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さよならだけは言ってあげない (約20分 男2)
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○教会・地下室
ヤコブ:「彼は無関係です」
サニ:「関係者です。僕はヤコブの愛人ですから」
ヤコブ:「サニ!!」
サニ:「ほら。とても他人同士には見えないでしょう?」
ヤコブ:「関係ないと言うんだ!! じゃなきゃ君まで!!」
サニ:「そうなるために。ずっと決めていたことなんだからね」
ヤコブ:(N)断頭台の上で。…俺の隣で。
彼は【最期まで】、毅然とした態度を貫いていた。
○ヤコブの自宅(夜)
ヤコブ:(N)この村は狂っている。
そう悟った時、俺は聖職者を志した。
サニ:『この村では、聖職者はその身を女神だけに捧げることを誓わなければならない。…つまり、生涯純潔を守り続けなければならない。でしょ?』
ヤコブ:『あぁ。そうだよ』
サニ:『(含み笑いで)なら、今しているこれは何だろうね。バレたらどうなるの?』
ヤコブ:『それは……わからない。たぶん、教会を追放されて……村からも追放、かもしれない』
サニ:『司祭になる夢はいいの?』
ヤコブ:『捨てるつもりはない』
サニ:『矛盾してるって言われない?』
ヤコブ:『だから。……バレないようにやる』
サニ:『(含み笑いで)甘いんじゃないのかなぁ』
ヤコブ:『大丈夫だよ』
サニ:『本当に?』
ヤコブ:『君は俺と別れたいのか?』
サニ:『まさか』
ヤコブ:『違うならなぜそんなことばかり…』
サニ:『愛しているからだよ』
ヤコブ:『………』
サニ:『愛しているから、あなたの捨てられないものも理解しなければいけないと思ってる』
ヤコブ:『サニ……』
サニ:『…だからね、これから先、僕の存在があなたの邪魔になるようなら、僕はちゃんとあなたの前から消えるよ』
ヤコブ:『そんなこと……』
サニ:『でも』
ヤコブ:『……?』
サニ:『……でも、覚えておいて。消えてあげる時にも…ひとつだけ、決めていることがあるから』
ヤコブ:『………』
サニ:『僕は、いつかあなたから身を引いても、絶対に………』
サニ:【さよならだけは言ってあげない】
○村の廃棄施設・焼却炉前
ヤコブ:(N)彼の瞳はいつでも、何もかもを見透かしているようだった。
けれどその日は、いつにも増して何かを……俺の中の奥深くにある何かを、はっきりと見据えているように見えた。
サニ:「夢がある人は素敵だね。あなたの瞳はいつも、炎のように轟轟(ごうごう)と燃え盛っているみたいだ」
ヤコブ:「炎に例えられる瞳なんて、美しくなくて嫌だね」
サニ:「そうかな? 僕にはとても美しく輝いて見えるけれど?」
ヤコブ:「この焼却炉の火を見ても同じことが言えるのかい? 真っ赤になって汚いゴミを燃やしているだけの炎。これを俺に重ねているのなら、君は思った以上に鋭いのかもしれないね」
サニ:「手の届かないような高いところから、誰彼構わずただただ優しく照らしてくれる、月や星の輝きなんかよりも、強い意志を持って目の前のものだけを焼き尽くす炎の方が、僕にはずっと美しく見える」
ヤコブ:「……ふ~ん」
サニ:「あなたのことだよ、ヤコブ」
ヤコブ:「………」
サニ:「(軽く笑いながら)ねえ、聖職者を目指しているのって、……本当にお姉さんに憧れたからなの?」
ヤコブ:「………君といると、隠しておきたいことも何でも見透かされてしまう。…もう隠す気も起きなくなってきた」
サニ:「なら話してくれてもいいよね?」
ヤコブ:「(ため息)」
○ヤコブの自宅
ヤコブ:「俺には確かに、年の離れた姉がいた。彼女を心から慕っていたことも間違いないよ」
サニ:「うん」
ヤコブ:「…その姉が、何故亡くなったのかは軽く話したけど、覚えているか?」
サニ:「…二十年に一度の、豊作の神への捧げものに選ばれた」
ヤコブ:「そうだ。……表面上は、な?」
