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序章 私刑人誕生編

第11話 この世界の沐浴事情

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 俺が宿に戻るとまだマリニアは戻っていなかった。
 まあ、買い物があるから暫く戻らないかな?
 いつ戻るか分からないので沐浴場にてお湯を浴びてくる。
 誰もいないので魔導具に魔力をチャージすると満タンになり、桶に何回もお湯を貯めては体に掛ける。
 実に贅沢な沐浴だ。

 この世界には魔力を持たない、又は桶1杯のお湯を作る魔力すら持たない者が殆どだ。
 だから宿からは宿代に含まれる小さな魔石を渡され、普通の者は沐浴場にて魔導具にてお湯を2杯作る。
 これ以上は自前の魔力を使うか、別の魔石を使ってお湯を作り、それで体を拭いて最後にお湯を体に掛けるのが一般的だ。

 家庭ではそれを水でやったり、家では薪等で沸かしたお湯を使い、手拭いにて洗うのが普通だ。
 ただ、上水道がなく水魔法を使えない者は井戸や川から水を汲んでくる。
 水の確保も大変で、家で湯浴みをするのも大変な労力を必要とする。
 お金を払い沐浴場にて沐浴するのが中流階層の者達の日常だ。ただ、これも昼食代は飛ぶが、魔導具でお湯を買うので水汲みの労力から開放される。

 因みに水やお湯を作る魔導具は一般人の年収が飛ぶ。
 日本だと300~500万円程の買い物と思えば良い。
 だから、中々買えないが間違いなく生活の質を大幅に向上させる事が可能だ。

 貴族は湯船にお湯を張って入浴をするらしいが、俺は生まれてこの方自腹でお風呂に入った事はない。

 前のパーティーの時に温泉がある町の宿に泊まった時に入った位だ。

 温泉がある町は別として、王都に行けば神殿に浴場があるらしいのだが、金貨1枚をお布施として収めないといけない。
 今までのマリニアの2日か3日の稼ぎに当たるから、おいそれと入りに行けないというのは分かるだろうか。

 因みに温泉がある所は魔物が少なく、依頼も少ない療養地となり、稼ぎが悪いから護衛依頼で行く位しかない。

 それでも俺は魔力がかなり多いので、沢山のお湯を使える。
 クリーン魔法にて体を綺麗に出来るので、温まったり、疲れを取るのにお湯を掛けている。

 ゆっくりと過ごしてから部屋に戻ると丁度マリニアが戻ってきた。

「ただいま帰りました!ってもう湯浴みをしたんですか?」

「今なら沐浴場が開いているが、飯の前に行ってきたらどうだ?」

「あっはい。着替えはその時にしますね」

 俺は再びマリニアと沐浴場に行く。

「誰もいないな?誰かに話すなよ!」

 そう言ってこれからマリニアが使う沐浴場の魔導具に魔力をチャージする。

「よし!お前の魔力も使えばかなり贅沢にお湯が使えるぞ!ゆっくり疲れを取ってこい!」

「うわー!聞いてはいましたが、かなりの魔力を持っているんですね!じゃあ有り難く使わせて貰います!」

 俺はマリニアが沐浴場に入ると、札を使用中にしてから部屋に戻る。
 夕食には少し早いので、横になって休んでいたが沐浴から戻ったマリニアに起こされて酒場に繰り出し夕食を食べに行く。

 場所はいつもの安酒を飲んでいる店だが、ここは食事自慢の店だ。
 少し早かったので客はまだ俺達だけだったが、俺が酒を頼まずに連れと食事に来た事に女将さんが驚いていた。

「おや、今日は随分可愛らしい連れがいるじゃないの。君はお弟子さん?ついにゲロビーを卒業して弟子をとったのね!」

「あっはい。ボクはマリニアって言います。ボクは弟子入りを希望したんですけど、面倒くさいのはやだって言って断られたんですけど、仲間ならってなったんです。宜しくお願いします!そう言えばゲロビーとランスタッドさんが言われているけど、どういった意味なんですか?」

 女将さんがいつの間にか頼んでもいないツマミを持ってきて一緒に食べ始めた。

「あら、旦那と違って礼儀正しい子じゃないの。うふふ。ゲロビーってのわね」

 給仕が料理を運んできて、女将さんが俺の事をとやかく言うので居心地が悪かったが、返す言葉も出ない内容だ。主に酒癖の話で、聞き終わるとマリニアがジト目をする。

 妙に色っぽい視線だが、呆れていた。

「ランスタッド、今日からお酒は禁止とは言わないけど、飲む量はボクが管理します!いいですよね?」

 俺が頭をボリボリとかいていると厳しい口調に変わる。

「い・い・で・す・よ・ね!?」

 俺は年下の、それもガキと見ていたマリニアの気迫に負け、はいと返事をした。
 情けなや。

 その後は他の客が来出したので食事だけをし、帰りに店に飾ってあったゲロビーコレクションを引き上げた。

 店には11本の剣が飾られており、マリニアはこれが俺が忘れていった剣だと知ると呆れていた。

「俺なんか仲間にして後悔したか?幻滅したろ?」

「ううん。ランスタッドも人なんだって思っただけだよ。仲間に裏切られて酒に溺れていただけで、今はボクがいるよ!だからもう酒に逃げなくても良いんだから。程々にして貰いますからね」

 そうして両手に花なら良いが、両手に剣を抱えて店を出て宿に戻った。
 明日から約1週間お互いに魔法の勉強をしに行くと伝え、着替える前に小便をしに行って戻ってきたらマリニアは着替えており、既に布団に入っていた。

 俺は暫く横になるとマリニアが熟睡するのを待ち、そっと部屋を抜け出す。
 そのまま宿の馬房にある草置き場に行き、ささっと黒装束に着替えた。
 そうして情報屋に教えられた賊共の隠れ家へと向かうのであった。

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