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本編2
悪意
しおりを挟む前菜から始まり、次々と食事が出されていくコース料理。
とてもおいしいが、全く値段の予想がつかない。食器も割ったらヤバそうだな……これがプライスレス…いや違うな。英語苦手だからわからんけど。
とにかくどれもおいしい。
一応、頑張ってマナーを守るようにして食べているが、俺以外の3人はマナーが染みついているようで、優雅に食べている。
これが上流貴族…本当にそんな感じ。
食事中は主に結城さんが話していて、理央くんとの馴れ初めや、付き合うまでにアタックしまくったことを教えてくれた。
そうやってしばらくたわいのない話をしつつ、のんびりと食事をしていた。
それは俺たちが食後のデザートを食べているときに起こった。
俺たちから少し離れた、理央くんの斜め後ろの方にあるテーブルに、男2人が座って食事をしていた。
特に目立ちもしない普通の客だった。
俺たちよりも早くから食事をしていたようで、先にデザートを出されていたのを見た記憶がある。
俺たちがデザートを食べ始めた頃、彼らは席を立ってこちらに向かって歩いてきた。
その途中、そのうちの1人がカバンからナイフを取り出した。果物ナイフのようなもの。
俺以外の客もナイフに気づいたのか、それをじっと見ていたが、誰も動こうとも声を出そうともしなかった。
いや、驚きと恐怖で動けなかったのか。
まさかまさかである。
そのナイフは明らかにこちらに向かっているようだったが、理央くんも結城さんも後ろから近付いてくるナイフに気がついていない。
春樹は角度的に見えていなかったようだが、俺が声も出さず、なんとか彼の裾を引っ張りながら何かを見ているのに気づいたようで、それがナイフだと確認すると、
「理央くん!!」
と叫んだ。
いきなり大声で名前を呼ばれた理央くんは、ぽかんとしたが、後ろの男たちに気づいた結城さんは彼を抱き寄せる、と同時に理央くんに気づかれたとわかった犯人は焦ったのか、そのナイフを理央くんに向かって投げた。
このままだと理央くんに刺さる!と思った俺は、テーブルの上にあった水の入ったグラスを男の方へ投げた。
valuable でも、priceless でも知らん!!
俺の投げたグラスは見事に男の投げたナイフにヒットし、ナイフは軌道を変え、粉々になったグラスと共に床に落ちた。
良かった。
俺がほっとしているその間に、春樹は犯人の男2人を長い足で蹴り飛ばし、捕まえて座らせる。
おぉ…我が恋人、強くてかっこいい…と惚れ直したところで、理央くんと結城さんの方を見ると、熱い抱擁。
ラブラブですね!よかったよかった。
お店の人の対応は早く、すぐに警察がきて、犯人の男2人を連れていった。
そして俺たちは簡単な事情聴取を受けた。
警察の人には、グラスを投げたことについて
「大胆ですね~!でもそのお陰で怪我がなかったんですからよかったですね~」
という言葉をいただいた。
我ながら無茶なことをしたなと思うが、春樹に「頑張ったね」と、頭を撫ででもらえたので良しとする。
…本当に理央くんに怪我がなくてよかった。
その後、すぐに解散……するかと思いきや、「大事な話がある」という結城さんの言葉で春樹の家(俺の家ともいう)に行くことになった。
…というか結城さんの大事な話って一体?
数時間前の"大事な話"って、食事の誘いだったような?信じていいのか?
と疑いつつ、家のテーブルに4人で座る。
配置はレストランと一緒。
春樹がみんなのぶんのコーヒーを淹れて座ったところで結城さんが話し始めた。
「黒崎、優里くん、巻き込んでしまって申し訳ない」
「いえいえ?」
突然の謝罪。
「今回の事件の犯人、明らかに理央を狙っているようだったけど、まあ本当の狙いは僕だったはず」
「そうだろうな」
結城さんの言葉を肯定する春樹。
はて?
「……結城さん、そんな命を狙われるような何かしちゃったんですか?」
と俺が尋ねると、結城さんはハッとして、「そうだ、言ってなかったんだ…」と呟く。
「あのね、黒崎の恋人だし、巻き込んじゃったから教えるけど…他の人には秘密にしておいてね」
と前置きをして、彼は言った。
「……僕ね、情報屋やってるの。情報屋マリス。界隈では結構有名なんだけどね」
「え?」
情報屋マリス………ですか?
聞き間違いではなく??
「情報屋…?」
「そう、よくマンガとかであるでしょう?金を対価に情報を渡す仕事。たぶん仕事中にどこかで恨みをかったのか、命を狙われたって訳です」
「はあ」
へぇ~そうなんですか…ってなるわけないだろ!!
びっくりなんだけど。彼が"情報屋マリス"だなんて。
「驚いてる?よね…そのせいで危険な目にあわせてごめんなさい。そして、理央を助けてくれてありがとう」
「僕からも。本当にありがとう、優里くん」
頭を下げる2人に、「いやいや、無事でよかった」とつたえる。
むむむ。なんかちょっとヤバそうな人たちと関わっちゃったかもなあ。
というかあれ?
春樹の友人なんだっけ、この人たち。ってことは春樹もそっちに関わりある??
いやいや…そんなはずはない、よね?
と思いつつ、春樹の方をみると何かを深く考えているような表情をしていたが、俺の視線に気づくとにっこりと微笑んでくれた。
かっこいい…まあ、いっか。
I pretended not to notice the irresistible fate.
ーーーーーーー
謎の英語回…
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