上 下
20 / 43

月光石

しおりを挟む
「少々時間がかかったが、着いた。ここが地底都市カルデネ」


 カルデネ洞窟の奥深く、そこには半径十キロに及ぶ巨大な都市が存在していた。
 だが、ここが栄えていたのは過去の話。今ではそこには誰一人として住んでおらず、建物も崩れかけ、苔むしていた。
 そんな地底都市にたどり着いたのはスーツ姿の三人組。


「地底だというのにだいぶ明るい」


 エルフの少年が言う様にここは地底であるが、地上と大差ないくらいに明るく辺りを見渡すことが出来る。


「あれが噂に聞く月光石ですか」


 見上げるとそこには天井を覆い隠すほどの巨大な光輝く石が埋め込まれていた。


「月の光を凝縮させて作られた人工石。売れば無限の富が手に入るとされる宝石よりも価値の高い石。ただ、あのサイズでは持ち帰り用がないな」
「構わないわ。今回の任務に月光石は含まれていないもの。情報通りならここに大罪魔法
のグリモワールがあるはずなのだけど」


 リゼは頭上の月光石から視線を外し、一際目立つ建物に注目する。


「あるとすれば、あの大聖堂かしら?」
「では、すぐに回収しに行きましょう」


 長身の男がそう言い、リゼの前に出ようとした時、彼女はそれを手で制止した。


「いかがしました?」
「……三人。こちらに向かってくる魔力があるわ」
「先ほどの連中以外にもカリストの刺客がいたということでしょうか?」
「さぁ、どうかしら。もしくは……いいえ、例え相手が誰であっても大罪魔法は渡せないわ」
「では、ここには俺が残ろう。リゼ様は先に」


 自ら名乗り出たのはエルフの少年だった。


「そう、ではあなたにお願いするわ。邪魔者は排除して頂戴、セイス」
「御意に」





「うお! でっけい街がある!」
「いやいや、それより天井! めっちゃでけぇ光る石だ!」


 遺跡内を探索してようやく私たちはその最深部であろう地底都市にたどり着いた。
 その光景にゼルとヘイヴィアの二人ははしゃいでいた。


「すごい。あれ、月光石よね? 噂でしか聞いたことなかったけど、本当にあったなんて」


 古代ミケラ文明は魔力じゃなくて月の光を動力にしていたって逸話があるけど、月光石が実在したのならその話もあながち間違いじゃないのかもしれない。
 それに古代ミケラ文明は月から来たって話もあるし、もしかしてそれも本当だったりするのかな? だとしたら、これってすごい発見なんじゃないの!?
 私も幻の石を見て少しだけ気分が高揚していた。
 だから、気づかなかった。


「おや? 三人だと思ったけど、四人か。なるほど、ゴブリンが紛れていたのか」
「「「!!!」」」


 いつの間にか私たちの前にスーツを着たエルフの少年が立っていた。


「あれって……」


 私はその姿に見覚えがあった。


「な! てめぇ! さっき、リゼといた奴だな! リゼはどこだ!?」
「リゼ様の知り合い? って君たちはさっきリゼ様にやられたはずの二人。まだ生きていたのか」
「おい! 俺の質問に答えやがれ!」
「やれやれ、野蛮な人だ。リゼ様なら大罪魔法の回収のため、一足先にあの大聖堂へと向かった」


