フリー声劇台本〜BL台本まとめ〜

摩訶子

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こんな静かな夜には(約20分 男2)

本編

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○容慈の独白

容慈(ようじ):(N)こんな静かな夜には、愛しい人の悲鳴を響かせたくなる。
 そんな自分が異常だということは、とっくにわかっている。
 俺の愛しい恋人は、とても穏やかで、優しくて、そして冷静で……。叫んだり、泣いたり、それどころか、本気で驚いているところさえ見たことがない。
 『そんなところが好きだ』と言えば聞こえはいいかもしれないが、……正しくは、『そんなところを俺の手でぐちゃぐちゃにすることを妄想するのが好き』なのだ。


○容慈の自宅(朝)

静夜(しずや):「容慈さん、おはようございます。今日もとても良いお天気ですね。朝ごはんは何がいいですか? …あ。たまには外で食べるのもいいかもしれないですね。駅前のカフェのモーニングって、何時までだったかなぁ」

容慈(ようじ):(N)のんびりと朗らかに朝の挨拶をする彼に、俺は笑顔で相槌を打って、優しく頭を撫でる。
 その笑顔の裏側で、何を考えているのかなんて……純粋な彼にはとても想像できないことだろう。

容慈(ようじ):「静夜。おまえは本当におっとりしていて可愛いな。一緒に居るといつも癒される」
静夜(しずや):「そうですか? 容慈さんこそ、いつも優しく包み込んでくれるみたいで、そばに居るととても安心できます」

容慈(ようじ):(N)本当は、癒されている時間などあるはずがない。決して見せない腹の底が、歪んだ欲望でこんなにも煮えたぎっているのだから。
 ……この何も知らずに俺の腕の中で安心しきっている柔らかい身体を、………一瞬にして驚きと恐怖で硬直させてみたい。
 その時この腕に抱いている感触は……どんなにそそられることだろう……。

容慈(ようじ):「静夜」
静夜(しずや):「(優しく)…はい?」
容慈(ようじ):「愛してる」
静夜(しずや):「(幸せそうに)……僕もです」
容慈(ようじ):「嬉しいよ…。俺はこんなにもおまえが愛しくてたまらない。……だから、」
静夜(しずや):「(とろんと)……ん?」
 
容慈(ようじ):「(耳元で囁く)………だから、……【おまえを殺したい】」
 
静夜(しずや):「………………え……?」

容慈(ようじ):(N)……言った瞬間。腕の中で、羽のようにふわふわと柔らかかった細い身体が、ぴくんと小さく跳ねたと同時に、芯が通ったように固まった。
 ………あぁ、これだ。
 これだ。これだ。これだ。
 ……そう。たとえば、こんなことをしてみたら。……俺の秘密の欲望は、まず1つ満たされるのだろう。


静夜(しずや):「容慈さん、どうしました? さっきから何だかぼんやりしているみたいだけれど、(心から心配そうに)どこか具合でも悪いんですか?」
容慈(ようじ):「……あぁ、いや、何でもないよ。ちょっと考え事をね。心配させてごめんな」
静夜(しずや):「考え事? 何か悩んでいるのですか?」
容慈(ようじ):「いや、違うよ。……とても、楽しいことを考えていた。おまえが傍にいるからだろうな」
静夜(しずや):「よかった! ねえ、それなら早く出かけましょう? せっかくのお休みなんですから、あなたとの時間を少しでも無駄にしたくないです」
容慈(ようじ):「あぁ、そうだな。すぐに支度をしよう」
静夜(しずや):「(嬉しそうに)…ふふふ」


容慈(ようじ):(N)どこまでも穏やかな彼をぐちゃぐちゃに壊してしまう妄想は、日に日に俺を狂わせていくようだった。


○同(夕)

