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番外編

兄弟(後編)

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 日曜日。
 俺は新宿の人気のあるカフェで、特に会いたいと思っていなかった兄と二人でケーキを食べている。


「ここのイチゴケーキは有名で、一度食べてみたかったんだ」

 とケーキをおいしそうにモグモグする兄。
 こいつ甘党だったのか、なんて思いながらイチゴクリームを口に含む。
 お、けっこうおいしい。

 今度、優里をつれてこようか……でもさっきからまわりの女性客がチラチラとこちらを見てくる。男二人だと浮くかな?
 と考えていると、兄が「そういえば」と話し始めた。


「恋人できたらしいね」

「あぁ」

「白季の姫とだろう?まさか彼が相手だとは思わなかったな」

 張り付けたような笑顔の兄。気色悪い。
 そして当然のように優里のこと知ってんのか。



「なんで知ってんの?なんで今日呼び出した?」

「俺と彼の関係が気になるのか?」

「……」


 返答を無視すると、兄はカバンの中から白い封筒を取り出した。


『黒崎秋夜様』


 美しい優里の字で書かれた兄の名前。
 差出人は『白季優里』となっている。


「見ていいの?」

「どうぞ」



 兄に確認をとってから中を取り出す。
 中身も優里の大変美しい文字が並んでいた。




『黒崎秋夜様

 こんにちは。いきなりの手紙で驚かれたかもしれませんが、これは私的な手紙ですのでご安心ください。
 この手紙を書こうと思ったのはあなたに伝えておきたいことがあったからです。


 今、私はあなたの弟の春樹とお付き合いさせていただいています。すごくラブラブです。

 春樹にきいたところ、あなた方は連絡をあまりとっていないようでしたので、私からお伝えすることにしました。
 なんだかんだ面倒見がいいらしいあなたはきっと今も弟の心配をしているのではないか、と思ったからです。
 これまでのあなた方の詳しい事情は知りませんが、あなたは自分が離れたことで春樹が寂しい思いをしたことを後悔しているのではないか、と。
 だから私はあなたに伝えたいのです。
 これからは私がいるので絶対に春樹を幸せにします。なのであなたは自分の幸せを考えてください。
 調べたらあなたが春樹のためにいろいろ陰でしていたことがわかりましてね。ちなみに月くんはそれに気づいていたそうですよ。気になったので月くんとふたりでこっそり調べました。

 そんなわけで、春樹のことはこちらにお任せください。
 私のことはご存じでしょう?何かあっても春樹くらいは守れるくらいの権力と伝手がありますので。
 ね、安心できるでしょ?

 会いたくなったらいつでもうちに来ていいですよ。春樹は嫌がりそうですけどね。
 そのうち春樹とふたりで青橋に遊びに行きます。月くんによろしくお伝えください。

 白季優里』



 なんだこれ。俺に内緒で兄に手紙なんて送ってたのか。いいな、俺も欲しい…じゃなくて。
 兄のいる青橋よりも格上である白季にいる優里からの手紙。だからこんな口調になっているのか。でも内容は俺のこと。俺の兄に対する完全に私的な手紙。

 あのマリカをやった日の質問はここにつながるのか。
 唯一嫌ってはいない家族。俺も兄もお互い気にしてないふりをしておきながらなんだかんだ相手の身を案じている。そんな相手に連絡した優里もなかなか。

 あぁ。愛されてんな。
 青橋の次男の「月くん」と仲がいいから自然と俺と兄の話になるんだろうけれど。
 ふたりでこっそり調べちゃうくらいには、優里は俺を、月くんは兄を大事に思ってくれている。両親からの愛は全然なかったけど、俺たち兄弟は大切にしたいと思える人に出会って、愛を返してもらえて。

「陰で何してたの?」

「大したことはしてない」

「気になるじゃん」

「か、金をセヤに送ったりとか…」

 目をそらしながら答える兄。
 そうだった、兄はこういう人だった。今面と向かっては恥ずかしいのかもしれないけど、俺には優しい。いい兄だった。

 そっか。俺は生まれたときから兄から愛をもらっていたんだ。なんで気づかなかったんだろう。
 ごめん、

「…ありがとう、兄さん」

 改めて言うには気恥ずかしくなって俺も目をそらしながらそう返した。











 そのあと、優里と月くんの話をして盛り上がった。
 俺よりも先に優里と出会っていた兄は、優里が小学生のときから知っていたらしい。もはやそんなに前なら嫉妬すら起きない……は嘘かも。


 優里のおかげで兄と初めてちゃんと話せた気がする。
 いつもいつも優里には勝てないな。優里は俺のことをかっこいいというけど、優里のほうがかっこいいよ。



 大好きだよ、
 俺も優里のことを幸せにするからね。










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