本気で手を出してこない。

 しかし、ブラッドは出兵前に愛した恋人?に対してどうやら操を立てているようで、この女性がある意味羨ましかった。

 最初は奴隷を買いに来たクズだと思ったが、本気で世話役を探していたのが分かった。それと、犯されないと分かった安心感よりも、女としてのプライドが勝ってきたのだ。それとひょっとして良い奴なのかも?と。

 自分の事を女として抱こうとしない事に無性に腹が立ってきた。体躯から素敵!と思い、もし迫られたら身を委ねようと一瞬だが思ったのだ。

 それ以上に不思議なのは、奴隷の自分を大事に扱っている事だ。喉を治しさえし、膝枕までされたのだ。

 ブラッドが質問をしてきた。

「質問があるのだが教えてくれないか?その久々に恋い人に会うとしたら何を貰うのが嬉しい?」

「貴方の言っていた恋人のことですか?。馬鹿じゃないのですか?そんな事も分からないのですか?」

「すまんな。女の事はよく分からないんだ」

「お嬢様それでは会話が成立しません。私がこやつに聞いてみます。その恋人というのはどのような背丈でどのような感じの性格なのだ?」

「そうだな別れた時、つまり出兵の時はちょうどタミアぐらいの背丈だったかな。お互い14歳だったから背は伸びているだろうさ。性格はそうだな、おっとりとしていて誰にでも優しい村一番の人気者だったな。言われてみればどことなくタミアに雰囲気が似ているが、お淑やかで、特に小さい子供の面倒見が良かったな。薄幸美人かな。自分の事より、他人を優先する奴だったな」

「なんでそんな女性があんたなんかを好きになったんだ?」

「あいつはよく男の子にちょっかいを出されていてな、俺がいつも蹴散らしておぶって帰っていたんだよ。時々スカートを捲られて泣いていたな。俺は拳で蹴散らしていたが、粗暴だとかよく怒られていたっけな。あいつが俺の事を意識し始めたのは、あいつの母ちゃんを俺がおぶって隣町の治療師の所へ連れていき、何とか助かった後かな」

「なんで馬車を使わなかったのよ?」

「借りようとしたさ。しかし、村の馬車は大きな街に荷を届けるのに出払っていて、残っているのも車軸が折れていて修理中のしかなかったんだ」

「ふーん」
  
「で、お礼になにかあげたいと言ったが、そんなつもりじゃないから何もいらんと言ったんだ。だけどあいつの母ちゃんに、この子を貰ってやってくれと言われたんだ。俺なんか乱暴者で嫌だろう?と聞いたが、あいつはいつも俺の事ばかりを言っているから好きな筈だってな。少し顔を赤らめていて、恥ずかしそうに俺の袖を掴み頷いていたんだ。でもな、その3日後に王都の兵が来て俺を始め、若い奴を皆無理矢理徴兵したんだ。そして数日間の基本的な訓練の後に出兵が決まったんだ。出兵の直前に最後の夜を家族や恋人の元で過ごして来いと、一夜だけ家に帰る許可が出されたんだ。あいつの親は気を利かせて親類の家に泊まりに行ったさ。まあ、後は他の連中もそうだが、お決まりのコースさ。生きて帰ってきたら妻にしてと泣かれ、そうして愛し合ったのさ。お互い初めてだったから滅茶苦茶だったけど、朝目覚めた時のあいつの温もりが今も忘れられないよ。別れの時も声に出さなかったが、泣かれたな」

 いつの間にか3人共泣いていた。

「その方のお名前は何というのですか?」

「ああ、彼女はルキエルだ」

「えっ?」

「どうかしたのか?」

「ルシファー?」

「ルキエルだ」

「貴方の国ではよくある名前なの?」

「どうだろな」

「私が思うにルキエルさんはブラッド様の事を待っていて、自分の元に帰ってくるのを待っていると思うわ。私ならそうするかな」

「そうなのかな。で、俺はどうすれば良い?」

「そうねぇ、物は要らないわ。ただ、もしも他の男と結婚していたらどうするの?」

「挨拶と、村の者の近況だけを聞いて引き下がる」

「それならただ単に抱き締めるだけにして、反応を待ちなさい。もし待っていたのならキスすれば良いのよ。でもね、他の男の女になっていても掻っ攫う事位したら?あんたなら造作もないでしょ?」

「家庭を壊すつもりはない。もし結婚していたら子供がいると考えるのが筋だろう」

「あっ。あんた見掛に依らずちゃんと相手の事を考えているのね」

「そうだな。助かったよ。ありがとうな。その、やっぱり俺の事は怖いよな?俺はこんな見た目だしな」

「いえ。昨日は怖かったですが、話せば良い方だなと分かりました。何故ですか?貴方には私達を蹂躪する権利も力もあります。何故なさらないのですか?」

「言ったろ。ルキエルに嫌われたくないからさ。それとお前達は確かに美人だが、まだ幼過ぎる。タミアもそうだが、子供は抱けない。もし我慢できなくなったら娼館に行って発散してくるさ」
 
「私達の事が子供ですって?でもルキエルさんは14歳だったけど愛し合ったのよね?私達はそれより2つ上よ!」  

「おれとの年齢差だ。俺の歳でお前らの歳の女を抱くって、ロリコンになるだろ。あと2つ歳を重ねて、大人の体になった時に、奴隷から開放されていたら娶ってやるさ」

「そんな事はありえませんわ。もしも奴隷から開放されたら貴方を殺しますよ?」

「それも良いさ。だが、恨まれるのは嫌だし、恨まれるような事は避けるさ。それでも俺はお前のフィアンセを殺した奴だから、まあ、恨んでいるのなら寝首でも掻けば良いさ」

「ブラッド様は変わった方ね。分かったわ。私達は貴方を信用するしかないの。もし騙したりしたら本当に開放されたら寝首を掻きますからね」

 そんな感じでいつの間にかまともな会話?が出来るようになり、馬車の中で退屈せずに過ごす事が出来るようになったのであった。
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