静夜(しずや):「映画面白かったですね」
容慈(ようじ):「そうだな。映画を観てその足で原作を買いに本屋まで行ったのなんて、久しぶりだ」
静夜(しずや):「原作の小説を1冊買うだけのはずだったのに、関係ない漫画を10冊以上も買っちゃうなんて」
容慈(ようじ):「(笑いながら)まぁいいじゃないか」
静夜(しずや):「よくないです。ほらぁ、帰ってきて早々、もうそれ読もうとしてるじゃないですか」
容慈(ようじ):「だめ?」
静夜(しずや):「せっかく一緒のお休みなのに…」
容慈(ようじ):「なんだ、寂しいのか? …それなら、こうやって一緒に読めばいい!」
静夜(しずや):「え、ちょ、ちょっと…」
容慈(ようじ):「びっくりしたか?」

容慈(ようじ):(N)時々こうして、不意をついて驚かせてみようと試みる。
 少しだけ慌てた素振りを見せてはくれるものの………これでは足りない。全然足りないんだ。

静夜(しずや):「…もぅ。しょうがないなぁ。膝枕なんてしたら、余計読みにくいと思いますけど」
容慈(ようじ):「あれ~、大人な対応されちゃった。もうちょっと驚いてくれてもいいんだけどなぁ」
静夜(しずや):「(軽く笑って)はいはい」

容慈(ようじ):(N)どんな時でも朗らかな笑顔を絶やさない彼は、本当によくできた人格者だと思う。
 ふんわりと笑うこの表情を、素直に守りたいと思う反面………苦痛に歪めてみたくなる。

容慈(ようじ):「…静夜、……おいで」
静夜(しずや):「ん? ……わっ。……もぅ。まだ夕前ですよ? それに、床じゃ痛いです」
容慈(ようじ):「……クククッ」
静夜(しずや):「…?」
容慈、唐突に静夜の首を絞める
静夜(しずや):「!!? ……なん、…で……っ…」
悶え苦しむ静夜の表情を恍惚と眺めている容慈の堪えきれない笑い声が漏れる
 
容慈(ようじ):(N)…あぁ、そうだ、たとえばこんな顔……。
 この顔が見られたら、俺はもう………。


静夜(しずや):「容慈さん…? ねえ、やっぱり今日は、ずっとぼんやりしていますよね? 本当に、具合が悪いわけじゃないんですか?」
容慈(ようじ):「………ん…?」
静夜(しずや):「…ほら、なんだか凄く虚ろな感じ……。それに、…あ! やっぱり熱い…。(本当に心配そうに)熱があるんじゃないですか?」
容慈(ようじ):「……あぁ………熱かぁ………ふふふ、……そうだなぁ……今、…だいぶ、熱に浮かされているよ」
静夜(しずや):「容慈さん!?」


○同(夜)

容慈(ようじ):(N)気づけばすっかり夜だった。
 …今日は、自分に素直になりすぎたのだろうか。いつにも増して燃え盛る興奮と欲望に、本当に高熱にでも溺れているような感覚になっていた。
 
容慈(ようじ):(N)…とても、静かな夜。
 ……あぁ、これは良い夜だ。こんな静かな、月明かりの美しい夜には………おまえの悲鳴を響かせてみたい。


容慈(ようじ):「………………」
静夜(しずや):「…容慈さん……? しっかりしてください! 容慈さん…!? 容慈さん!!!!」

 動かずにいる容慈、少し間

静夜(しずや):「……あ……ぁ………(容慈の聴きたかった最高の悲鳴を)」


容慈(ようじ):(N)………あぁ……これが………夢にまで見た………。
 …最高だ。おまえは本当に………


容慈(ようじ):(N)静かな夜に、聴きたくて聴きたくてたまらなかった、あの子の悲鳴が響き渡った。
 全身に熱が走るのを感じながら、……この快楽に溺れたまま死んでもいいと思っていると、……少しだけ、妙な違和感に気づいた。
 何だか随分と、リアルになってきた気がするが………これは、まだ………妄想の中のこと、……だよな……?


静夜(しずや):「容慈さん!! 容慈さん!!!」
 
容慈(ようじ):(そうだよな、静夜……?)