サニ:「…?」
ヤコブ:「その年に、捧げもの…綺麗な言い方をしているがつまりは生贄だ。生贄に出されたのは、姉だけじゃなかった」
サニ:「……」
ヤコブ:「姉と、もう1人。同世代の若い女性が選ばれ、二人で捧げものとして葬られたんだ」
サニ:「捧げものが、二人…」
ヤコブ:「あぁ。おかしいと思わないか? 何百年と続けられている豊作の神への捧げものは、毎回『若い娘が1人』という決まりだったはずだ」
サニ:「そうだよね。当時は僕も幼すぎてあまりよくわかっていなかったけれど、言われてみれば確かに……子供の頃に、そんな話があった気がする」
ヤコブ:「………もう1人の女性は、……姉の恋人だった」
サニ:「………………え?」
ヤコブ:「神官見習いだった姉は、『聖職者は女神だけに身を捧げる』というしきたりを破って、しかも同性と関係を持っていた。これは、教会では最も重罪とされる禁忌だったんだ」
サニ:「………」
ヤコブ:「………」
サニ:「……え? ………まさか…」
ヤコブ:「……俺は、姉とその恋人が、表向きは捧げものに仕立てあげられて、実は教会に始末されたのだと思っている」
サニ:「………(呆然)」
ヤコブ:「それだけじゃない。教会関係者は亡くなりすぎている。謎の爆発事故や、この村に生息しないはずの野生動物との遭遇で死んだ修道士達には、うっすらと女の影が噂されていた」
サニ:「ヤコブ、あなたは……」
ヤコブ:「俺は……内部から司祭に近付いて、姉の仇を打つつもりだ」
サニ:「………」
ヤコブ:「……サニ、聞いてくれ」
サニ:「……え?」
ヤコブ:「今の話でわかっただろう? 俺は本当は、この関係がバレたらどうなるのかを知っているんだ。教会を追放? 村を追放? そんな甘いもんなわけがない。……俺達の関係が知られれば、始末されるんだよ。俺も……君もだ、サニ」
サニ:「………」
ヤコブ:「俺は、それを知っていながら、君を手放すことができずに、危険と隣り合わせにさせていた。君にどれだけ憎まれても仕方ないと思っている」
サニ:「ヤコブ……」
ヤコブ:「だから、もう…」
サニ:「嫌だよ」
ヤコブ:「……は?」
サニ:「だから終わりにしようだなんて、そんな理由で捨てられるのは御免だね」
ヤコブ:「サニ……」
サニ:「僕はあなたを愛している。だから、僕があなたから身を引くのは、あなたが僕を好きではなくなった時…相思相愛でなくなった時だけだ」
ヤコブ:「だが! このまま俺といればどうなるのか…」
サニ:「関係ないよ。僕はあなたを愛している。だから今あなたが僕を愛しているかどうか、それ以外何も関係ない」
ヤコブ:「………」
○同(夜)
ヤコブ:(N)サニはいつでも、気高く美しかった。こんな風にコソコソと隠れている時でも、その瞳は常に、堂々と前を向いているように見えた。
サニ:『(楽しそうに)恋人っていう甘い呼び名も嫌いじゃないけれど、本妻である女神からあなたを奪っている僕は、もはや愛人だよね』
ヤコブ:『くだらないことを言っていないで、早く来い』
サニ:『…この村が狂っていると悟った時、あなたは聖職者を目指した。……それを知った時、僕は、何故あなただけが他の誰よりも眩しく輝いて見えるのかを悟った』
ヤコブ:『サニ?』
サニ:『僕達は、真逆なように見えて、実は結構似たもの同士なのかもしれないね』
ヤコブ:『?』
ヤコブ:(N)いっそ、復讐など捨ててしまえば……俺が教会を離れれば、この手を放さずにいることが叶うだろう。
……でも、それはできない。それは俺が今日まで生きてきた全ての意味を捨てることになる。
それに……
そうなった俺を、サニは愛してはくれないだろう。
ヤコブ:『おいで…早く。時間がない』
ヤコブ:(N)だから、【いま】がとても大切で、とても愛しくて。罪を重ねることが、やめられなかった。
ヤコブ:『(むさぼるように口づける)』
サニ:『(溺れるように受け容れる)』
ヤコブ:『……サニ…愛してる』
○サニの自宅・玄関ドア前
サニ:「(ドアを開けて)ヤコブ! 来てくれたんだ。今日は会えないんだと思ってた!」
