11 / 12
ほしのかけら(前編)
しおりを挟むチュンチュンチュン……
かわいらしい鳥の鳴き声で目を覚ます。
外はまだ陽が昇って少ししか経っていない早朝。冬なので夏より暗い。
基本的にずっと一人暮らしをしていて自分で毎朝起きていたので、僕の体内時計はなかなかに正確だ。時計を見ると、今まで仕事に行く時とちょうど同じ時間を指している。
本当は使用人であるミラが起こしに来るまでは眠っていてもいいのだろうが、目が覚めてしまったので仕方なく起きるとしようかな。
とはいえ、ここに来て仕事などなくやることがない僕はこんなに早く起きても暇なのである。どうしようかな~と考えながらベッドの中でゴロゴロする。
冬の朝、寒さでベッドから降りられないという現象は、自身のからだを魔法であたためることのできる僕とは無縁である……わけではない。あたためられることとベッドの誘惑的なぬくもりは別なのだからね。
ラトランドの僕の家にあったベッドはそこそこ質の良いものだったのだが、ここのベッドは格別。人をダメにするフカフカ感で、それはそれは深い眠りを誘う。
あ、やばい。久しぶりに二度寝をしそ…………
「おはようございます!いい天気ですね!こちら今日のお召し物です!!」
「!お、おはよう。服ありがとう」
二度寝する寸前にミラが扉をバーンと開けながら部屋に入ってきてくれた。おかげで二度寝をしなくて済んだ。心の中でそのことにもそっと感謝しておく。
朝から元気なミラには、昨日のうちに手伝いは風呂の準備など最低限でよいと伝えてあるが、その最低限の中に服を用意するということを含めておいていた。
僕は今まで仕事以外であまり外出をしなかったからほとんど私服を持っていない。でも、今日はシリウスの知り合いにあるというので下手な格好はできない。そこでシリウスがなぜか大量に事前に用意してくれていたという服を着ることにしたのだ。
「わあ、きれいな色だね」
彼女に渡されたのは薄水色のシンプルなシャツと黒のズボン。手触りがとてもいいのでシンプルだけど高級品だろう。センスがいい。
その服を身に着け、ダイニングに向かうとすでにシリウスが座って待っていた。
「おはよう、ルシア」
「おはようございます」
「その服、ルシアにとても似合っている」
「手触りがよくてとても気に入ったよ。用意してくれてありがとう」
似合っていると褒めてくれたことに嬉しくなって顔が緩むのを懸命に隠しながらシリウスの目の前に座り、朝食をとる。
僕の後ろには昨日紹介された護衛のチカが立っている。もう朝食は食べたのかな?
「シリウス、今日はどなたに会うの?」
「私の古くからの友人のガードナー公爵夫妻だ。ルシアを早く紹介したくて、昨日ルシアが来たと聞いてからすぐに会う約束をしたんだ」
「公爵家!?王様の次は公爵様?」
「そんなに緊張しなくて大丈夫だ。これから付き合いが増えるだろうからとりあえず先に会うだけだから」
ガードナー公爵家。ウィンター王国にあるもう一つの公爵家。第二騎士団を任されていて、領地は首都アルケスの西側に位置している。僕が首都に向かうときに通っているが、なかなかに栄えている領地のようだった。
ローズブレイド公爵家の領地はアルケスの東側に位置しているから、二つの公爵家がちょうどアルケスを挟んでいる。なのでガードナー公爵夫妻と会うのはアルケスにある有名なカフェらしい。お昼前に待ち合わせだというので馬車に乗り、シリウスに案内してもらいながら領地を見て回ってゆっくりと目的地に向かうことになった。
「このあたりにはたくさんの店がある。ルシア、何か気になる店があったら言ってくれ」
公爵家の領地は大きく3つに分けられる。首都に近い高級街、公爵邸に近い庶民街、そして騎士団管理の地。
首都に近いところは首都からの客を相手にすることが多く、高級な物を扱う店が多い。公爵家のものはこういったところで買っているらしい。
それに対し、ほとんどの領民は公爵邸を囲むようにして住んでいる。なのでそのあたりには日用品や比較的安いが質のいいものを扱う店がたくさん並んでいる。庶民派代表の僕はこっちのほうが気になるけれど、僕は買い物があまり得意ではない。でも一応気になる店があるかもしれないとぼーっと馬車の外の街並みを見ていると、シリウスがいきなり馬車を止めるように言った。
高級外の店の前で僕とシリウスは馬車を降りた。
17
お気に入りに追加
87
あなたにおすすめの小説
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。
悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。
三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。
何度も断罪を回避しようとしたのに!
では、こんな国など出ていきます!
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる