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本編1
不器用な二人(後編)
しおりを挟む彼には、一条くんにいつ話しかければいいか聞こうと思っていたのに俺はなにをとち狂ったのか、そのとき
「一条くんの好きなタイプって知ってる?」
と聞いてしまったのだ。
すると空原は目を見開いた後、面白いおもちゃを見つけた子供のような表情で
「お前、優里が好きなのか?恋愛的な意味で」
と聞いてきた。俺は空原からの問いに迷わず、「そうだ」と答えた。
それに自分でもびっくりした。
「へぇ~。天下の黒崎クンが珍しく話しかけてくれたと思ったら好きな相手のタイプですかぁ。しかも優里の。びっくりだわ」
ニヤニヤして俺の腕を人差し指でツンツンしながら言ってくる。
「ところで、優里のどこが好きなんですかぁ?」
興味津々に根掘り葉掘り聞いてきそうな彼に隠しても仕方がないと思った俺は素直にその質問に答えた。
「笑顔がかわいいところ、字がきれいなところ、甘いものが好きなところ、丁寧なところ、背が低いのを気にしているところ……」
「いや、随分ちゃんと見てんな。ほんとに好きじゃん。はぁ…仕方ないな。優里のタイプ、俺が特別に聞いてきてやるよ」
彼がそれをノリノリで言っていたのは俺の聞き間違いではないと思う。むしろ楽しんでいるように思われる。
そして後日、空原はちゃんと一条くんのタイプを聞いてきたようでしっかりと教えてくれた。というのも、一条くんの声の録音を渡してくれたのだ。
なかなかやるなと思って彼を見ると、「俺は黒崎を応援するからな!!」という励ましをくれた。
なんとも心強い応援である。
そこから俺と空原はよく話すようになり(主に一条くんについて)、移動なども共に過ごすようになった。
そして2ヶ月前、やっと一条くんとの対面を果たしたのだった。
突然、告白もどきをしてしまった俺に一条くんは警戒をしているようだったが、俺の誘いを断られることはなかった。
俺のことを嫌っているわけではないらしい。
空原曰く、
「優里は面食いだから、黒崎が押して押して押しまくれば落ちる!」
ということなので、毎日のように一条くんに会いに行くことにした。
昼食は共にしていいという本人の許可もある。
彼の好きな抹茶スイーツを持って会いに行く。
彼はそれを複雑そうな顔をしながらも受け取る。
「ありがとう」というお礼も欠かさずに。
そして俺は彼に呪いのように聞くのだ。
「俺のこと、好きになってくれた?」
最初のうちは「なってない」とぶっきらぼうに言っていたが、最近は少し言い方が違うような気がする。
ーーー彼の中での俺が少しでも変わっているといいな。
そして今日、女性の間で大人気だという"抹茶キャラメルタルトケーキ"を買いに行った。
なんとも甘そうで俺は食べたくないが、もちろん一条くんのためである。
予約などは受け付けてなく、朝から並ばないと手に入れられないものだ。
今日は運悪く、その店の開店時間が30分ほど遅れた。
このままだと一条くんがカフェテリアで昼食を食べ始めるまで10分遅れてしまう。
そう思った俺は途中でタクシーを拾い、急いで大学へ向かったが、いつもよりも5分遅れてしまった。
走ってカフェテリアに向かうと、瞳に涙を溜めながら、大変ご立腹されている俺のお姫様がいた。
「どこ行ってたんだよ、黒崎!!」
ーーーーーーー
黒崎がカフェテリアにちゃんと来てくれたことへの安堵と、いつもは遅れないのに今日に限って遅くて寂しかったんだという思いで黒崎を見たら涙が出てきた。
そして、つい叫んでしまった。
「どこ行ってたんだよ、黒崎!!」
なぜか涙が溢れて止まらない。
俺ってこんなに涙脆かったっけ……
「え、一条くん?どうしたの?」
いきなり泣き出す俺に慌てて俺を抱き締める黒崎。
カオス。
「いつもいる黒崎がいないからぁ」
「あ、ごめんね。待っててくれたの?人気の抹茶スイーツ並んでたら遅れちゃって……ごめんね」
そう言って背中をトントンされる。
なんだ、俺のためじゃん。
大きな黒崎に包まれて安心する。
ぎゅって抱き返すと「い、一条くん?」と、真っ赤になる黒崎。
そうだ喜べ喜べ。
周りに人がいるのはもう気にしない。
泣き止んだ俺が黒崎の胸から顔を上げると、俺をじっと見つめる黒崎と目が合う。
「大丈夫?」
とても心配そうに少し屈んで聞いてくる。
俺は近づいてきた黒崎の顔を自分の両手で挟んで引き寄せ、キスをした。
「俺、黒崎のこと。好きになってた」
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