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【第三部】第一章 新生活のはじまり

14 『白糸花』

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 やがて滝壺と呼ばれる水源に辿り着く。辺り一面は真っ白だ。白っぽい岩が半円のドーム状に立ち囲んでいて、見上げれば空と途切れた滝が見える。

「うふふ。あんまり口を開けてると水が入るわよぉ? 飲んでも大丈夫だけど、どこからきた水か分からないわぁ」

 その言葉で僕らはパッと口を閉じた。
 そうなのだ。ここはとにかく湿度が高い。というか霧雨が降っているようなものだ。

『王様のコート』のおかげで濡れずに済んだけど、本当なら髪も服もぐっしょり濡れてただろう。はじいた水が皮膚の上で玉になってるもんね。
 滝が高すぎる場所から落ちてくるせいで、その水は地面まで届くことなく空中で霧散し、水蒸気となりこの場に立ちこめている。

 迷宮の中とは思えない場所だ。広さも、地形も、この水も! 本当に水なんてどこから来ているんだろう? 分からないことだらけ。
 でも、不可思議なこれが迷宮なんだよね。そういうものだ。

「にゃ~ベアトおねーさん、白糸花ってどこにあるにゃ? 真っ白で分からにゃいにゃ~」
「うふふ。その真っ白なのが『白糸花』よぉ。よ~く見てぇ? 岩から白いものが垂れてるでしょう? それが白糸花よぉ」
「えっ……あ、本当だ!」

 高い岩場のあちこちから白い蔦が伸び、そこには糸が集まったような花も見える。白い岩じゃなかったんだ!

「これはいい繊維が採れるのぉ。紙や布に使うことが多いわぁ。使い勝手のいい無属性の素材よぉ」
「無属性! 珍しい~……!」

 僕は近くに寄って見上げる。
 無属性は特別相性のいい属性がない代わりに、相性の悪い属性もない。だからどんな素材とも組み合わせることができる便利な属性だ。

「でもこれ、岩に上らないと採取できなそうね」
「ククルル上れそうにゃ気がするけど……ちょっと高すぎて怖いにゃ」

 あ、リディとククルルくんの耳が揃って下がってる。
 うーん。

「僕もこの岩を上るのはちょっと……難しそうかなぁ」

 ツルツル滑りそうだし、ちょっとハズレで岩場から落ちたことを思い出して怖い……っていうのは内緒だ。

「ねえプラム、届きそう?」

 僕は上目遣いで頭上のプラムに聞いてみた。

『プルルン!』

 するとプラムはどんと胸(?)を叩き『まかせて!』と言うと岩に向かってピョーンと跳んだ。
 やった! ここはプラムの出番だ!

 ビョンビョン跳びながら岩場を上り、手(?)を伸ばして白糸花を刈り取っていく。
 そしてあっという間に真っ白な蔦の山ができた。

『プルルルン!』

 ビョンビョンと伸び縮みして、『たくさんとれた!』と胸を張る。が、僕はこっそりベアトリスさんに聞いてみた。

「ベアトリスさん。これ、こんなに採っちゃって大丈夫でしたか……?」

 真っ白だった岩場が、一部だけ真っ黒な岩の色に変わっている。

「心配ないわぁ。これ、どんどん増えるからごっそり採って平気なのよぉ。私も結構採取したしぃ。うふふ」
「えっ、いつの間に……でも、よかったぁ」

 ベアトリスさんが何も言わないから大丈夫かな? とは思ってたけど、もしかしたら弟子を試してるとこかもしれない!? って不安になっちゃった。

 僕にとって白糸花は、全く馴染みのない知らない素材だ。
 薬に使う素材は勉強して知ってるけど、そうじゃない素材は知らないものも多い。でもこれからはそれじゃ駄目だ。
 迷宮城で採れる素材のこと、もっと勉強しよう!

「今日の目的素材はこれで完了ねぇ。でも、せっかく来たんだものぉ。回復ポーションの素材も採りたいわよねぇ?」
「はい!」
「できれば!!」

 僕とリディの声が重なった。
 基本素材になる『日輪草』や『不忍草』『黄金リコリス』はどれだけあっても困らない! 

「それじゃ、そうしましょ。不忍草は大玻璃立羽の虹羽を採取した辺りがいいわぁ。日輪草も少し歩くと湿地じゃない場所があるからぁ、そこで採取していきましょ。黄金リコリスもそこにあるはずよぉ」

 やった! これで新商品キラキラポーションの開発もできる。
 もう店の工房に残りがほとんどなかったんだよね。売店最終日に品切れがないようにって、限界までポーションを作ったからね……

 ところで、たくさん採取した後に大変なのは、それをどう持ち帰るかだけど――今日はそんな心配は全くいらなかった。
 僕以外の皆が『収納バッグ』持ちだったんだよね。贅沢……!
 たくさんの採取袋は、ククルルくんの鞄、リディのポーチ、それからベアトリスさんのにしまわれた。

 僕、内ポケットが収納バッグになってる服なんて初めて見たよ!?
 そう驚いていたら、ベアトリスさんは「ふふふ」と白いローブをひるがえし意味深に笑った。

 おやつ休憩の敷き布といい、ベアトリスさんのローブには他にも秘密がありそう……
 ミステリアスな錬金術師っぽくて格好いい!!

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明日から第2章です!
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