ヤコブ:「……一言だけ、伝えに来た」
サニ:「…え?」
ヤコブ:「さよならだ」
サニ:「………」
ヤコブ:「聞こえなかったのか?」
サニ:「僕達の関係がバレたの?」
ヤコブ:「それはバレていない」
サニ:「『それは』……?」
ヤコブ:「! ……俺は、君に興味がなくなった。もう君のことを愛していない。だから今日でさよならだ」
サニ:「………」
ヤコブ:「君は、俺の人生で邪魔になる時が来たら、いつでも大人しく身を引くと言っていたね?」
サニ:「………………そっか」
ヤコブ:「………」
サニ:「わかった。もう僕に会いに来てくれなくていい。…僕を愛してくれなくてもいい」
ヤコブ:「……話は以上だ」
サニ:「でも」
ヤコブ:「……?」
サニ:「約束、覚えてる?」
ヤコブ:「………」
サニ:「あなたの邪魔になる時には、僕は大人しく身を引く。でも、その時が来ても絶対に……さよならだけは言ってあげない」
ヤコブ:「……あぁ、そんなことも言っていたかもな」
サニ:「だから、そのさよならは受け取れない。返すことができないから」
ヤコブ:「そのこだわりは何なんだ。だが別にいい。言葉なんてあろうがなかろうが同じことだ。今日で俺達の関係はお終いだ。今までありがとう。…君といた時間は、とても幸せだった」
サニ:「……こちらこそ? またね、愛しいヤコブ。幸せになって」
ヤコブ:「………」
○教会・地下・奥の扉前
ヤコブ:「…何ですか? わかっています、ちゃんと入りますよ。少しぐらい物思いに耽(ふけ)ったっていいでしょう? 最後なんですから」
ヤコブ:(N)毎日通った施設の、初めて見る部屋で。…最後に思い出していたのは、彼のことばかりだった。
○回想・ヤコブの自宅(夜)
サニ:『ねえ、ヤコブ? 僕は今も十分幸せだけど、たまぁにね、想像することがあるんだ』
ヤコブ:『ん?』
サニ:『もしも僕達が、どこにでもいる、普通の恋人同士だったらって』
ヤコブ:『………』
サニ:『何も恐れないで、みんなの前で堂々と手を繋いで、明るい太陽の下を、風を切って歩く。それって、どんな気持ちなんだろう、って』
ヤコブ:『サニ……』
サニ:『………なぁーんてね! ほんと、たまにだよ!? さっきも言ったように、僕は今でも十分幸せなんだから。(悪戯っぽく笑いながら)こうやって隠れながら、いけないことしてるんだって思いながら会うのも、とっても楽しいし?』
ヤコブ:『ごめん……』
サニ:『謝らないでよ。それに、ほら! 手なら、ここでも繋げる』
ヤコブ:『あ……』
サニ:『みんなの前でより、このほうが温かいよ』
ヤコブ:『………』
○戻・教会・地下室
ヤコブ:(N)別れを言いに行くだけになってしまったけれど、最後に一目でも会えてよかった。
ヤコブ:「……さよなら、サニ」
サニ:「(遠くから)へぇ~、教会の中ってこうなってるんだ」
ヤコブ:「………………え?」
サニ:「もう、行くってば! 押さないでよ乱暴だなぁ」
ヤコブ:「………」
扉が開く
サニ:「お邪魔しまーす。あ、ヤコブいたー」
ヤコブ:「サニ………? …なんで………………」
サニ:「約束破ったわけじゃないよ? 僕はちゃんとあなたの前から消えたでしょ? まあ、一瞬だったけど。その後たまたまここに連れて来られたんだ。たまたまなんだから仕方ないよね?」
ヤコブ:「なんでだよ……君はここがどこだかわかっているのか!?」
サニ:「教会の地下に人知れず存在した断頭台ステージ。すごいよね、こんなのあったんだ」
ヤコブ:「なぜここに君がいるんだと訊いている!!」
サニ:「あなたはなぜここにいるの?」
ヤコブ:「………周囲に人がいることを知らずに、女神の像を睨みつけていたことから綻びが生じて、…思惑がバレた。これからここで、反逆者として処刑されるところだ」
サニ:「そうだったんだ。僕は教会の人にヤコブの愛人ですって言ったらここに連れて来られたんだよ」
ヤコブ:「はっ!?」
サニ:「だから僕も一緒。どう? 安心した?」
