26 / 41
救出
しおりを挟む
長い長い夜が明けた。
ウトウトとしていたおとめは、外の足音で覚醒し身構える。
「おはよう! おとめちゃん!」
「ゆきちゃん!!」
扉を開けて駆け寄ってきたゆきは、懐から温石を取り出し、そっとおとめの腹に差し込んでくれた。
「うわっ! はぁ~……温かい……」
「ごめんね。本当は昨晩来たかったんだけど」
「ありがとう。大丈夫だよ。それより今はどんな状況?」
その言葉に、ゆきは眉を顰めた。状況は芳しくないようだ。
「おとめちゃん。落ち着いて聞いてね? おとめちゃんの家は留吉に買われた男衆で見張られてたんだけど、今朝早くにトヨさんが隙を見て抜け出して、村長の家に行ったの。でも、村長は留吉に何か弱みを握られてるらしくて返答を濁したらしい。それで、痺れを切らしたトヨさんは村長の家を出て……」
「どう……なったの?」
「……山へ、走っていったらしいの」
「ヒッ――」
トヨが一人で雪山に向かう。それはきっと龍神を頼ってだろう。だが、おとめはトヨにも龍神の湖の詳しい場所は教えていない。
となると、トヨはあてもなく湖を探して雪山を彷徨うこととなる。
――冬の山は方向感覚が狂いやすい。
そんな雪山に一人で装備もせず、目的地すら分からず入るなど……いくら田舎育ちのトヨでも自殺行為に等しい。
呼吸が荒くなったおとめに、ゆきが手を差し伸べてきた。それをギュッと縋るように握る。
「さすがにまずいってなって、今は留吉に買われてない男衆が山に入ってる。それとあまり効果はないだろうけど、女衆が麓から山に向かって叫んでるから」
「……ありがとう…………」
「必ず見つけるから。おとめちゃんも負けないで」
「……うん」
話がひと段落すると、下卑た笑いが外から聞こえてきた。その声の主に気付き、おとめとゆきは身体をかたくする。
「……留吉」
「よぉ、ゆき。太っても良い女だな。乳がよく出そうだ。どうだ? ワシの子も孕まんか?」
その言葉に、襟を正したゆきは無言で留吉を睨む。その態度に留吉は唾を吐いた。
「なんじゃ、おとめを説得してるんじゃなかったんか?」
「……」
「おとめぇ~。トヨさんは逃げちまったぞ? 捨てられたんだ。なぁ、もう頼れるのはワシしかおらんじゃろ? ワシの嫁になる決心をしたか?」
「嫌よ。死んでも嫌。あんたなんかと結婚するなら、地獄の鬼の慰み者の方が幾分かマシね」
そう言うと、留吉のこめかみに血管が浮き出る。
ゆきがそれ以上はやめた方が良いと首を振るが、嫌われるくらいのことを言わなければ、いつかは手篭めにされてしまうだろう。
「帝都に行って、何か得たと思ったら頭の中身落としてきたんでしょう? はした金だけ持って帰ってきて、困ってる男衆を買って。本当は誰もあんたを信用してなんていないし、好いてもいない。表面だけの関わりで満足するなら帝都で薄っぺらい人間関係築いて満足してなさいよ。村から出ていけこのクズ野郎」
「てめぇ、言わせておけば!!」
檻に近付いた留吉はゆきを押し退け、おとめに掴みかかる。グイと引っ張りあげられ、襟元が乱れて肌襦袢まで乱れて乳房の上の部分がまろび出た。
「両手両足縛ったまま、その口に布でも詰め込んでワシのちんぽ突っ込んで孕ませてやる!! そのまま村の男にまわされて死ね!! この異国人が!!」
――ズドーーン!!!!
