昔会った彼を忘れられないまま結婚します

羽波フウ

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ローズブレイド公爵邸

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 国王とランチをした後、僕たちはローズブレイド公爵邸に向かっていた。これから僕が住むことになるところである。

 ローズブレイド公爵家。ウィンター王国の国王に対し忠誠を誓っており、最も力を持っている家の一つ。家主はシリウス・ローズブレイド。兄弟はいない。
 前公爵妃は病でなくなり、前公爵は不慮の事故で亡くなった。そして10代で家督を継いだのがシリウスである、らしい。

 表面上の情報は国を出る前に一応調べておいたが、どこまでが本当かわからないというのが本音。この世界では家督を継ぐために自分の父親を殺すなど割とよくある話だから。
 とはいえ、出会って数時間ではあるけれどシリウスがそんなことをするような人間には見えないからこれらのことは事実としてとらえていてもいいだろう。


 ランチが終わった後、僕とシリウスには気まずい空気が流れていた。なんて言ったって、あの国王がやらかしてくれたからね!!

「ルシアくん初恋の人いたらしいじゃん」

 とか言い出して、最近まで初恋を引きずってたやつと結婚するんだよ、とシリウスに対して国王は言ったわけだ。
 しかもその情報源がレオだということにも驚くけれど。なんでそんな話をしてくれちゃってるのさとレオに抗議の手紙を書くかな。

 それに関してシリウスはどう思っているのか、そのあと様子をうかがっていたけれどわからなかった。むこうもそれを気にしているのか、僕に対して何も聞いてこなかった。


 そして国王が言っていた、シリウスにも初恋の人がいたというのも気になる。でもそのおかげでなんでこんないい男が結婚していなかったのかという疑問が解決した。けれど、僕と同じように実らない恋だったならいいけど、国のために僕と結婚しなきゃならなくなったのだとしたらちょっと気まずいかな。


 沈黙の時間が長く続く状態で馬車に乗ったまま1時間ほどで公爵邸についた。

 最初に僕が訪ねた第一騎士団の事務所は、とてつもなく広い公爵家の領地の中でも王城に最も近いところにあったので王城まで30分以内だったのだ。今回は公爵家の領地の少し王都から離れている公爵邸なので1時間。長く感じるが、魔法の補助なしの馬車で1時間は相当近い。

 公爵家の領地は最も王城に近い土地で、人口も多いところを与えられる。ウィンター王国にも公爵家が2つあるのだが、シリウスの方は王都アルケスの東側に位置し、もう一つの公爵家は西側の領地に位置していて、僕がアルケスに入るときに通った土地だ。



 シリウスのエスコートで馬車を降りると、そこにはとてつもなく立派なお屋敷が。
 これがウィンター王国の貴族筆頭の家。すごいな。ラトランドの公爵家の息子になったとはいえ、やはり庶民の僕からは貴族としての常識に慣れない。

「すごく立派ですね…」

「あぁ……ありがとう」

 気まずさから、思わず丁寧な言い方になってしまった。
 シリウスから目をそらし公爵邸のほうを見ながら立っている僕の右側にいるシリウスもぎこちなく返答したが、彼はいきなり僕の手を握ってきた。


「ようこそ、ローズブレイド公爵家へ。この家は今日からルシアの家でもある。緊張しなくていい」


 彼は僕のほうに顔を向けて微笑みながらそう言って、僕の手を引いて歩き出した。まるでさっきの気まずさなんてなかったように。


「そうだね。こんなに素敵なおうちに住めるなんて嬉しいな」

 また彼のやさしさに救われちゃったな、なんて思いながらそう返す。

「それは、ルシアのために改装したかいがあったな」

「え?僕のために改装したの?」

「外装も最近の流行りの塗りにかえて、中も明るい色に塗りかえたんだ」

「うそ…」

「本当だが?」

「そんなことまでやるなんて…すごいね…」

 僕が来るからってそこまでやるなんて、さすが貴族というか公爵家。冗談抜きですごいな。だってこの広さだよ。いくらかかるんだか。



 馬車は公爵邸の庭園の入り口で降りたから、きれいに整えられた庭園の中の道を手をつないだまま進む。両脇に並ぶバラの壁は僕の身長くらいあって、全身がバラの香りに包まれているようだ。

「いい香りだね」

「このバラは見た目は普通のと同じだが、実はこの家の固有種で香りが強い。前々公爵妃がバラ好きだったからそのときの公爵が、このあたりの庭園の一面をバラに変えたらしい」

「ロマンチックだね、愛する人のためにバラ園を作るなんて」

「ルシアが望めば私もそれくらいするつもりだが?」

「……」

 は?は?は?
 何言ってんのこの人?出会ってまだ一日も経ってないんだけど?
 さっきの外装の件も含めてこういうことがさらりと言えるとは、やはりタラシ?なにか企んでる?それとも僕のことが好k……


 ………………いや、冷静になれ僕。そんなはずがないじゃないか。
 きっと国王の言っていた初恋の相手をずっと引きずってるってやつにつながるんだ。僕を愛さない代わりに不自由ない生活をさせる、的な。
 それだ、多分。我ながらなかなかいい答えが出せたんじゃないか?

「それは…ありがとう」

 学生時代からすっかり身についてしまった作り笑いを浮かべながら、彼にそう返す。
 感情を悟られないように。何も気づいてないかのようにふるまえばいいんだから。
 そう、これは政略結婚。

 つまり、僕という一人の人間の命をかけた外交。


 せっかく夫夫ふうふとなるんだから素の僕で仲良くなりたいって思ってたけど、落ち込むくらいなら期待なんてしなきゃよかった。
















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