ヤコブ:「司祭様!! 私はこんな奴と何の関係もありません!! 彼を追い出してください!!」
サニ:「酷いなぁ。僕はちゃんと約束守ったのに」
ヤコブ:「(小声で)ならなぜまだ愛人だなどと言うんだ!! 俺が何のために…どんな思いで……!」
サニ:「…あなたはしっかりしているようで、案外抜けているから。いつかこうなることも、何となく予測できたんだ」
ヤコブ:「彼は無関係です」
サニ:「関係者です。僕はヤコブの愛人ですから」
ヤコブ:「サニ!!」
サニ:「ほら。とても他人同士には見えないでしょう?」
ヤコブ:「関係ないと言うんだ!! じゃなきゃ君まで!!」
サニ:「そうなるために。ずっと決めていたことなんだからね」
ヤコブ:「だからさっきから何を言っているんだよ!?」
サニ:「僕はまだ、あなたとさよならしていない。だからあなたとの関係は終わっていない」
ヤコブ:「………」
サニ:「そのために、この日が来た時のために、決めていたことなんだから」
ヤコブ:「君は……」
サニ:「言葉なんてあろうがなかろうが同じことだって、あなたは言ったけれど。僕は言葉に誓いをかけた。さよならを言わない限り、あなたが僕の元を去っても、僕達はずっと繋がったままなんだ」
ヤコブ:「お願いだ……関係ないと言ってくれ……君までついて来る必要はないんだ……」
サニ:「……僕のこと、本当に大切に思ってくれているんだね。『もう愛していない』って、やっぱり嘘だったんだってわかって安心したよ」
ヤコブ:「サニ……」
サニ:「だから、またいつかどこかで会おう。あなたとまた会えるなら、それがこの世かあの世かなんて、些細なことさ」
ヤコブ:(N)断頭台の上で。…俺の隣で。
彼は【最期まで】、毅然とした態度を貫いていた。
サニ:『だから言ったでしょ? さよならだけは言ってあげないって』
ヤコブ:『………』
ヤコブ:「そうだな! いつかまた、どこかで会おう」
END
ヤコブ:「彼は無関係です」
サニ:「関係者です。僕はヤコブの愛人ですから」
ヤコブ:「サニ!!」
サニ:「ほら。とても他人同士には見えないでしょう?」
ヤコブ:「関係ないと言うんだ!! じゃなきゃ君まで!!」
サニ:「そうなるために。ずっと決めていたことなんだからね」
ヤコブ:(N)断頭台の上で。…俺の隣で。
彼は【最期まで】、毅然とした態度を貫いていた。
○ヤコブの自宅(夜)
ヤコブ:(N)この村は狂っている。
そう悟った時、俺は聖職者を志した。
サニ:『この村では、聖職者はその身を女神だけに捧げることを誓わなければならない。…つまり、生涯純潔を守り続けなければならない。でしょ?』
ヤコブ:『あぁ。そうだよ』
サニ:『(含み笑いで)なら、今しているこれは何だろうね。バレたらどうなるの?』
ヤコブ:『それは……わからない。たぶん、教会を追放されて……村からも追放、かもしれない』
サニ:『司祭になる夢はいいの?』
ヤコブ:『捨てるつもりはない』
サニ:『矛盾してるって言われない?』
ヤコブ:『だから。……バレないようにやる』
サニ:『(含み笑いで)甘いんじゃないのかなぁ』
ヤコブ:『大丈夫だよ』
サニ:『本当に?』
ヤコブ:『君は俺と別れたいのか?』
サニ:『まさか』
ヤコブ:『違うならなぜそんなことばかり…』
サニ:『愛しているからだよ』
ヤコブ:『………』
サニ:『愛しているから、あなたの捨てられないものも理解しなければいけないと思ってる』
ヤコブ:『サニ……』
サニ:『…だからね、これから先、僕の存在があなたの邪魔になるようなら、僕はちゃんとあなたの前から消えるよ』
ヤコブ:『そんなこと……』
サニ:『でも』
ヤコブ:『……?』
サニ:『……でも、覚えておいて。消えてあげる時にも…ひとつだけ、決めていることがあるから』
ヤコブ:『………』
サニ:『僕は、いつかあなたから身を引いても、絶対に………』
サニ:【さよならだけは言ってあげない】
○村の廃棄施設・焼却炉前
ヤコブ:(N)彼の瞳はいつでも、何もかもを見透かしているようだった。
