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使用人
しおりを挟む公爵邸内に着くと、中にはずらーっと一列に並んだ使用人たちがいた。
玄関ですらこの装飾の多さ。キラキラと輝く黄金の柱。大理石っぽい床。二手に分かれた大きな階段。
さっきからすごいとしか言っていないような気がするけど、本当に貴族すごい。一応僕も貴族にはなったけど、一人暮らししてたからこういった高級そうなものを見慣れていないのだ。
僕が目の前の使用人たちじゃなく、邸内の装飾に気を取られていると
「おかえりなさいませ」
一番手前にいた初老の男性が僕たちに声をかけてきた。
「ただいま」
シリウスがそう返すと、男性は僕のことを見ておずおずとシリウスに尋ねた。
「こちらは…」
「あぁ。事前に伝えていた彼だ。ルシア、彼が執事長のセバスチャンだ」
執事長が優しそうな男性であることに僕は安心して挨拶する。
「初めまして。ウォレス公爵家から来ました、ルシアです。どうぞよろしくお願いします」
「執事長のセバスチャンでございます。セスとお呼びください。ルシア様、いえ奥様とお呼びしたほうがよろしいでしょうか」
「あ~いや、どちらがいいんでしょうね」
まだ正式に結婚してはいないんだよな、確か。
結婚式ももうちょっと先の予定だし、さすがにこれは僕じゃ決められないなと、シリウスに視線を送ると、
「ルシアの好きにしたらいいんじゃないか?」
と少し意地悪そうに言われた。なんで僕が決めるのさ。
「えーっと、じゃあ今は名前で」
「かしこまりました。ルシア様と呼ばせていただきますね。そして、こちらがルシア様付きの使用人です」
セスの言葉で、セスの後ろから現れたのは細身で赤髪の女性……女性。”奥様”という立ち位置になれど、僕はれっきとした男である。僕付きになるのは男の使用人じゃないのかい?
「ミラと申します!ルシア様のために一生懸命頑張りますのでなんでもお申し付けください!よろしくお願いします!!」
なかなか元気そうな子のご登場。仲良くできるといいな。
「ウィンター王国のことはあんまり詳しくないからいろいろ聞くと思うけど愛想をつかさないでね。よろしくね、ミラ。頼りにしてるよ」
「はい!!!!!ありがとうございます!!まずお部屋をご案内しますね」
シリウスとそのまま玄関で別れて、ミラについていく。
案内された僕用の部屋はきれいに整えられ、高そうな家具が並んだとても広い一室だった。その入り口には小さめの箱が二つ並んでいた。
「ルシア様のお荷物がとても少なくて私たちとても驚いたんです。でも、従者の方々はこのくらいが普通だとおっしゃっていて…なんか特別な鞄があるそうですね」
「あぁ、ウィンターではあまり使われないものだっけ。収納魔法がかかった鞄があるんだよ。ほらこれだよ。ここにはたくさんの物が入るんだ」
朝、騎士団の事務所で降りた馬車は、僕たちが王城に向かっている間に公爵家を訪れ、僕の持ってきた小さな箱二つという荷物をおろして帰っていったそうだ。
ミラが信じられないという風に話をするので、部屋で鞄を広げて、その中身を紹介する。
「服、靴、書類、アクセサリー、手紙、パジャマ、タオル、ペン、ぬいぐるみ……」
それらを手で取り出しては、空いていると教えてもらった高級家具の棚の中や机の上、何人もの人が寝られそうなベッドに魔法で動かして投げ置く。
「す、すごいです!!私、魔法なんて初めてちゃんと見ました。ウィンターではあまりいいものとされていませんでしたから。でもこんなにすごいなんて!」
「そう?」
「すごいですよ!一歩も動かずに棚の中に物を片づけられるなんて!!いいなぁ、私も使えるようになりたいな…」
ミラは無邪気に羨ましそうにそう言った。
「ミラ、別にこのくらいなら練習すれば君も使えるよ?」
「え、本当ですか??」
「うん。魔力、多少はありそうだもん。教えてあげようか?」
「いいんですか??ぜひお願いします!」
「今度時間があったら練習しよう」
「はい!」
嬉しそうに飛び跳ねるミラ。
数年前までこっちの国では魔法はよくないものとされてきたから、そんなに急に受け入れられるものかなあ、とある程度彼女のことを警戒しておく。シリウスがそんな怪しい女を雇ってるとは思えないけど、警戒しておいて損はないだろう。
「ルシア様。部屋の確認が終わり次第、騎士団の方々とお会いして欲しいと当主様から伺っておりますが、案内してもよろしいですか?」
「あ、そうなの?うん、お願い」
「魔法を使われたので早く片づけも終わりましたし、ルシア様が早く覚えられるように邸内をゆっくり説明しながら向かいますね!」
まあ、さっきは怪しんだけど、ミラは普通にいい子な気がするな。
彼女が話したとき魔力が揺らいだりしなかったし。
「こんなに広いからね。そうしてもらえると助かるよ」
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