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序章 私刑人誕生編

第19話 第3の私刑

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 今はまだ21時位だろうか、そんな時間にも関わらず下町は有り得ない位に静かだった。
 戸口は固く閉じられ、人の往来もまるでない。

 また、下町に近い所でも普段は通りから1本道を入ると客引きや、ストリートに立つ娼婦の姿がチラホラと見られる時間帯にも関わらず、人の姿が全くない。

 下町の奴らも馬鹿じゃないって事か。
 キナ臭い話を把握していないと長生きできないし、今晩辺に残った賊通しの血で血を洗う抗争が勃発すると分かっているから、巻き込まれまいとしているのだろう。

 尤もその2つの勢力のうち小さい方はそれ程好戦的ではなく、来るなら迎え討つスタンスだ。
 これは情報屋から教えてもらった事だ。

 動き出すのはもう少ししてからだろうか。
 早ければ夜の見回りが行われなくなる0時頃、頭の切れる奴ならば夜明けの少し前に動くだろう。
 襲撃する側はしっかり寝ておき、警戒してろくに寝ていない奴らの眠気と緊張がピークになる4時から5時位を選ぶ。

 少なくとも俺ならばそうするが、血の気の多い賊はそこまで待てないか?

 俺は賊のアジトのすぐ近くに来ている。
 アジトは2階建ての食堂風のというか、多分元々食堂だった所だろう。

 現場に来てからしか分からない事もあり、最終的にどうするか考えなければならなかった。
 さてどうしますか?・・・
 自問してみる。

 やはり覚えたての結界だろうか。
 数秒自問自答し、結界を使う事にした。

 人数が多いので、一気に大半を殺る。

 何をするかって?
 先ずは建物の構造から推測し、1階の腰位の高さを底辺、2階の腰の高さ位を上部とした家の面積をカバーする立方体を思い描く。
 すると魔力をごっそり取られる感覚がし、10秒程で発動準備が出来た。
 術者の目には発動しようとする結界が半透明な黄色に見えるのだが、その位置に満足する。

 俺は肩で息をし、鼻血を出しながら結界魔法を発動した。

 そして1秒もせずに解除したが絶叫が木霊した。

 さて、今ので何人死んだだろうか。
 死ななかったとしても、絶叫の具合から数人が体の一部とサヨナラしたはずだ。

 また、建物はギシギシと音を立て始めた。

 まあ、各柱も縦に2箇所切られたらそうなるわな。
 修行の時と違い、精神的な事か、思ったより魔力を使い同じような大きさのはもう使えない。

 また、大きさが大きいと貯めの時間が長くなり、こういった奇襲や全体防御にしか使えないと分かった。
 小さいのなら1秒と掛からないのだが。
 俺は裏側の出入り口に向かうと、ツーハンデッドソードを抜き中に入る。

 建物の中ら死体があちこちに倒れており、大概は胴体を分断され出血死している。
 足元が血で濡れているから滑らないように気を付けなければだった。

 1階は死体しかなく、椅子に下半身があり床に上半身が転がっている者ばかりだ。
 予測より少し上だった。

 2階に上がると何人かの気配がし、奥の方の扉を開けると5人がおり、俺に気が付いた。

「てめえの仕業か!何をしやがった!それにその・・・」

 俺は手を前に突き出し、パーだった手をグーにした。
 するとその男は目から血を出し崩れ落ちた。

 俺の視界の外から何かが突き付けられ、躱し際についそいつの喉元を掻き斬ったが女だった。
 裸だったから情事の真っ最中にベッドにいたからか、初撃で死ななかったのだろう。

 まだ息があるので治療をし聞いた。

「お前はコイツラの仲間か?それとも娼婦か?」

「アタイの男を殺りやがって!地獄に堕ちろ!」

 俺はこの女の頭に結界を使い・・・そして殺した。

 信じるか分からないがもしも客に呼ばれた娼婦なら逃してやるつもりだったが、どうやら一味かリーダー等の情婦だろう。
 つまりコイツラの仲間とした。

 奴らは動けずにいた。
 いや、俺がこの女を組み伏せている間に襲おうとした者も俺の結界により崩れ落ちたからだ。

「お前らのリーダーを連れてこい」

 1人が隣の部屋を指さした。

「あ、あんたが今殺した女とやっている最中に体がちぎれて死んだよ!なあ、俺達は仕方がなく親分に従っていただけなんだ!頼む!見逃してくれ!助けてくれ!心を入れ替えて真っ当に生きるから!」
 
 外から絶叫が木霊する。
 俺は外にサランマンダーを待機させ、この建物から手を後ろに組んでいない状態で出て来た奴を焼き殺せと命じてある。
 誰かが逃げたのだろう。
 
「お前らはそうやって命乞いした者を殺してきたのではないのか?違うか?」

 そいつは押し黙り、ムクッと立つと叫んだ。

「一斉に掛かれば行ける!行くぞ!」

 それが初撃を生き残った者達の最後の言葉になった。

 生き残ったのは下っ端のみで、例え数人が一斉に襲ってきても遅れを取る事はない。
 サクッと倒した後アジトを確認していく。
 金目の物を一旦収納にしまい、生き残りがいない事を確かめると壁に人1人が通れる穴を開けて外に出る。

 サランマンダーにアジトに火を付けたら元の世界に帰るよう指示し、俺は引き上げた。

 燃え盛るアジトを背に回収した何人かのカードを手に離れていく。

 騎士団詰め所に寄り、入り口の脇にアジトから回収したお宝を出した。
 そして回収出来た奴のカードをその手前に置き、その場を離脱して複雑な経路を辿り宿に戻る。
 勿論カードは全て赤だった。

 部屋に戻るとマリニアは変わらず寝ていた。
 また、書き置きも見られた痕跡がなく俺もそのまま布団に入り眠りに落ちるのであった。
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