けれどその日は、いつにも増して何かを……俺の中の奥深くにある何かを、はっきりと見据えているように見えた。
サニ:「夢がある人は素敵だね。あなたの瞳はいつも、炎のように轟轟(ごうごう)と燃え盛っているみたいだ」
ヤコブ:「炎に例えられる瞳なんて、美しくなくて嫌だね」
サニ:「そうかな? 僕にはとても美しく輝いて見えるけれど?」
ヤコブ:「この焼却炉の火を見ても同じことが言えるのかい? 真っ赤になって汚いゴミを燃やしているだけの炎。これを俺に重ねているのなら、君は思った以上に鋭いのかもしれないね」
サニ:「手の届かないような高いところから、誰彼構わずただただ優しく照らしてくれる、月や星の輝きなんかよりも、強い意志を持って目の前のものだけを焼き尽くす炎の方が、僕にはずっと美しく見える」
ヤコブ:「……ふ~ん」
サニ:「あなたのことだよ、ヤコブ」
ヤコブ:「………」
サニ:「(軽く笑いながら)ねえ、聖職者を目指しているのって、……本当にお姉さんに憧れたからなの?」
ヤコブ:「………君といると、隠しておきたいことも何でも見透かされてしまう。…もう隠す気も起きなくなってきた」
サニ:「なら話してくれてもいいよね?」
ヤコブ:「(ため息)」
○ヤコブの自宅
ヤコブ:「俺には確かに、年の離れた姉がいた。彼女を心から慕っていたことも間違いないよ」
サニ:「うん」
ヤコブ:「…その姉が、何故亡くなったのかは軽く話したけど、覚えているか?」
サニ:「…二十年に一度の、豊作の神への捧げものに選ばれた」
ヤコブ:「そうだ。……表面上は、な?」
サニ:「…?」
ヤコブ:「その年に、捧げもの…綺麗な言い方をしているがつまりは生贄だ。生贄に出されたのは、姉だけじゃなかった」
サニ:「……」
ヤコブ:「姉と、もう1人。同世代の若い女性が選ばれ、二人で捧げものとして葬られたんだ」
サニ:「捧げものが、二人…」
ヤコブ:「あぁ。おかしいと思わないか? 何百年と続けられている豊作の神への捧げものは、毎回『若い娘が1人』という決まりだったはずだ」
サニ:「そうだよね。当時は僕も幼すぎてあまりよくわかっていなかったけれど、言われてみれば確かに……子供の頃に、そんな話があった気がする」
ヤコブ:「………もう1人の女性は、……姉の恋人だった」
サニ:「………………え?」
ヤコブ:「神官見習いだった姉は、『聖職者は女神だけに身を捧げる』というしきたりを破って、しかも同性と関係を持っていた。これは、教会では最も重罪とされる禁忌だったんだ」
サニ:「………」
ヤコブ:「………」
サニ:「……え? ………まさか…」
ヤコブ:「……俺は、姉とその恋人が、表向きは捧げものに仕立てあげられて、実は教会に始末されたのだと思っている」
サニ:「………(呆然)」
ヤコブ:「それだけじゃない。教会関係者は亡くなりすぎている。謎の爆発事故や、この村に生息しないはずの野生動物との遭遇で死んだ修道士達には、うっすらと女の影が噂されていた」
サニ:「ヤコブ、あなたは……」
ヤコブ:「俺は……内部から司祭に近付いて、姉の仇を打つつもりだ」
サニ:「………」
ヤコブ:「……サニ、聞いてくれ」
サニ:「……え?」
ヤコブ:「今の話でわかっただろう? 俺は本当は、この関係がバレたらどうなるのかを知っているんだ。教会を追放? 村を追放? そんな甘いもんなわけがない。……俺達の関係が知られれば、始末されるんだよ。俺も……君もだ、サニ」
サニ:「………」
ヤコブ:「俺は、それを知っていながら、君を手放すことができずに、危険と隣り合わせにさせていた。君にどれだけ憎まれても仕方ないと思っている」
サニ:「ヤコブ……」
ヤコブ:「だから、もう…」
サニ:「嫌だよ」
ヤコブ:「……は?」
サニ:「だから終わりにしようだなんて、そんな理由で捨てられるのは御免だね」
ヤコブ:「サニ……」
サニ:「僕はあなたを愛している。だから、僕があなたから身を引くのは、あなたが僕を好きではなくなった時…相思相愛でなくなった時だけだ」
