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ランチ会
しおりを挟むレオというラトランド国王の最側近として、いやその前に公爵家の三男として、一通りのテーブルマナーを学ばされ何度もパーティで実践させられてきたが、今がこれまでで一番手が震えている。
うーん!!ほんとに。全然きれいに取れないぃ!
昼間から殻付きのエビとか出さないでくれないかなぁぁ!!!
すごく苦手なんだよね、殻ある系。こんなの魔法を使えば中身が一瞬で取れるというのに、わざわざ手で取らなければならないという苦行を今僕は強いられている。
よって、僕の意識は完全に殻付きエビに向かっている。
国王は今までにレオと会った時の話やら、この国の最近の改革についての話を熱心にしてくれているようだが、僕はその話に適当に相槌を打っているだけでほとんど聞いていない。そもそもその類の話はレオからクドいほど聞いているから。おなかいっぱいだし。
と、心の中では愚痴るけれどもあくまでこれは外交。エビをきれいに食べつつ、表面上だけでも取り繕いたい……
「ルシア、少しそれを貸してくれないか」
「へ?うん…」
国王の話の途中であることを気にしていないかのように僕に声をかけてきたシリウスは、僕が格闘しているエビの皿をゆびさしている。
彼が何をしたいのかわからないまま素直にシリウスに皿を手渡すと、彼は手慣れた手つきでエビの身を殻からとり、食べやすいようにほぐしてから僕にその皿を渡した。
「このエビの殻は独特の構造をしていて取りにくいんだ。配慮が足りなかったな、すまない」
眉を少し下げ、シュンとした様子でシリウスがそう謝った。確かにすごく取りにくかったけどそこまで気にしなくてもいいのに。
彼はそんな僕に気づいて、僕の分もやってくれたのか。優しいな。
「あ、そうなんだね。ありがとう。難しくて困っちゃってたから助かったよ」
彼のそんなさりげない行動に嬉しくなって、僕はふふふと笑いながら感謝を述べる。
すると彼は優しく微笑んでくれた。
「ちょっと、お二人さん?ふたりの世界に入らないで私の話を聞いてよ」
僕とシリウスがにこにこと見つめあっていると国王が話しかけてきた。
「もっと私たちが興味のある話はないんですか?あなた方の話はもういいですから」
くだけた口調になっている国王のかまって発言にシリウスは冷たくそう返すと、国王が待ってましたとばかりに目を輝かせた。
「レオから聞いたとっておきの話がある!ルシアくんが初恋を引きずっていると聞いたんだ。一度小さいころに出会ってから一度も会っていないけど、その人を忘れられなくて結婚どころか恋人すら作れずにいる。だから心配したレオは今回の話をぜひルシアくんにって言ってたんだけど……」
「陛下」
レオは僕のあまり知られたくない初恋のことをウィンター王国の国王に話したのか。この話はレオだから話していたのに。
ちょっと裏切られた気分だなと思っていると、シリウスが国王の話をさえぎった。
「陛下。その話はデリケートであり、この場で話すことではないと存じます」
「…たしかにそうだね。ルシアくん、ごめん」
「いえ」
その話をやめてほしいと言いにくい立場の僕の代わりにシリウスが国王にそう言ってくれた。
結婚相手である僕が、まだ初恋を引きずっているなんてあまり聞きたくない話だからさえぎっただけかもしれないけれど。
でも僕には、それが僕への優しさにしか感じられなかった。
さっきのエビもそう。ここに来るまでのエスコートもそう。僕は男だから本当はエスコートがなくたっていいのに。
シリウスと出会ってまだ数時間しか経っていないのに。
不意打ちに与えられる優しさに胸がギュッと痛む。
痛いけど、苦しいけど、暖かい。
なんだろうな。愛ってやつかな、なんて。
無条件に与えられる親の愛ってやつが僕にはわからないから。愛のひとつの正解すら知らないから。
「シリウス、ありがとう。でも、二人とも気にしないでください。レオが陛下に話した話は事実なので。でももういい歳ですし、そろそろ現実をみて結婚しなきゃって思ってました。そんな時レオがシリウスという素敵な方との話を持ってきてくれて良かったと思っています。初恋ももういい思い出になりました」
何でもないような作り笑いでそう伝える。
思い出なんて嘘。たぶんしばらく引きずる。
だってシリウスの外見があの彼を思い出させるから。
「そうか。シリウスもしばらく初恋を引きずっていたものな?」
「…そうですね」
「これからはふたりで幸せになってくれ、な?なかなかお似合いだから」
国王からの問いかけにシリウスの顔が一瞬ひきつったし、僕もちょっとこの人無神経だなとは思ったけど。
僕たちを励ますように言った国王に悪気はなさそうだった。
そのあとは和やかに、魔法やラトランドの文化について話してランチ会は終了した。
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