【R18,BL】雪月花時最憶君

麦飯 太郎

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7、氷

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***

 風呂の一件のあと、何故か三つ子達は恭吾と蓮を二人きりしようと気を使うようになった。

 情事の姿が見られた訳では無いのだが、六花は特に蓮さまが嬉しそうと言葉にする。

「そんなに仲良しに見えるか? お前達の方がよっぽど蓮と仲良しだろ?」
「んー、僕達と蓮さまが仲良しなら、恭吾とは仲睦まじいみたいなの」

 少し舌足らずの六花の言葉にドキリと胸が高鳴った。睦まじいと言われると非常に親密でそして親愛に近い気がする。

「ちょ、睦まじいって夫婦みたいじゃないか。男同士だぞ?」

 下手に誤魔化そうとした為、声が上ずり動揺が隠せない。
 だが、六花は動揺を更に大きくさせた。

「男同士はいけないの?  子供もできるのに?」
「は?」
「ん?」

 妖怪や鬼の常識と人間の常識を天秤にかけるのは、間違っていると思う。男同士でも恋愛対象となるのも、人間と違うからと言われれば、それはそれで納得ができる。

 だが、その後の言葉はどうも理解が出来ない。
 男同士でも問題なく、更に子供を身篭ることもできるという。

 そんなはずはない。まず、体の造りが男女では大きく違うのだ。

(いや、でもそれも結局は人間の常識ってことか……)

「恭吾は子供が出来ないの?」

 六花は心配そうに聞いてくる。それは、子供が出来ないのは可哀想だと言っているかの表情だ。

「で、出来ない。俺は男だから」
「じゃぁ、蓮さまが授かるんだね!  きっと可愛いよ!  んーん、絶対可愛い! 僕、お兄さんになるんだね」

 既に夫婦のように扱う六花に、開いた口が塞がらない。

「天花も風花もね、楽しみにしてるの。僕達ずっと蓮さまと四人だったの。それも楽しかったけど……恭吾が来てくれて嬉しいの。でも赤ちゃん増えたらもっと嬉しいね」
「で、でも俺は足が治ったら下山するんだぞ?」
「え……そうなの?」

 泣いてしまいそうな六花を前に、強く帰るのだと言えずに曖昧に濁して会話を終わらせてしまった。

 恭吾が蓮を抱いてしまった時、彼は断ることはしなかった。
 男同士でも蓮が妊娠する可能性があると知っていたら、恭吾は躊躇い最後まではしなかっただろう。

 では、蓮はどうなのだろうか。

 その可能性を何故、恭吾に言わず、今もその事実を黙ったままなのだろうか。話したくないのか。
 それとも、何か裏があるのだろうか……。

 考えていても仕方がないと、ようやく歩けるようになった足で蓮の部屋に向かった。
 場所は三つ子に聞いていたが、歩くと家は以外に広く、屋敷と言われる類に入るのだろう。風呂場は恭吾の部屋の傍だったが、蓮の部屋はその反対端にあるようで歩けど歩けど、まだ廊下が続くのかと思うほどだった。

 やっとたどり着いた蓮の部屋からは異常な程の冷気が漏れ出している。
 勝手に開いては良くないと思いつつ、ここまで来たのだからと思い切って声を掛けた。

「蓮、おい、いるんだろ?」

 気配はするのに返事がない。
 無視をするタイプではない蓮が返事をしない理由を考えると、倒れているのではとしか思えなくなった。

 他の選択肢を考える余裕のなくなった恭吾は、部屋の襖に手をかけた。

「おい!  蓮!」

 襖を開くとその冷気は一気に強く、恭吾の体に纏りつく。その冷気の中心には呼びかけたはずの蓮が、氷が固まったように身動きひとつしなかった。

「蓮……?  おい、蓮!  どうしたんだよ!  蓮!」
「きょ……ご……さん?」

 駆け寄り、肩を思い切り揺らす。凍ってしまいそうな程、冷えた蓮の体を抱きしめると固まっていた頭がゆっくりと恭吾の肩に寄りかかる。

「冷たいでしょう。離れた方がいいのに……でも、恭吾さんは……暖かい……」

 それだけ言うと、蓮はうっすら開けていた瞼を閉じて倒れるように眠りに落ちていった。

「なんなんだよ……」

 まだ冷えている体だが、先程のように刺すような冷気は消えていた。

 この現象は決して蓮にとってよい傾向ではないと直感的に感じた恭吾は、押入れから布団を出しゆっくりと寝かせて、隣に座る。

 すーすーと寝息を立てる美しい人は、この姿だけでは男だと未だに信じられない。だが、あの風呂場での一件を思い出すと彼は完全に男性の象徴があり性別は男だと認識できた。
 それなのに、それすら夢だったのではないかと恭吾は思えてしまう。

 今の冷気といい、セックス中に請いた許しの内容といい、蓮の事を何一つ分かっていないのだと思い知らされ愕然とした。何も知らない相手に、勝手に恋をしたと勘違いをしてキスをし、半分強制的に彼の初めてを奪ったのだ。

 ぽっかりと心が開いてしまったような感覚になった。

 知らないという事が、これほどまでに虚しく悲しいことだとは知らなかった。知らない事を知らない。それがどれ程、重いのか。それがどれ程、相手を傷つけていたのか。

 そっと蓮の頬を撫でると、つーっと涙が流れた。
 ゆっくりと確実にそれは氷に変わり、美しい頬の上で固まる。

(俺は……俺は、お前が知りたい。蓮……一体お前は何者なんだ……)

 氷に変わった涙の粒をゆっくりと丁寧に払い落とし、その微かに残った痕に恭吾は暖かく溶けるような口づけをした。
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