留吉の叫びが終わる直前、大きな地鳴りがした。納屋にある狩猟用具が床に落ち、留吉はおとめの襟を持ったまま檻にぶつかった。
おとめも檻に頭をぶつけてしまい、痛みを感じた。
「なんじゃ!! 地震か!?」
しかし、その揺れは一瞬で終わり、次に突風が納屋を揺らし……その屋根と壁を吹き飛ばした。
吹き曝しになった場所に、座り込むゆきと檻の外で驚いた表情の留吉、その留吉に襟を掴まれ檻に入れられたおとめが現れた。
そして、もう一人。
龍神が納屋の屋根ほどの高さに浮かび、こちらを見下ろしている。
驚くほど冷たい表情に、おとめまで肝が凍るような気がした。
「龍神……様……」
よく見ると、いつもと少し違う。
頭には以前触れた角が少しだけあった場所から、立派な龍の角が生えている。黒目は丸くなく細く縦長になり、口端からは牙が見えていた。そして、着物の裾から長い尾が下がり、納屋のあった場所をぐるりと囲むように這っている。
「あれが……龍神……」
おとめの襟を離した留吉は、ずるずると情けなく逃げようとするが、龍神の尾に阻まれて、それが叶わない。
するりと空気が降りるように龍神はおとめのいる檻に近付き、鉄の柵を両手で簡単に曲げておとめを外に出してくれた。
縛られた縄を外し、そのままおとめを片手で抱え、ゆっくりと頬を撫でる。
「遅くなってすまない。怪我はないか?」
「はい、でも、でも、お母さんが、山に!!」
すると優しく微笑んだ龍神は、おとめの耳元に口を寄せた。
「安心しろ。ヤエと次郎、三国がおとめの家まで連れ帰った。高熱を出していたから、そのまま世話をするように言い伝えてある」
その言葉におとめは涙を流し、龍神の着物を掴んで何度も感謝の言葉を述べた。
おとめの額に手をあてた龍神は眉間に皺を寄せる。そして、そっとおとめの首筋を撫でた。
「おとめも熱が出ているな……少し寝るといい」
「でも、それじゃぁ」
「大丈夫だ。全て終わらせておく」
微笑んだ龍神におとめは安堵の息を吐いた。それを確認して、龍神はおとめの目元に手を置く。ゆっくり眠るといい その言葉を聞くと同時におとめは深い眠りへと落ちていった。
ウトウトとしていたおとめは、外の足音で覚醒し身構える。
「おはよう! おとめちゃん!」
「ゆきちゃん!!」
扉を開けて駆け寄ってきたゆきは、懐から温石を取り出し、そっとおとめの腹に差し込んでくれた。
「うわっ! はぁ~……温かい……」
「ごめんね。本当は昨晩来たかったんだけど」
「ありがとう。大丈夫だよ。それより今はどんな状況?」
その言葉に、ゆきは眉を顰めた。状況は芳しくないようだ。
「おとめちゃん。落ち着いて聞いてね? おとめちゃんの家は留吉に買われた男衆で見張られてたんだけど、今朝早くにトヨさんが隙を見て抜け出して、村長の家に行ったの。でも、村長は留吉に何か弱みを握られてるらしくて返答を濁したらしい。それで、痺れを切らしたトヨさんは村長の家を出て……」
「どう……なったの?」
「……山へ、走っていったらしいの」
「ヒッ――」
トヨが一人で雪山に向かう。それはきっと龍神を頼ってだろう。だが、おとめはトヨにも龍神の湖の詳しい場所は教えていない。
となると、トヨはあてもなく湖を探して雪山を彷徨うこととなる。
――冬の山は方向感覚が狂いやすい。
そんな雪山に一人で装備もせず、目的地すら分からず入るなど……いくら田舎育ちのトヨでも自殺行為に等しい。
呼吸が荒くなったおとめに、ゆきが手を差し伸べてきた。それをギュッと縋るように握る。
「さすがにまずいってなって、今は留吉に買われてない男衆が山に入ってる。それとあまり効果はないだろうけど、女衆が麓から山に向かって叫んでるから」
「……ありがとう…………」
「必ず見つけるから。おとめちゃんも負けないで」
「……うん」
話がひと段落すると、下卑た笑いが外から聞こえてきた。その声の主に気付き、おとめとゆきは身体をかたくする。
「……留吉」
「よぉ、ゆき。太っても良い女だな。乳がよく出そうだ。どうだ? ワシの子も孕まんか?」
その言葉に、襟を正したゆきは無言で留吉を睨む。その態度に留吉は唾を吐いた。
「なんじゃ、おとめを説得してるんじゃなかったんか?」
「……」
「おとめぇ~。トヨさんは逃げちまったぞ? 捨てられたんだ。なぁ、もう頼れるのはワシしかおらんじゃろ? ワシの嫁になる決心をしたか?」
「嫌よ。死んでも嫌。あんたなんかと結婚するなら、地獄の鬼の慰み者の方が幾分かマシね」
そう言うと、留吉のこめかみに血管が浮き出る。
ゆきがそれ以上はやめた方が良いと首を振るが、嫌われるくらいのことを言わなければ、いつかは手篭めにされてしまうだろう。
「帝都に行って、何か得たと思ったら頭の中身落としてきたんでしょう? はした金だけ持って帰ってきて、困ってる男衆を買って。本当は誰もあんたを信用してなんていないし、好いてもいない。表面だけの関わりで満足するなら帝都で薄っぺらい人間関係築いて満足してなさいよ。村から出ていけこのクズ野郎」
「てめぇ、言わせておけば!!」
檻に近付いた留吉はゆきを押し退け、おとめに掴みかかる。グイと引っ張りあげられ、襟元が乱れて肌襦袢まで乱れて乳房の上の部分がまろび出た。
「両手両足縛ったまま、その口に布でも詰め込んでワシのちんぽ突っ込んで孕ませてやる!! そのまま村の男にまわされて死ね!! この異国人が!!」
――ズドーーン!!!!