 エルフの少年はこの地底都市で一番目立つ建物の方を指さした。


「よっしゃ! あそこだな。待ってろよ、リゼ!」


 ヘイヴィアは考えなしに前へ飛び出し、大聖堂へと向かおうとする。


「誰も通すとは言ってないけど?」


 エルフの少年は一瞬でヘイヴィアの前へと移動し、ヘイヴィアを蹴り飛ばした。


「ぐあ、いてぇ……」
「悪いね。リゼ様の命令でここから先へ通すことは出来ないんだ」
「クッソ、あの長耳野郎。邪魔しやがって」


 ヘイヴィアは鼻から流れる血をふき取って立ち上がる。


「あんなやつに時間かけてる場合じゃねぇんだ。さっさとぶっ飛ばす」
「その意見には賛成だけど、君がここで戦うのは違う」


 今にも食って掛かりそうなヘイヴィアを止めたのはベルヴェットさんだった。


「ここは俺が受け持とう。君たちは先へ」
「先へって言われても、あいつが邪魔して……」
「いいから、ここは俺を信じて先に行ってくれ」
「分かった、信じる」


 ヘイヴィアはやけにあっさりとベルヴェットさんの言うことを聞いた。


「じゃ、行くぜ」
「あ、ちょ、ヘイヴィア!」


 また先に走っていくヘイヴィア。私とゼルはその後に続く。


「はぁ~理解できない。この先へは行かせないと言っただろう?」
「っ!」


 エルフの少年はまた一瞬で私たちの傍まで来て、蹴りを放ってきた。
 だけど、今度はその蹴りは当たらなかった。


「なんだ!? 見えない壁……?」


 エルフの少年は足を振り上げたまま固まっていた。
 恐らく振りぬこうとした足の前の空気を硬質化させたのだろう。
 私たちはそのチャンスを逃さず、エルフの少年を振り切って先へ進む。





「っち、三人抜かれたか」


 ゼル達の姿が見えなくなった後、ベルヴェットとエルフの少年は互いに向き合う様に廃墟の上に立っていた。


「だが、あんたを足止め出来たのなら十分か」
「俺を知っているのか?」
「裸の貴公子、ベルヴェット・キリシュライト。カリスト帝国随一の頭脳の持ち主。知らない方がおかしい」
「あまり目立ったことはしていないつもりなんだがな」
「どうだ? うちへ来れば命だけは助けてやろう。うちの研究者連中もあんたの頭脳を欲していた」
「悪いね。その誘いには乗れない。俺は縛られるのが嫌いでね、そういう意味では第七師団は自由にやれて居心地がいいんだ」
「なら、殺そう。その頭脳が敵国にあるのは脅威だからな」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

至高の騎士、動きます〜転生者がこの世界をゲームと勘違いして荒らしてるので、最強騎士が分からせる〜

nagamiyuuichi
ファンタジー
人智を超えた力を持つ転生者が暴虐の限りを尽くす世界。 増大する転生者への脅威はとうとう国を一つ滅ぼすほどになり、対抗する手段を探るべく、エステリーゼ王国騎士団の召喚師であるサクヤはある日、突如異世界より現れた遺跡の調査を命じられる。 安全地帯での遺跡調査。転生者の強さの謎に後一歩で迫るかと思われたそんな時。 突如起動した遺跡により転生者が召喚され、サクヤたちは襲撃をされてしまう。 圧倒的な力の前に絶体絶命のサクヤ。 しかし、意識を手放すその瞬間、彼女を一人の騎士が救い出す。 「モブキャラだと思った? 残念‼︎ 主人公でした‼︎」 自らを至高の騎士と名乗るその騎士は、転生者を一撃で粉砕。 その後なぜかサクヤに忠誠を誓い、半ば強引に従者となる。 その後は死人を生き返らせたり、伝説の邪竜を素手で殴り飛ばしたり、台所で料理感覚でエリクサー作ったりと何をするのも規格外で空気が読めない至高の騎士。 そんな彼を従えるサクヤは、当然転生者と人間との戦いの中心に(主に至高の騎士が原因で)巻き込まれていく。 この騎士こそ、転生者達の世界で最強と語り継がれた〜理想の騎士〜であることなど知る由もなく。 ※しばらくは毎日更新予定です

地蔵が行く! ~異世界で奇跡を起こすぶらり旅~

猫目 しの
ファンタジー
  私は名のない地蔵である。 昔は日本に住んでいた私であるがある日の地震で死んでしまった。 そして、私は転生したのだ……地蔵にと。 日本での私の記憶はない。 私の家族のことも、友達のことも、私自身のことも。 だけど、それでいいのだ。 私は地蔵、神様に依頼され奇跡を起こす地蔵である。   イラスト製作者:天舞美羽 様 ※小説家になろう、にも転載してます。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

ひとりの獣人と精霊

わんコロ餅
ファンタジー
「ひとりの少年と精霊ののんびりライフ」の続編になります。 こちらから見ていただいても大丈夫ですが、前作のネタバレが含まれます。

処理中です...