ヤコブ:「だが! このまま俺といればどうなるのか…」
サニ:「関係ないよ。僕はあなたを愛している。だから今あなたが僕を愛しているかどうか、それ以外何も関係ない」
ヤコブ:「………」
○同(夜)
ヤコブ:(N)サニはいつでも、気高く美しかった。こんな風にコソコソと隠れている時でも、その瞳は常に、堂々と前を向いているように見えた。
サニ:『(楽しそうに)恋人っていう甘い呼び名も嫌いじゃないけれど、本妻である女神からあなたを奪っている僕は、もはや愛人だよね』
ヤコブ:『くだらないことを言っていないで、早く来い』
サニ:『…この村が狂っていると悟った時、あなたは聖職者を目指した。……それを知った時、僕は、何故あなただけが他の誰よりも眩しく輝いて見えるのかを悟った』
ヤコブ:『サニ?』
サニ:『僕達は、真逆なように見えて、実は結構似たもの同士なのかもしれないね』
ヤコブ:『?』
ヤコブ:(N)いっそ、復讐など捨ててしまえば……俺が教会を離れれば、この手を放さずにいることが叶うだろう。
……でも、それはできない。それは俺が今日まで生きてきた全ての意味を捨てることになる。
それに……
そうなった俺を、サニは愛してはくれないだろう。
ヤコブ:『おいで…早く。時間がない』
ヤコブ:(N)だから、【いま】がとても大切で、とても愛しくて。罪を重ねることが、やめられなかった。
ヤコブ:『(むさぼるように口づける)』
サニ:『(溺れるように受け容れる)』
ヤコブ:『……サニ…愛してる』
○サニの自宅・玄関ドア前
サニ:「(ドアを開けて)ヤコブ! 来てくれたんだ。今日は会えないんだと思ってた!」
ヤコブ:「……一言だけ、伝えに来た」
サニ:「…え?」
ヤコブ:「さよならだ」
サニ:「………」
ヤコブ:「聞こえなかったのか?」
サニ:「僕達の関係がバレたの?」
ヤコブ:「それはバレていない」
サニ:「『それは』……?」
ヤコブ:「! ……俺は、君に興味がなくなった。もう君のことを愛していない。だから今日でさよならだ」
サニ:「………」
ヤコブ:「君は、俺の人生で邪魔になる時が来たら、いつでも大人しく身を引くと言っていたね?」
サニ:「………………そっか」
ヤコブ:「………」
サニ:「わかった。もう僕に会いに来てくれなくていい。…僕を愛してくれなくてもいい」
ヤコブ:「……話は以上だ」
サニ:「でも」
ヤコブ:「……?」
サニ:「約束、覚えてる?」
ヤコブ:「………」
サニ:「あなたの邪魔になる時には、僕は大人しく身を引く。でも、その時が来ても絶対に……さよならだけは言ってあげない」
ヤコブ:「……あぁ、そんなことも言っていたかもな」
サニ:「だから、そのさよならは受け取れない。返すことができないから」
ヤコブ:「そのこだわりは何なんだ。だが別にいい。言葉なんてあろうがなかろうが同じことだ。今日で俺達の関係はお終いだ。今までありがとう。…君といた時間は、とても幸せだった」
サニ:「……こちらこそ? またね、愛しいヤコブ。幸せになって」
ヤコブ:「………」
○教会・地下・奥の扉前
ヤコブ:「…何ですか? わかっています、ちゃんと入りますよ。少しぐらい物思いに耽(ふけ)ったっていいでしょう? 最後なんですから」
ヤコブ:(N)毎日通った施設の、初めて見る部屋で。…最後に思い出していたのは、彼のことばかりだった。
○回想・ヤコブの自宅(夜)
サニ:『ねえ、ヤコブ? 僕は今も十分幸せだけど、たまぁにね、想像することがあるんだ』
ヤコブ:『ん?』
サニ:『もしも僕達が、どこにでもいる、普通の恋人同士だったらって』
ヤコブ:『………』
サニ:『何も恐れないで、みんなの前で堂々と手を繋いで、明るい太陽の下を、風を切って歩く。それって、どんな気持ちなんだろう、って』
ヤコブ:『サニ……』
サニ:『………なぁーんてね! ほんと、たまにだよ!? さっきも言ったように、僕は今でも十分幸せなんだから。(悪戯っぽく笑いながら)こうやって隠れながら、いけないことしてるんだって思いながら会うのも、とっても楽しいし?』
ヤコブ:『ごめん……』
サニ:『謝らないでよ。それに、ほら! 手なら、ここでも繋げる』
ヤコブ:『あ……』
サニ:『みんなの前でより、このほうが温かいよ』
ヤコブ:『………』
○戻・教会・地下室
ヤコブ:(N)別れを言いに行くだけになってしまったけれど、最後に一目でも会えてよかった。
ヤコブ:「……さよなら、サニ」
サニ:「(遠くから)へぇ~、教会の中ってこうなってるんだ」
ヤコブ:「………………え?」
サニ:「もう、行くってば! 押さないでよ乱暴だなぁ」
ヤコブ:「………」
扉が開く
サニ:「お邪魔しまーす。あ、ヤコブいたー」
ヤコブ:「サニ………? …なんで………………」
サニ:「約束破ったわけじゃないよ? 僕はちゃんとあなたの前から消えたでしょ? まあ、一瞬だったけど。その後たまたまここに連れて来られたんだ。たまたまなんだから仕方ないよね?」
ヤコブ:「なんでだよ……君はここがどこだかわかっているのか!?」
サニ:「教会の地下に人知れず存在した断頭台ステージ。すごいよね、こんなのあったんだ」
ヤコブ:「なぜここに君がいるんだと訊いている!!」
サニ:「あなたはなぜここにいるの?」
ヤコブ:「………周囲に人がいることを知らずに、女神の像を睨みつけていたことから綻びが生じて、…思惑がバレた。これからここで、反逆者として処刑されるところだ」
サニ:「そうだったんだ。僕は教会の人にヤコブの愛人ですって言ったらここに連れて来られたんだよ」
ヤコブ:「はっ!?」
サニ:「だから僕も一緒。どう? 安心した?」
ヤコブ:「司祭様!! 私はこんな奴と何の関係もありません!! 彼を追い出してください!!」
サニ:「酷いなぁ。僕はちゃんと約束守ったのに」
ヤコブ:「(小声で)ならなぜまだ愛人だなどと言うんだ!! 俺が何のために…どんな思いで……!」
サニ:「…あなたはしっかりしているようで、案外抜けているから。いつかこうなることも、何となく予測できたんだ」
ヤコブ:「彼は無関係です」
サニ:「関係者です。僕はヤコブの愛人ですから」
ヤコブ:「サニ!!」
サニ:「ほら。とても他人同士には見えないでしょう?」
ヤコブ:「関係ないと言うんだ!! じゃなきゃ君まで!!」
サニ:「そうなるために。ずっと決めていたことなんだからね」
ヤコブ:「だからさっきから何を言っているんだよ!?」
サニ:「僕はまだ、あなたとさよならしていない。だからあなたとの関係は終わっていない」
ヤコブ:「………」
サニ:「そのために、この日が来た時のために、決めていたことなんだから」
ヤコブ:「君は……」
サニ:「言葉なんてあろうがなかろうが同じことだって、あなたは言ったけれど。僕は言葉に誓いをかけた。さよならを言わない限り、あなたが僕の元を去っても、僕達はずっと繋がったままなんだ」
ヤコブ:「お願いだ……関係ないと言ってくれ……君までついて来る必要はないんだ……」
サニ:「……僕のこと、本当に大切に思ってくれているんだね。『もう愛していない』って、やっぱり嘘だったんだってわかって安心したよ」
ヤコブ:「サニ……」
サニ:「だから、またいつかどこかで会おう。あなたとまた会えるなら、それがこの世かあの世かなんて、些細なことさ」
ヤコブ:(N)断頭台の上で。…俺の隣で。
彼は【最期まで】、毅然とした態度を貫いていた。
サニ:『だから言ったでしょ? さよならだけは言ってあげないって』
ヤコブ:『………』
ヤコブ:「そうだな! いつかまた、どこかで会おう」
END
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・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。タイトル変更も禁止です。
※こちらの作品は男女入れ替えNGとなりますのでご注意ください。
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