留吉の叫びが終わる直前、大きな地鳴りがした。納屋にある狩猟用具が床に落ち、留吉はおとめの襟を持ったまま檻にぶつかった。
おとめも檻に頭をぶつけてしまい、痛みを感じた。
「なんじゃ!! 地震か!?」
しかし、その揺れは一瞬で終わり、次に突風が納屋を揺らし……その屋根と壁を吹き飛ばした。
吹き曝しになった場所に、座り込むゆきと檻の外で驚いた表情の留吉、その留吉に襟を掴まれ檻に入れられたおとめが現れた。
そして、もう一人。
龍神が納屋の屋根ほどの高さに浮かび、こちらを見下ろしている。
驚くほど冷たい表情に、おとめまで肝が凍るような気がした。
「龍神……様……」
よく見ると、いつもと少し違う。
頭には以前触れた角が少しだけあった場所から、立派な龍の角が生えている。黒目は丸くなく細く縦長になり、口端からは牙が見えていた。そして、着物の裾から長い尾が下がり、納屋のあった場所をぐるりと囲むように這っている。
「あれが……龍神……」
おとめの襟を離した留吉は、ずるずると情けなく逃げようとするが、龍神の尾に阻まれて、それが叶わない。
するりと空気が降りるように龍神はおとめのいる檻に近付き、鉄の柵を両手で簡単に曲げておとめを外に出してくれた。
縛られた縄を外し、そのままおとめを片手で抱え、ゆっくりと頬を撫でる。
「遅くなってすまない。怪我はないか?」
「はい、でも、でも、お母さんが、山に!!」
すると優しく微笑んだ龍神は、おとめの耳元に口を寄せた。
「安心しろ。ヤエと次郎、三国がおとめの家まで連れ帰った。高熱を出していたから、そのまま世話をするように言い伝えてある」
その言葉におとめは涙を流し、龍神の着物を掴んで何度も感謝の言葉を述べた。
おとめの額に手をあてた龍神は眉間に皺を寄せる。そして、そっとおとめの首筋を撫でた。
「おとめも熱が出ているな……少し寝るといい」
「でも、それじゃぁ」
「大丈夫だ。全て終わらせておく」
微笑んだ龍神におとめは安堵の息を吐いた。それを確認して、龍神はおとめの目元に手を置く。ゆっくり眠るといい その言葉を聞くと同時におとめは深い眠りへと落ちていった。
0
お気に入りに追加
53
あなたにおすすめの小説
先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…
ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。
しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。
気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…
今、夫と私の浮気相手の二人に侵されている
ヘロディア
恋愛
浮気がバレた主人公。
夫の提案で、主人公、夫、浮気相手の三人で面会することとなる。
そこで主人公は男同士の自分の取り合いを目の当たりにし、最後に男たちが選んだのは、先に主人公を絶頂に導いたものの勝ち、という道だった。
主人公は絶望的な状況で喘ぎ始め…
若妻シリーズ
笹椰かな
恋愛
とある事情により中年男性・飛龍(ひりゅう)の妻となった18歳の愛実(めぐみ)。
気の進まない結婚だったが、優しく接してくれる夫に愛実の気持ちは傾いていく。これはそんな二人の夜(または昼)の営みの話。
乳首責め/クリ責め/潮吹き
※表紙の作成/かんたん表紙メーカー様
※使用画像/SplitShire様
大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました
扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!?
*こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。
――
ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。
そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。
その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。
結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。
が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。
彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。
しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。
どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。
そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。
――もしかして、これは嫌がらせ?
メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。
「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」
どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……?
*WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
両隣から喘ぎ声が聞こえてくるので僕らもヤろうということになった
ヘロディア
恋愛
妻と一緒に寝る主人公だったが、変な声を耳にして、目が覚めてしまう。
その声は、隣の家から薄い壁を伝って聞こえてくる喘ぎ声だった。
欲情が刺激された主人公は…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる