【R18,BL】雪月花時最憶君

麦飯 太郎

文字の大きさ
上 下
5 / 18

5、入浴

しおりを挟む
***

 蓮の家で世話になり始めて四日が経った。

 食事に衣類、それだけでも充分ありがたいのに、人間の世界の事が珍しいのか三つ子は時間を見つけては恭吾の所に遊びに来て話をする。
 三人同時に来ることもあれば、一人で来てお話をしてくれとねだられる事もある。
 おかげで暇な時間を作るのが難しいほどだったが、暇な時間と言うものは、考え事をしてしまうのでない方が有り難かった。

 だがそろそろ気になる事がある。
 身体の臭いだ。
 毎日、湯を用意してくれて拭う事は出来るが、髪を洗ったり出来ないので清潔感が欠けてきた。特に蓮が毎回手伝ってくれるため、下半身は足ばかり拭いてしまい肝心な所はおざなりになっている。

(風呂に入りたい……もう、片足で立てそうだし大丈夫だよな)

 思い切って、三つ子の中で最もスムーズに話が通じそうな天花に相談をしてみた。

「入浴ですか……そうですね、では蓮さまに相談してみます」
「あぁ~、出来ればその一回目は内緒で出来ないか?」

 何故と首を捻る天花は、どこかの屋敷に飾ってある上品な日本人形より可愛らしい。それを騙すようで心苦しいが、それでも一人で入りたいので苦笑いをしてあらかじめ考えていた言い訳をする。

「ほら、蓮って俺の体拭くのも手伝うだろう? きっと風呂に入りたいって言ったら手伝うって言うに違いないよな。だからさ」

 また何故と首を捻る子供に、素直に蓮を意識してしまうなんて言えるはずもなく、とにかくお願いだと通して貰えるようにした。

 約束の時間は夕方の日が沈む直前に決まり、それは蓮が外の見回りに行き小一時間は戻って来ないからだという。
 ほっとして久々の風呂に心を弾ませた。

 その時間はすぐにやってきて、天花は上手く歩けない恭吾の手を引き脱衣所へ案内してくれた。

「これが着替えです。終わった頃にまたお迎えに来ます。僕は夕食当番なので……」

 最後まで世話を出来ないことを詫びる天花の頭を撫でてやる。

「ここまでしてくれたら充分だ。俺こそ、無理を言って悪かった」
「い、いいえ! そんな、恭吾がお風呂に入りたい気持ちも分かるから……その代わり、今度遊んで下さい!」

 任せろと言うと天花はありがとうと微笑んで脱衣所を出て行った。
 ありがとうはこちらの台詞なのに、健気な天花が三つ子のリーダー役をしている理由がよくわかった。

(天花に頼んで本当に良かった)

 六花も風花もとても良い子なのはこの四日でよく分かったのだが、それぞれの性格を考えると頼みごとは天花になってしまう。
 きっとそれは蓮も同じ事なのだろうと恭吾はふと思った。

 ゆっくりと、まだ痛みが走る足を庇いながら着物を脱ぐ。
 ズボンと違い、帯を解けばすぐに脱げるのがありがたい。

 浴室は現代のようなシャワーはもちろん無く、木造の三つ子と蓮が入っても余裕のありそうな大きめの浴槽と同じ木造の椅子と桶があった。花の香りのする石鹸のような塊があり、それで身体を洗うのだとなんとなく理解した。

 その香りは優しくて、どこかで嗅いだことがあると思った瞬間、身体を拭いてくれていた蓮から香っていたのだと気づいてしまった。
 意識してしまうとそれしか考えられなくなってしまう。

 この浴室には今は恭吾しかいないが、普段は三つ子もそして蓮も使っているのだ。
 この座っている椅子ですら、蓮が全裸で座り身体を流している。

(だ、だめだ! 今はとにかく身体を洗って、頭も洗ってそれでちょっと浴槽に浸かって上がるんだ!)

 自身の理性との勝負に負けないように、賢明に全身を洗い上げる。
 時たま痛みが走るが、それすら勝負に必要なのだとして洗う速度を早めた。

 全てが終わり、すっきりして浴槽に浸かる頃には身体は疲れ切っていた。せっかくの入浴は身体より心が疲れてしまい本末転倒だなとクスリと笑う。

 その時、ガララと音がして浴室の扉が開いた。

 天花と別れてからそれ程時間は経っていないはずだが、足を庇いながら洗うのに余計に時間が掛かっていたのだと思い焦ってその扉に振り返った。

「悪い天花、今あが……る……」
「え……恭吾さんですか? あぁ、入浴中でしたか。どうぞお気になさらずに」

 そこには普段は着物で隠れている、スラリと長い生足を晒している蓮が立っている。更に、何事も無かったかのように桶を使い浴槽の湯を浴び始めた。

「え、ちょ! 俺上がるから! 蓮、待てって!」

 蓮は恭吾に背を向けて湯を浴びている。普段は一つに結っている髪を解いているせいか、余計に性的に見えてしまう。

 首だけを恭吾に向けて、何故ですかと蓮はたずねてきた。

「いや、だってそんな……俺だって男なんだ、わかるだろ。そんな……綺麗な姿見せられた堪らないんだよ! 察しろよ!」
「え?」

 振り向いたまま、蓮は固まって顔を赤らめている。そんなこと思っても見なかったというような反応だ。

「綺麗って……私がですか? どなたかと勘違いされてませんか?」
「この状況でどう勘違いしろって言うんだよ……」

 湯気にかき消されそうな声で反論した恭吾に、正面を向いて蓮はうつむいてしまった。

 先に風呂に入っていたのが恭吾だったとしても、この状況で世話になっている人間が居座るのもおかしな話だ。やはり風呂を出るべきだと思う。
 だが、既に勃ってしまった肉棒を隠し通すことが出来るはずもなく浴槽にぶくぶくと沈んだ。

「えっと……私で……すか?  妖怪ですよ?」
「妖怪でも綺麗なものは綺麗だって。しかも蓮は心も綺麗だと思う」

 自分の言葉に驚く。一体何を言っているのだろう。
 まるで恋をした相手を口説くような文句だ。

「えっとそうじゃなくて、その……な、わかるだろ?」
「恭吾さん……」

 名前を呼ばれると、口から心臓が出そうなほど緊張した。
 そして次に吐かれた蓮の言葉で、本当に心臓を吐いてしまうかと思った。

「恭吾さん……私、妖怪で……男ですよ?」

 その場の空気が止まる。

 それはきっと一秒とか二秒とかなのだろう。
 だが恭吾の頭の中で様々な事が巡っていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

親友の弟を騙して抱いて、

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照
BL
「お前さんは随分と、いやらしい男だな?」/世話焼きだけど不器用な年上×クールで不愛想な年下 *表紙* 題字&イラスト:もち丼 様 ( Twitter → @mochi_don_ ) ※ 表紙の持ち出しはご遠慮ください (拡大版は1ページ目に挿入させていただいております!) 人気モデル火乃宮平兵衛(ひのみや へいべえ)はある日突然、同居人の月島冬樹(つきしま ふゆき)を交通事故で亡くしてしまう。 冬樹の死を受け止められない平兵衛は、彼の葬式で弟の冬人(ふゆと)を冬樹と間違えて抱き締めてしまう。 今後二度と会うことはないと思っていた冬人と、平兵衛は数日後、再会を果たす。その場所は、冬樹が撮影するはず予定の現場だった。 突然芸能界へやって来た冬人に驚く平兵衛だったが、またしても冬人は驚きの言葉を口にする。 「──私を、火乃宮さんと一緒に住まわせてほしい」 そう言う冬人には、ある【目的】があったのだ。 その【目的】は、平兵衛にとって受け止められないものだった。 ──だからこそ、平兵衛は冬人を【騙す】しかなかったのだ。 大切な友人を亡くした男と、兄の死に思うところがある弟のお話です! シリアスな展開が多いですが、端々にニコッとできるような要素もちりばめました! 楽しんでいただけましたら幸いです! ※ アダルト表現のあるページにはタイトルの後ろに * と表記しておりますので、読む時はお気を付けください!! ※ この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。 ※ 2022.07.24 レイアウトを変更いたしました!!

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

処理中です...