Strong Baseball 主砲の一振り 続編5

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ペナント真っ只中

投の秘密兵器に、打の秘密兵器!

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寶井の後を受け、真咲は得意の緩急を使ったピッチングでブレーブス打線を翻弄する。


対する高山もバックの守りに助けられながらもGlanz打線を封じる。


0対0のまま、8回の表へ。


この回先頭の中山がライト前に運んで2本目のヒットを放つ。

7番毒島はボールをよく見てフォアボールで出塁。


ノーアウトランナー一塁、二塁となり、8番ジョーンズの打席に櫻井は動いた。


「財前くん、頼んだよ」


財前に言葉を掛けると、審判に代打を告げた。


【Glanzぅ、選手の交代をお知らせしまぁす!8番ジョーンズに代わりまして~、財前!8番指名打者ぁ、財前~、背番号3~】


ここのウグイス嬢はどんな顔してアナウンスしてるのだろうか。


まぁ、それはさておき、代打財前がコールされた。


今年は助監督という立場からか、ド派手な出で立ちは封印している。

黒に染め直した短髪、左右別のカラコン、シルバーアクセサリーを外し、膝下までストッキングを見せるクラシックスタイルのユニフォームを着こなす。


「さぁて、一発カマしてくるかな」


目の状態は一時期に比べると回復に向かっている。


「お~い、チョット待った!」


「ん?」


振り返ると、畑中打撃コーチが黒のバットを手にしている。


「財前、このバットを使え」


「バット?オレはいつもこのバットを使ってるじゃん」


財前はメイプル産のミドルバランスを使用している。


「いいから、このバット使ってみろよ」


「…何だ、これ?軽いバットじゃん」


畑中が渡したバットは850gとかなり軽い。


「その方がお前に合ってるぞ」


財前のバットは930gと重い。


「軽過ぎだなぁ…大丈夫かなこれで」


「問題ナッシング!このバットでスタンドに叩きんでやれ!」


ワハハハハ、と笑いながら畑中は背中をパシーンと叩いた。


「こんな軽いバットで打てったって…」


戸惑いながら財前は右バッターボックスに入った。



マウンド上では内野陣が集まっている。


「高山くん、ここが踏ん張りどころだ!
ここを抑えたら勝利は目前だ」


「ハ、ハイ!」


「ヨシ、上原くんと青島くんは左寄りに守ってくれ、いいな?」


「ハイ」

「了解!」



ショートの青島がサードとショートの中間を守り、セカンドの上原がショートの定位置で守るシフトを敷いた。


「はは~ん、オレ用のシフトってか…面白ぇ」


ニヤッと笑うと、右打席から左打席に移った。


「えぇぇ!何で左打席に?」


「マジかよ…」


「左に対して左打席って…アイツ、アホだろ!」


「フフフ、これは面白くなりそうだ」


普通スイッチヒッターは相手投手が右だと左打席に、左投げだと右打席で打つ。


それに対して財前は高山が左投げにもかかわらず左打席に入った。


「オレが投の秘密兵器なら、アイツは打の秘密兵器…
これで勝てなきゃ、優勝は夢のまた夢…かもな」


真咲はベンチ前でキャッチボールをしながらその様子を見ている。


(三遊間を狭めたシフトに対抗して左打席に入ったんだろうが、それだけじゃ高山くんを打ち崩す事は出来ない!)


結城が編み出したフォーメーションはデータを駆使したシフトで、アウトの確率は約86.7%


圧倒的にピッチャー有利のシフトを敷いている。


「どうせアウトコースにしか投げないんだろうが…アウトコースだけじゃオレを抑える事は出来ないぜ」


財前はバットの先端を高山に向けた。


「おい、ルーキー。
プロの厳しさを教えてやるよ」


「…プロの厳しさ?左ピッチャーに対して左打席がプロの厳しさなのかよ、あぁ!」


高山も並のルーキーではない。


向こう気の強さはプロ顔負けだ。



「へ~、言うじゃねぇかよ、ヒヨっ子が」


「上等だ、打てるもんなら打ってみろや!」


高山が初球を投げた。


アウトローへ148km/hのストレートが唸りを上げる。


「…これで勝つ!」


財前は肉眼では捕えられない程の速いスイングで弾き返した。


打球はライトへグーンと伸びる。


ライト鴻上が懸命にバックする。


「アウトローのストレートを引っ張ってライト方向に打つとは…」


結城は打球の行方を追う。



鴻上がフェンス手前でジャンプ、グラブを差し出す。


だが打球は鴻上の頭上を越えてスタンドに入った。



「ヨシ、この試合勝ったぞ」


櫻井は確信する。


「ウォォ、スゲー!さすが財前さん、カッコイイ!」


「助監督、ナイスバッティング!」


「やったー、ホームランだ!」


ベンチでは蜂の巣をつついた様に大騒ぎしている。


「ウソだろ…オレの渾身のストレートを引っ張ってライトスタンドなんて」


高山は膝から崩れ落ちると、ガックリ項垂れた。


「よぉ、ルーキー!いい球だったぜ」


ベースを回りながら高山に声を掛けた。


「…」

高山は項垂れたまま動かない。


財前の代打勝ち越しスリーランでGlanzが3点を先制した。



「投げる方では真咲さん、打つ方では財前さんと2人の曲者にやられた…
さすがだな、でも次は必ず勝つ」


ブレーブスは出来たばかりのチームで発展途上…

これから色んな経験を積んで強くなっていく。


結城の表情は晴れやかだった。



この3点が決勝点となり、Glanzは3対0で完封勝ちした。

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