容慈(ようじ):(N)どこからか、妄想と現実の狭間が曖昧になっていて。……いま自分がどっちにいるのか、よくわからなくなっていた。


静夜(しずや):「容慈さん!!!」





静夜(しずや):「…(楽しそうに)容慈さ~ん?」
容慈(ようじ):「………?」
静夜(しずや):「……ふふふふふふ、ふっ!!(容慈の首を絞める)」
容慈(ようじ):「…っ!? ……な、……なんっ、……っ、」
静夜(しずや):「死んだふりなのわかってますよぉ? …もぉ、無防備にしてるから簡単に立場逆転できちゃいました」
容慈(ようじ):「……は…? ……?」
静夜(しずや):「…あのね? あなたはきっと、僕達が惹かれ合っているのは、お互い正反対だからだと思っているのでしょうけれど……」
容慈(ようじ):「………」
静夜(しずや):「………それは違いますよ。僕達は、正反対だからじゃない。……同じ性質を持っているからこそ、惹かれ合う……いいえ、だから『僕があなたに』惹かれているんです」
容慈(ようじ):「………静夜……」
静夜(しずや):「…僕があなたの嗜虐性(しぎゃくせい)に気づいていないとでも思っていましたか?」
容慈(ようじ):「………………」
静夜(しずや):「あなたは僕のことを、穏やかで優しい、純粋な人間だと信じてくれていたみたいだけれど。……僕はね、」
容慈(ようじ):「……言う、な………ききたく、……ない……、」
静夜(しずや):「僕は……あなたのような加虐嗜好者(かぎゃくしこうしゃ)が、逆に痛めつけられているのを見るのがたまらなく好きなんですよ…」
容慈(ようじ):「……! やめろ……そんなの、…おまえじゃない……!」
静夜(しずや):「あなたが勝手に勘違いしていただけでしょう? それに僕は、弱い者のことは傷つけたいなんて思わないから、実際あなたよりは優しいと思いますよ?」
容慈(ようじ):「静夜………」
静夜(しずや):「僕が興奮するのは、あなたのような人が己の欲望を満たして、満足して恍惚(こうこつ)としている時に……その最高潮の状態を、ぐちゃぐちゃに握り潰された顔を見ることです」
容慈(ようじ):「………(震撼)」
静夜(しずや):「ねえ? どうですか? 苦しいですか? 怖いですか? ……さっきのあなたのとろけるような満たされた表情は、本当にそそられましたよ…。『これを今から僕が壊すんだ』って……考えただけで、もう……!」
容慈(ようじ):「……嫌だ………こんなの、…ちがう………こんなの……」
静夜(しずや):「あぁ………こんな状態になってもまだ、口にするのは自分の欲望のことばかり……。素晴らしいです………やっぱり、あなたは最高の恋人だ」
容慈(ようじ):「静夜………いつものおまえに、戻ってくれ……」
静夜(しずや):「表情はクリア。……あとは、そう。わかっていますよね? この静かな夜に響かせましょう。…聴かせてください、あなたが聴きたがっていたような、最高の悲鳴を、僕に」
容慈(ようじ):「(首から静夜の手が離れて咳き込みながら)……な、なに、を………………え? …!? なんだよそれ……やめろ…やめろ……おい!!!」
静夜(しずや):「……あぁぁその顔、もはや芸術の域ですよ。だから声も聴かせてください。さぁ………」
容慈(ようじ):「…あ……あぁぁ………………(最高の悲鳴を)」


○静夜の独白

静夜(しずや):(N)こんな静かな夜には、愛しい人の悲鳴を響かせたくなる。
 そんな自分が異常だということは、とっくにわかっている。
 僕の愛しい恋人は、優しさの皮を被って、心の奥底でいつも、おぞましいほどの嗜虐心を煮えたぎらせている。
 『そんなところが好きだ』と言えば聞こえはいいかもしれないが、……正しくは、『そんなところを僕の手でぐちゃぐちゃにすることを妄想するのが好き』なのだ。
 普段はそんなこと、思っていても実践しようとなんて思わないんですけれどね?
 …でも、お互い今日は、何かが外れてしまったのでしょう。
 
静夜(しずや):(N)こんな、静かな夜だから。


END
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