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10.二日目:狐ノ介

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「――娘……お狐様へ嫁入りしその後? かな?」

 墨の文字を指で辿りつっかえながら読み進めていく。読めない部分も多々あるが、初代については大体分かった。
 どうやら初代「狐ノ介」はこの家が招いたお狐様で、娘が嫁入りしたらしい。そして跡継ぎの子供が産まれ代を譲ると、狐ノ介と嫁は突然若い頃の姿へ戻り、二人でどこかへと消えてしまったらしい。

「自由だなぁ……初代。……その後は特に大きな事はなかったのかな。ああ、祠は二代目が建てたんだ」

 消えてしまった父親を祀る気持ちだったのだろうか。それとも守護の力でも置いて行ってくれたとか?

「銀はいつ出てくるのかな……」

 呟いて、ハッとした。
 もしかして銀も、初代と同じ様にこの家の娘を嫁にした?

「いや、それはないか。井戸神さんが銀は嫁を取らないって言ってたし……ああ、そうか。嫁取りは『百年毎の習わし』って言ってたから、百年後を見てみよう」

 家系図を辿り見慣れない元号とスマホの年表を照らし合わせて見る。百年後は大体1620年……『寛永』だ。

「あ、これ聞いたことある。江戸時代じゃない? ああ、家光の頃なんだ。えっと、当主は……『狐ノ介』!? はぁ!?」

 また初代のお狐様? どこからか戻ってきて、またこの家に婿に入ったの? え、じゃあ連れ去ったお嫁さんは?

「……この時の嫁の名前は……あーまた書いてない。ほんっと昔ってなんで『女子』としか書いてないかな」

 この『狐ノ介』が何をしたくて戻って来たのかが分からない。記録はどうなっているのか……。

「……うわ、この狐ノ介すっごい長生き。百歳くらいまで生きてる? えっと、で……『当主、狐ノ介。銀の子狐を連れ、祠へ祀る……』」

 これ、銀のこと? ああ、この頃は『享保きょうほう』だ。1716年~1736年って書いてあるから、丁度三百年くらい前。
 もしかして初代の元で修行をしてた? そしてここの『お狐様』を継いだの?

 私は記録を辿る。どうやらこの二人目の『狐ノ介』が『十年に一度のおもてなし』に加え、『百年毎の習わし』を定めた様だ。
 銀がお狐様になっただろう時の当主の名前は『銀』ではない。ということは、銀は狐ノ介とは違いやっぱりお嫁さんを貰ってはいないんだ。

「ああでもほんと……この家、ずーっと途絶えず続いてきたんだ。こんな山奥で五百年も……すごいなぁ」

 しかしその歴史ももう終わる。私はこの家の直系ではないし、名前も違う。多分、ここの最後の当主はお祖母ちゃんだ。お祖父ちゃんはお母さんが子供の頃に亡くなっているのだ。

「――『以来、嫁御よめごを『世話人』とし』……『十年に一度のおもてなし――お狐様がご所望される物を差し上げることを』……」

 駄目だ。虫食いや墨が滲んでしまって駄目になってしまっていてよく読めない。だけどページの最後の方、辛うじて読める部分に気になる一文があった。

「『お狐様は百年……山へ……』? ああ、駄目だ。滲んじゃってて読めないや」

 保管の仕方が悪かったのか、もしかしたら昔の火事のせいかもしれない。他にも何かないかと色々探してみたけど、これ以上の情報は今日は見つからなそうだ。

「……まぁ、何となくは分かったかな」

 井戸神さんが『世話人』である私に言った『嫁入り』っていうのは、仲人的なことじゃない。
 書付けの内容に加え、家系図の表記を見ていけば、代々の世話人が当主のお嫁さんなのは明らかだ。

 はぁ。

 私は白い息を吐く。

「嫁入りするのは世話人本人かぁ~。神様やらなんやらに嫁入りって昔話にはよくあるけど……」

 今まで続いていただなんて。世話人もこの家の嫁も、きっと色々を定めたのはあの人。

「――狐ノ介、か」

 この初代から百年後に再び現れ、そして銀に継がせたのがそのまた百年後。その後はずっと銀が守護をして、そして今が銀にとって三百年目。

「狐ノ介さんは、どうしていなくなってしまったんだろう? 今はどこにいるんだろうな……」

 それから、そのお嫁さんも。
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