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軌跡(後編)

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 そして、通い始めた魔法学校で出会ったのが当時国王になりたてのレオと、その幼なじみのアルだった。アルはラトランドに2つしかない公爵家のうちの一つ、イングラム公爵家の長男だ。

 調査団の人からの強い後押しで強制的に魔法学校に通わされたのはいいが、平民なうえに敵対関係にあった国にいた僕へのクラスでの当たりは強かった。
 ただ僕の魔力量は魔法に特化したラトランドの中でも多いほうで、実技の成績だけは良かったから体を傷つけられるようないじめはなかった。そのかわりに、平民やウィンター王国出身を馬鹿にするような精神攻撃が多くてつらかったのは記憶にある。

 そんな中、いつも成績の上位にいる僕に興味を持ったレオが話しかけに来てくれた。


「こんにちは、私はレオナルド。レオって呼んでね。こっちはアル。私の幼馴染だ。魔法が上手だという君とぜひ友達になりたいな」

 当時一般常識すらまともに知らない僕は、そう声をかけてくれたレオが国王だなんて知らなかったために

「いいよ、僕はルシア。レオ、アル、よろしく」

 なんていきなりため口で話してしまい、周りの人たちが卒倒していた。


 そんな始まりだったので

「久しぶりに自分自身を見て話してくれる人と出会えてうれしかったんだよね。敬語を使わない普通の友達に、親友になってくれてありがとう」

 そう彼に言ってもらえるほどの仲になったわけだ。

 3年間の学校ではずっと最上位の成績を維持し、レオとアルの友人として過ごしていた僕は、実力を認められ、平民ながらもレオの両親からレオの側近候補として考えられるようになっていた。
 そして魔法学校を卒業をするとき、レオの両親とレオ本人からの強い勧めで魔導騎士団に入った。
 また同時に、ラトランドのもう一つの公爵家であるウォレス公爵家の養子になることも勧められ、お義父様、お義母様、オリバー義兄様、エルマー義兄様という温かい家族ができた。快く迎え入れられ、みんなから可愛がられる末っ子になった。


 で、現在に至るというわけだ。
 なかなか平民だったとは思えないほどの出世だろう。僕は今、公爵家の三男になってしまった。
 虐待を受けていたあのころからは考えられないね…




 そんなこんなで過ごしているうちにいつの間にか結婚できる18歳になっていた。その年には仕事で忙しいながらも週に一回程度、転移魔法で故郷エウテルペに戻って宿に泊まったり、観光したりしたが、結婚の約束をしていたあの彼には会えなかった。


 そして20歳になった。
 でもまだ、僕にはちゃんとした婚約者はおろか恋人すらいなかった。公爵家の三男になったから相手の候補がいないわけではなかったけれど、あの彼を忘れられず、恋人をつくる気にはなれなかった。
 20歳になっても婚約者すらいないというのはなかなか遅く、身を固めていないことを意味する。

 そのうち、レオの側近でありながら恋人すらいないのはどうなんだ、と貴族たちに言われるようになって、仕方なく恋人探しをしているうちにレオがマッチングの話を僕に持ってきたのだった。


 レオに聞いたマッチング決定までの両国の話し合いをまとめると

「魔力多い人と少ない人偏りすぎてるよね」
「一つの国で魔法使いの数と軍人の数を同じくらいにしたいよね」
「じゃあ国際結婚させればよくない?」
「そうしたら子供も魔力増えたりするかも、いいね!」


 というわけでマッチングという制度が始まることになったらしい。意味不明。

 いきなり始めてもみんな嫌がるだろうからまずは国の上層部から、となって僕に話が回ってきたというわけだ。
 本当は性格や趣味を記入したシートで相性を判断するらしいが、たまたまウィンター王国側にもまだ恋人もおらず、結婚もしていない人がいるということで勝手に組まれてしまった。

 アルもまだ恋人すらいない状況だったが、アルは公爵家の長男だということで今回のマッチングは除外。言い方は悪いが犠牲になったのは僕だった。


 そして今日、僕は一回もあったことのない人と結婚する。
 お相手の名前は、シリウス・ローズブレイド公爵。ウィンター王国で第一騎士団長を務めているらしい。
 名誉ある職業で、公爵。なんで結婚していなかったのか謎だ。
 性格に難があるのかね?



 馬車に乗ってる間、僕はずっと考えていた。はぐらかされた彼の名前を。
 ヒントとして彼は自分の名前を「星の名前」だと言っていたけれど、どういうことなのか。
 スターリn…違うな。
 ステラ?
 ホッシーとか?

 これまでに何度も考えてきたけれど、答えがわからない。

 あの彼の名前くらいは知りたいという思いがあって、きっかけを見つけるために今回のマッチングの話を受け入れた。
 本気で嫌だと言えばレオだって今回のことを強制したりはしなかっただろうから。でも、せめて物理的な距離だけでも彼に近づきたくて。

 時間が経ってもまだ彼への想いをあきらめきれていない自分がいる。
 あきれるね。




 これまでの人生と彼のことを考えているうちに、いつの間にか馬車はウィンター王国に到着した。













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